新4巻 結衣の告白

新4巻 結衣の告白

結衣が八幡に告白し、新しい結衣と雪乃と八幡の関係性が成立する。

interlude 遺憾ながら、彼女の前には山積みのタスクがある。vol.N4, p.004

話者いろは。副会長と書記を進展させる。

あそこが、あの部室が、わたしの居場所だって呼んでいいかどうか、ちょっと微妙。vol.N4, p.006

例えば八幡の 「やらないよ?ていうか、なんで君いるの?部員じゃないでしょ?」vol.N1, p.050 という態度がいろはの疎外感を刺激していた、まちがっていた、ということ。

但しいろはが疎外感を覚える理由は八幡のまちがいだけではない。 少なくとも、昔のわたしは思っていたのだ。わたしを含めた異分子をそこに入れたくはないと。vol.14.5, l.2445

回収あるいはこの疎外感の払拭は 「部員の証? 的な感じで使って」vol.14.5, l.2532 / 「違ったんだ……」vol.14.5, l.2578

送られなかった多くの言葉を、彼女は知らない。vol.N4, p.022

結衣は八幡に告白する前に雪乃と八幡のコミュニケーションを補強する。

今の俺はあの時とは違う、確かな答えを口にするべきだ。vol.N4, p.022

だから、その答えを口にするべきだ。 / その選択を、きっと悔やむと知っていても。vol.12, l.0034 との対比。ここでの「確かな答え」 とは、八幡が既に雪乃を選んだこと、だから今は結衣を選ばないこと、だろう。それが「あの時とは違う」であるから、葛西臨海公園の時点で八幡は雪乃を選ぼうとはしていなかった、ということ。

「……それでも、俺が何も言わなくていいってことにはならんな」vol.N4, p.028

八幡の成長。

かつて雪乃と八幡が対立した時に結衣が八幡側についた事を八幡は報告しなかった。「あたしね、ヒッキー手伝ってるの」 / 「……言って、なかったか」 / それは俺が先に言っておくべきことだ。vol.13, l.2837

そも、これまで雪ノ下とまともに文面のやり取りをしたことがない。vol.N4, p.029

雪乃との連絡先交換の翌日であって、これ自体は問題ではないとする。

それでも俺は、その自己満足を押しつけるのだ。できることなら、互いにそれを押し付け合えればいいと、願いながら。vol.N4, p.030

かつての本物の定義、その醜い自己満足を押しつけ合うことができて、その傲慢さを許容できる関係性が存在するのなら。vol.09, l.3081 との対比。

当時は そんなこと絶対にできないのは知っている。そんなものに手が届かないのもわかっている。vol.09, l.3081 として諦めていた。これを結衣が「あたしがわかろうとするからいいの。ゆきのんもたぶんそうだよ」 / 由比ヶ浜の在り方その全てで理解した。 / そうやって、俺達は互い違いに空白を埋めるのだ。vol.14, l.4312 として翻した。この「自己満足を押しつけるのだ」という態度は、その翻した結果である。

「まず普通にLINEするじゃん?そんで流れで『そういえば今日、帰り一緒だった〜』って言えばよくない?」vol.N4, p.032 / どうやら、由比ヶ浜は雪ノ下から返信が来るのを待ってくれているらしい。vol.N4, p.039

結衣は八幡と雪乃の仲を確保した上で八幡に告白する。結衣の告白の目的は、八幡を雪乃から奪うことではなく、八幡と雪乃とに加わること、であるから。

俺と小町の例に照らせば、あまりにとりとめがない内容の時や、言わずもがななやり取りだったりすると、わざわざ返信しないこともある。vol.N4, p.038

齟齬。次章は雪乃の葛藤を描く。

「ていうか、LINE始めたんだ」 / 手持ち無沙汰の間を埋めるように、由比ヶ浜がぽつりと言った。 / 「奉仕部のグループ作っていい?」vol.N4, p.039

八幡はLINEアカウントを作ったにも関わらず結衣には教えていなかった。結衣はこれを把握し、何らかの確認をとろうとした、と思われる。

結衣にすれば、八幡と雪乃がいつから情報交換しているか、八幡が雪乃の他に誰とコミュニケーションを取っているか、がまず解らない。そのために自身が阻害されていない事を確認する行動が、「奉仕部のグループ作っていい?」であった、のだろう。但しこの時点で従来の女子奉仕部グループに小町が入っているかが不明であるために、それで何を確認できるかは特定できない。

あるいは雪乃は奉仕部のグループに八幡を誘っていないということ。雪乃が八幡のLINEアカウント取得を結衣に秘していた可能性もあるが、そもそも雪乃にその種のリテラシがあるか否かが疑わしい。

interlude 送るまでの多くの迷いを、彼は知らない。vol.N4, p.044

話者は雪乃。 雪乃は結衣との友情を深める意思があり、結衣の告白の意思を受け入れた事に後悔はない。

破滅的な明るさや享楽的な朗らかさ、退廃的な晴れやかさvol.N4, p.045

雪乃から見た自身と陽乃の差。

冬が終わったあの日から、私と彼女の間には壁があった。vol.N4, p.045

「冬が終わったあの日」とは、14巻 Interlude に描かれた、ダミープロムによりプロム実施が決定した後の、雪乃が結衣を呼び出した夜。その姿を見て、私は、この季節が終わるのだと知ったvol.14, l.0061

であるから、この壁とは、「だから、ゆきのんの気持ち、教えて」 / 「じゃあ、あたしも言うね」vol.14, l.2049 という気持ちの交換がまだ十分には機能しておらず、八幡への好意を共有しようという約束はしておきながら、結衣にも雪乃にも遠慮があったということを示す。

友達なんて、そんな言葉では到底足りないからvol.N4, p.046

雪乃から見た結衣との新たな関係性。 結衣から見た雪乃、友達なんて、そんな言葉で済ませらんない。vol.N3, p.021 と等しい。

本当は、もっとたくさん言いたいことがある。けれど、その全部を一度に伝えきるのは難しい。vol.N4, p.049

八幡と雪乃とで、自意識過剰は等しく、しかし葛藤の内容が異なる。雪乃の葛藤は羞恥による躊躇、八幡の葛藤は話題の欠如。恐らく八幡のそれは他人への興味が希薄なことによるもの。

八幡の葛藤は 「言いたいこととか聞きたいこととか」 / 「めっちゃ難しいやつじゃん……」vol.N4, p.032 。八幡には話題がない。雪乃の様に会食や部室での雰囲気を悪化させた事を謝罪する事も思いつかない。 小町が指摘するには「ごみいちゃんは大事なこと言わないくせに余計なことばっか言うじゃん。」vol.N3, p.038

そして日はまた沈み繰り返していく。vol.N4, p.052

結衣は八幡に告白する。八幡は結衣の告白を受け入れずとも否定しない。この告白は八幡、雪乃、結衣の関係性を再定義する。

「これからどうしよっか?」 / 「帰るだろ」 / 「ゆきのんのこと。それと、あたしのこと。……あたしたちのこと。」vol.N4, p.063

葛西臨海公園、観覧車後の 「これからどうしよっか?」 / 「帰るだろ」vol.11, l.3877 の反復。結衣が当時と同じく三人の関係性を再定義しようとしているということ。

難しいとか慣れてないとかわからないとか、そんな言葉を免罪符にして、その解決さえも由比ヶ浜に委ねていた。きっとこういう形でいいはずだと、時間を掛ければ慣れていけると、手前勝手な理解を押し付けて、都合よく解釈しようとしていた。vol.N4, p.064

プロム篇の雪乃と八幡から見た結衣。

葛西臨海公園で、結衣の「奉仕部の関係性をどうするか」という問いに対して、雪乃は、雪乃は八幡を諦め八幡はそれを受け入れる、を解とした。この解は結衣が八幡と恋仲になりその上で結衣が八幡と雪乃を繋ぎ止める事を前提とする。その実は雪乃と八幡は相思相愛であるにも関わらず。

「ちゃんと傷つけて欲しかった」vol.N4, p.065

ヒーローじゃないのを知ってるから、ちゃんと傷つけて欲しかった。vol.12, l.4665 の反復。

かつ、八幡の「……けど、お前はそれを待たなくていい」vol.14, l.4367 という言葉は、結衣を傷つける意図を欠いていた、ということ。 八幡はだからせめて、この模造品に、壊れるほどの傷をつけ、たった一つの本物に。vol.14, l.3970 と決意していたにも関わらず。

「ヒッキーのちゃんとしないとこ嫌い」vol.N4, p.065

概ね全て奉仕部を鬱屈させた理由。

「いつもみたいに笑って流して、逃げていいよ」 / それは、いつか誰かが抱いた想いと同じvol.N4, p.068

八幡から雪乃への(疑似)告白での「要らなかったら捨ててくれ。面倒だったら忘れていい。こっちで勝手にやるから返事も別にしなくていい」vol.14, l.5118 というスタンスのこと。 既に 「知ってんのかよ……」 / 「うん、だって聞いたし」vol.N4, p.058 とあるので、結衣は八幡のこの言葉を雪乃から聞いた上で、同じ論法を繰り返すことで、八幡に、断らないその言い訳を提供した、のだろう。

不明瞭で曖昧だった関係性は、まちがいながらも規定され、互いの立ち位置を理解したうえで、距離感を測りなおす。vol.N4, p.068

この規定された関係性は、具体的には、雪乃と八幡が両思いで、雪乃と結衣が親友で、結衣が八幡に片思いして、八幡は結衣を拒否してはいない、というもの。プロム前と比して著しく簡潔であって、それ故により安定する。結衣の「これが終わったら……、ちゃんとするの。」vol.13, l.2844, 「全部欲しい」vol.14, l.4322 などはこの姿を指すだろう。

かくして、ふたたびその扉は叩かれる。vol.N4, p.070

八幡と結衣と雪乃は互いに傷つけあえる関係性を手に入れる。雪乃と結衣が対立し、八幡は誤魔化し、小町が仲裁し、いろはが乱入する。

「とんだ泥棒猫がいたものね」vol.N4, p.079

「女子の恋愛相談って基本的には牽制のために行われるのよね」 / 「聞いた上で手を出せば泥棒猫扱いで女子の輪から外されるし」vol.01, l.2488 を引くかも知れない。

これが俺たちの新しい関係性なのかもしれない。俺たちはもっと気軽に、お互いを傷つけあって、その分だけ確かな関係を築き上げていくことができるはずだ。vol.N4, p.079

本物についての 「ずっと、疑い続けます。」vol.14, l.6454 の実装。「傷」は だからせめて、この模造品に、壊れるほどの傷をつけ、たった一つの本物に。vol.14, l.3970 を引く。

壊れるほどの傷をつけ、たった一つの本物に。 に基づき、八幡が結衣との関係性あるいはさらに結衣と雪乃の関係性に傷を付け、結衣がそれらを修復する事でそれらが本物になり得た。この傷つけて修復する行為を繰り返す事で本物に漸近できる、ということ。