陽乃による指摘とまちがいの自覚

陽乃による指摘とまちがいの自覚

プロムの前後で陽乃の態度が豹変する。

陽乃は当初は 「よく我慢したじゃない。……あれでいいんだよ」vol.14, l.2913 として概ね肯定的であった。しかしプロム後には 「わたしはそれを認めるわけにはいかないの」vol.14, l.3464 として敵対する。

すなわちプロム中には陽乃の態度を変える要因がある。これを示す。本質的には陽乃が認めるわけにはいかない「それ」とは何か、という問題である。

陽乃は当初は八幡と雪乃に失望した程度であったが、

「よく我慢したじゃない。……あれでいいんだよ」 / それ以上に寂しげな響きを伴っていた。vol.14, l.2913

陽乃は、八幡は雪乃の自立を阻むべきではない、と考えている。よって陽乃にとって八幡が雪乃と雪乃母の間に介入しない事は正しい。

しかし八幡が雪ノ下家の事情に介入しないことは、陽乃と同じく雪乃も雪ノ下家に囚われる事、八幡と雪乃が本物の追求を諦めた事、を意味する。それが寂しい。

いずれにせよ、陽乃は当初は失望した程度であった。

陽乃はプロム中の八幡と雪乃のやり取りを知り、

陽乃は雪乃と八幡のロメジュリを見ていて、恐らくいろはの外したインカムを使うなどしてその会話の傍聴さえしていて、陽乃の見解を変えたのはこの傍聴だ、と仮定する。

「わたしも見てて楽しかったよ。よかったよかった」vol.14, l.3393

陽乃はプロムを見ていた。少なくとも ドレッシーな集団の中で、制服姿はよく目立つ。 これを、雪乃と同様に、陽乃は本当の事を言っていない、とする。

「やっぱり逃げてきた」vol.14, l.3615

陽乃が 『これで終わりにしましょう』vol.14, l.3253 を傍聴していた傍証。インカム上は「これで終わりにしましょう」に八幡は答えていない。であるから陽乃は八幡は決定的な何かを避けている、と推定できる。

「雪乃ちゃんも、比企谷くんも、ガハマちゃんも、頑張って納得したんだよね。形だけ、言葉だけこねくり回して、目を逸らして……」 / 「うまく言い訳して、理屈つけて……。そうやって、誤魔化して、騙してみたんだよね?」vol.14, l.3684

同じく陽乃が 『お願い、絶対叶えてね』vol.14, l.3246 を聞いていた傍証。雪乃は 「誰も望まない終わり」vol.13, l.4057 を「お願い」と表現している。であれば陽乃は雪乃らが「言い訳して、理屈つけて」としたことを推定できる。

陽乃は雪乃の真意を知り、

「こういうのが雪乃ちゃんのやりたいことだもんね。進路もそっち系を目指すんでしょ?」vol.14, l.3397

陽乃と雪乃の齟齬。陽乃は雪乃がプランナー・ディレクター系の将来を希望していると誤解している。雪乃は母親に家業承継の意図を話して断られそれを諦めたい。

雪乃は陽乃には 「私の将来の希望について、母さんにちゃんと話をしておきたい。……それが叶わないにしても、悔いを残さないように」vol.12, l.0817 としか話していない。であるから陽乃は雪乃の意図を誤解した。

なお、この発言自体は、 「どっかのタイミングでわたしも口添えしてあげる」vol.12, l.0849 の回収ではある。

「なんで、今になってそんなこと言うの」 / 「雪乃ちゃん、なんで今になってそんなこと言っちゃうの?」vol.14, l.3478

陽乃にとって雪乃の意図が初耳だったことの傍証。

意思を翻し、核心を突く。

「こんな結末が、わたしの二十年と同じ価値だなんて、認められないでしょ。もし、本気で譲れって言うならそれに見合うものを見せてほしいのよね」vol.14, l.3484

「こんな結末」は、 「そうやって、誤魔化して、騙してみたんだよね?」 という雪乃と八幡。雪乃の家業承継、 「私も応援するわ。これからゆっくり考えていきましょう。焦る必要なんてないんだから」vol.14, l.3421 という「実質的なゼロ回答」自体には陽乃は興味がない。

「それに見合う結末」とは陽乃が 「納得させて欲しいの。どんな決着でもいいから」vol.14, l.3642 として託したその決着。すなわち、雪乃らの関係性、本物の成就あるいは破綻。

陽乃にとって雪乃らのこの誤魔化して騙してみた結末は中途半端であって許しがたい。単純に言えば 「たまになんかで顔合わせて、世間話のひとつもして、連絡とって集まりもして」 / 「しばらくは頑張ってみても、絶対疎遠になる」vol.14, l.4279

「君は酔えない」vol.14, l.3699

「予言してあげる。君は酔えない」vol.12, l.1120 。雰囲気に流される事ができないということ。

八幡は、プロムを三人の最後と設定し、結衣と踊り、雪乃とロミオとジュリエットを演じて、プロムに最後まで付き合って、しかしそれでも別れを受け入れることができず、逃げ出している。

「あの子の願いは、ただの代償行為でしかないんだから」vol.14, l.3675

陽乃が雪乃と八幡のロメジュリを盗聴していたとするならば、この「あの子の願い」とは、家業承継のみならず、 『お願い、絶対叶えてね』vol.14, l.3246 のこの「お願い」を含むことになる。陽乃はこの「お願い」を具体的には知らないために、その具体化を避けた表現、と言えよう。

少なくとも家業承継の願いが代償行為であることは、 「私の将来の希望について、母さんにちゃんと話をしておきたい。……それが叶わないにしても、悔いを残さないように」vol.12, l.0817 / 「これは……せめて、これだけはちゃんと言葉にして、納得できるようにしたい」vol.12, l.0822 が示す。

『お願い、絶対叶えてね』vol.14, l.3246 が代償行為であることは、 雪乃ちゃんも、……誰も望まない終わりでもvol.12, l.4057 に八幡が結衣同席の場で肯定したこと、が間接的に示すだろう。