14巻 プロム〜ダミープロム
プロム後に奉仕部は瓦解する。自らのまちがいを悟った八幡は、結衣に関係性の修復を託し、雪乃を繋ぎ止める。結衣、小町、いろはの暗躍により新奉仕部として再生する。本編了。
Prelude, 前奏曲、には、結衣と雪乃との関係が始まった夜、という意味を重ねていよう。
この夜以降、結衣の言動は一貫しない。恐らくプロム終了までの時間稼ぎをしている。 結衣案2 本物であること 参照。
ここまで走ってきたのだろう。まだ息が上がっていてvol.14, l.0059
齟齬。結衣の独白に拠れば 言葉が出ないくらいに、その微笑みが綺麗だった。息を呑むって、きっとこういうことを言うんだと思う。
/ 走ってきたから息が上がってたことにして
vol.14, l.0624 。
八幡は結衣に顛末を連絡しない。小町との会話。八幡は小町に奉仕部の終焉だけを仄めかす。八幡「まだやるべきことが残っている」「全部終わったら、ちゃんと話すよ」「いつとも知れない、遠い遠い未来の話だ」。
八幡は結衣に直接声をかけない。八幡は結衣を誘い、結衣は一旦保留する。八幡は結衣を待たずに教室を出る。
「そんな感じだから、みんなで集まってお祝いするっていうのは、ちょっと難しいかもしれない」vol.14, l.0260
「お祝いしてもらったりプレゼント貰ったりするのは嬉しいのですが、そいうのはまたみんなで集まったときにでいいのです」
vol.13, l.3763 の回収。
ちょいと首を巡らせてみると、/皆めいめいに退屈をやり過ごしていた。vol.14, l.0314
相模、川崎、戸塚のみ描写される。三浦葉山を含めて、結衣方面を見ていないということ。意図不明。
「今日、時間あるか?」/「微妙かも。優美子たちと遊び行くかも」vol.14, l.0391
これ以降結衣は八幡との会話を回避しようとする。この時点で結衣は 「勝負の話。終わったの」
vol.14, l.1042 、 「だからせめて、あなたの願いを叶えたい」
vol.14, l.1047 を聞いているから。
結衣は雪乃と話した事を開示するが「お願い」について会話した事を隠す。八幡は自ら「お前の願いを叶えさせてくれ」と結衣に問い、結衣は自身の願いを「ヒッキーのお願いを叶えること」「ちゃんと聞かせて」として、遅滞させる。
その素早い行動が昔日の雪ノ下雪乃を髣髴とさせる。vol.14, l.0455
齟齬。八幡は雪乃の行動力を評価している。しかし雪乃は たった一言伝えるだけなのに、随分と長い時間を掛けてしまった。
vol.14, l.0026 とひどく逡巡した。
この章にはコミュニケーション失敗による齟齬が多数存在する。ロミオとジュリエットはコミュニケーション失敗による心中の物語であって、それに重ねる為だろう。
「勝負は終わりだ」/「そんなの、ヒッキーが勝手に言ってるだけだよ」vol.14, l.0529
矛盾。結衣は八幡の言う勝負の終わりを認めない。しかしこの時点で既に結衣は雪乃から 「勝負の話。終わったの」
vol.14, l.1042 として勝負の終わりを聞いている。
雪ノ下は俺が立案したダミープロムは勝敗度外視の当て馬であることを即座に看破し、それを見越したうえで勝負を受けた。
まちがっている。八幡が対立を訴え雪乃が勝負を受けた時点で八幡の案は未定である。かつ、雪乃は 「彼ならきっとそうするんだろうなってわかっていて、なのに私はそれを拒めなかった」
vol.14, l.0643 とする。雪乃は特に覚悟はしていない。
「だから、お前の願いを叶えさせてくれ」/こんな一言を言うために、えらく時間がかかってしまった。vol.14, l.0541
齟齬。結衣は明らかに話をはぐらかしている。
打ち上げ計画。八幡は戸塚を誘う。
ダミープロムサイトのメンテ終了、だが削除はしない。材木座や遊戯部に打ち上げ開催を伝え、合意。
八幡と結衣はいろはと雪乃に偶然会う。八幡と雪乃は奉仕部を無くした後の新しい関係性を模索し、直接会話せずにいろはを挟む。「離れていくことにも、きっと慣れる。」
「......大丈夫そうだな」/「今んとこまぁ何とかって感じです。」/「間に合うようにはしているつもり」/「っていう感じですね」vol.14, l.0973
齟齬。雪乃がまだ八幡との関係性に慣れていない表現。
八幡は結衣と雪乃の関係性について「大丈夫そうだな」と言っている。いろはもそれを理解して応答している。が、雪乃はそれを察知できず、「順調か?」の問いに答えている。
いろはは雪乃と八幡の関係を維持すべく行動している。 一色いろはも考えて行動している 参照。
話者は雪乃。雪乃「もう終わりにしたい」「彼が全部叶えてくれる」、結衣「なんかすっごい変なやり方する」。雪乃は「もっと上手く、ちゃんと上手に、できるようになる」。
雪乃が結衣に曰く、「終わりにしたい」。結衣の望む「今のままで全部欲しい」に近い形に八幡がしてくれるはずだ。
嘘を吐かずに、本当のことを言わずに伝えるのは難しくてvol.14, l.1046
今の雪乃が八幡を諦める理由は、八幡の干渉により自立に失敗したことのみならず、 「こんな紛い物みたいな関係性はまちがっている。あなたが望んでくれたものとはきっと違う」
vol.13, l.4740 という、八幡の依頼の未達成、である。すなわち結衣には関係がない。結衣への説明は難しかろう。
打ち上げ。当初は鬱屈。海老名による遊戯部の懐柔は失敗。戸部、戸塚、葉山、が合流。八幡が挨拶。
「ボドゲか〜、私も結構やるよ」/「人狼とか」/「脱出ゲームとか?」vol.14, l.1173
人狼も脱出ゲームもボードゲームではない。海老名姫菜がさしてボドゲをやっていないということ。とはいえここでは「結構やるよ」「結構流行ってるよね」に対して話題を展開させない遊戯部が悪い。
葉山が鬱屈した空気を変える。三浦は八幡に「半端な事するな」と告げる。八幡「善処する」
カラオケ中、結衣は八幡を家に誘う。葉山は八幡に話しかける。八幡はカラオケの雰囲気に酔えない。
小町のお祝い。由比ヶ浜母の推薦によりフルーツタルト作り。
「マイナスはまだ取り返せるだろ」/「なぁ、君は......」vol.14, l.1493
葉山から八幡に対する応援あるいは発破。葉山は既に取り返せない。 だから、彼に押し付けたのだ。せめて、彼らだけはと。
vol.13, l.3380
タルト用フルーツの選択、桃缶。食べる頻度が低く、香りや甘さが強く、その度に思い出すから。
「季節はまたやってくるから」/「何年か経って、大人になった時に桃を食べたら、こういうことあったなーって思い出すでしょ?」vol.14, l.1721
結衣の初回依頼での「桃缶」は、クッキーではなくかつ充分な料理の腕があれば、模範解答だった、ということ。結衣は概ね正しいという傍証。なおこのとき雪乃は 「隠し味はいいの、桃缶とかは今度にしましょう」
vol.01, l.1252 として否定した。
恐らく川端康成の短編中の「別れる男に花の名を一つは教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます。」を引いている。結衣の母親は結衣の恋が成就しない事を何等かの理由で察していたのかも知れない。
タルト作り。由比ヶ浜母は「最高の調味料、隠し味は何か」を問い、八幡は「真心」と答える。
いつだったか、雪ノ下と一緒に出掛けた先で買ったものだ。vol.14, l.1763
誕生日プレゼントとして 薄いピンクを基調とした装飾の少なめなエプロンだった。
vol.03, l.1469 で購入したもの。
プロム篇は3..4巻の伏線の回収が多く、エプロンも何らかの暗喩もしくは伏線であろうが不明。
その光景はカタログに載ってそうなくらいの幸福感がある。vol.14, l.1770
結婚生活を意識した表現。
「あとは隠し味を入れれば完成ね」vol.14, l.1867
それを聞いて由比ヶ浜の頬に朱が差す。vol.14, l.1869
「やっぱ真心、ですかね」/
ガハママは正否を告げる代わりにふっと微笑んだ。vol.14, l.1887
タルトの材料はあのキッチンに並んでいたものばかりだ。/
ガハママに教わったとおりに少しばかりの隠し味が施してある。vol.14, l.2008
「八幡の隠し味とは何か」。文中には「まごころ」以外に解がない。実際に後に明かされる解は真心こもってていいと思う〜
vol.A3, l.3264 。
典型的な解は愛情だろう。それを問われ、しかし逃げを繰り返して、問い詰められた果ての回答が「まごころ」であるのだから、つまりは八幡は結衣に対して誠実であろうとしていて、しかしそれは愛情ではない、ということ。さらに ガハママは正否を告げる代わりにふっと微笑んだ。
vol.14, l.1887 とは、由比ヶ浜母は八幡のその意図を看破したということ。
なお、結衣による正答は ケーキ出す時にマグカップで飲み物も一緒に出してそのカップが実はプレゼントなんだよー!
vol.12, l.4260 。この時点で既に小町の奉仕部入りを予期していたかもしれない。
ケーキ作り終了。八幡は自作のケーキをクッキーのお礼として結衣に渡す。隠し味が施してある。
「ちょっと早いんだけど」vol.14, l.2004
ホワイトデー。
三浦の問いかけに対する答えらしきものをふと思う。vol.14, l.2019
「あんた、どう思ってんの?」
/ 「結衣のこと」
vol.14, l.1328 への答え。直前の叙景からして否定的な答えではなかろう。
そんな、ありえない想像をした。vol.14, l.2021
しかし八幡は結衣との関係は長くは続かないと考えている。
ずっと、見ないようにして、気づかないふりして、知らないことにしていたけどvol.14, l.2053
恐らく ずっと見ない振りして、ずっと知らないふりして、ずっとわからないふりをしてきた。
/ 本当は気づいているのに。
vol.13, l.2636 の反復。
話者は雪乃。雪乃は八幡への恋心を認める。結衣「何かを諦めてほしくないんじゃないかな」。雪乃と結衣で「気持ち」を共有する約束が成立する。今や雪乃と結衣と八幡の願いは等しいが、しかし雪乃はまだ諦めている。
「ゆきのんの気持ちごと、全部貰う」/「あたしの気持ちも全部貰って?」vol.14, l.2108
「あたしが勝ったら、全部貰う」
vol.11, l.4212 の反復。
葉山曰く陽乃は八幡と雪乃を見届けに来た。いろはが送辞。
男女にくっきり分けられて、クラスごとに横一列五十音順に並べられている中でvol.14, l.2147
初出は 俺のすぐ前の番号が葉山だ。そして、そのすぐ前が戸部。そのさらに前が戸塚
vol.06.5, l.2802 。
涼やかな黒髪と白い細面が、今どんな表情をしているかは、きっともう見ることはないのだ。vol.14, l.2200 /陽乃さんはこの後のプロムにも顔を出すのだろうか。俺とはもう関係のないことだがvol.14, l.2242
つまり八幡はプロム本番を手伝う事はないと考えている。
実際に八幡は、結衣に生徒会室へと誘われ、いろはに雪乃との会話の機会を設けられ、プロム後に陽乃と平塚に会わなければ、雪乃との復縁に至る事はなかった。
卒業式。城廻めぐりの答辞。八幡号泣、戸塚、戸部、葉山がティッシュ提供。コール&レスポンス。
「お前ら、文化してるかー!」vol.14, l.2387
「お前ら、文化してるかー!?」
vol.06, l.2742 。
八幡は結衣に連れられて生徒会室に。城廻めぐりは雪乃と八幡の経緯を知らない。いろはは八幡にプロムを手伝わせる。
八幡は音響。雪乃と八幡は事務的な話なら完璧にこなす。結衣「だいじょぶそう?」、八幡「慣れればなんとかなる」
雪ノ下は/マスキングテープを取り出すと、/それぞれのフェーダーの下に貼った。/俺は/そのテープに『雪ノ下』『一色』『予備』と書き込んでいく。vol.14, l.2692
八幡と雪乃で意思疎通に全く問題がない表現。
「だいじょぶそう?」/「慣れればなんとかなる」vol.14, l.2765
話題はPA卓操作でもあり、雪乃との会話でもあり。
プロム直前。八雪の会話は不自然。雪ノ下母は八幡案を雪乃案と連携した時間稼ぎだと考えている。
「キュー出し、これでするわ」/「おお、なんか懐かしいな」/だが、雪ノ下は特に何を言うこともなく、くるっと背を向ける。vol.14, l.2790
雪乃は感情を八幡に見せない。雪乃の感情は描写されない。
「彼、お上手なの。私も踊らされたくらい」/「わざわざ当て馬を立てて時間稼ぎをしただけの甲斐はあるわ」/「なかなかよくできた計画ね」vol.14, l.2883
雪乃母は八幡と雪乃が協調していたと考えている。よって雪乃母は雪乃と八幡が対立していること、雪乃が八幡を諦めようとしていること、を知らない。
いろはが生徒会としての八雪結の存続を提案するが、八幡は却下する。
いろはは八幡に休憩時間を作る。結衣は八幡をダンスに誘う。「次で、最後のお願いにするね」
この場にいる誰も彼も、ただ楽しければそれでいいという連中だ。vol.14, l.3137
八幡も。
ただ一人、俺を見ているのは由比ヶ浜だけだ。vol.14, l.3139
まちがっている。平塚は見ている。 「見てて楽しかったよ」
vol.14, l.3351 。雪乃は見ているだろうし、陽乃やいろはも恐らくは。
ややスローテンポな曲だ。/「......そろそろ戻るわ」vol.14, l.3161
八幡は結衣とスローダンスを踊らない。
八雪はロメジュリに自身らを重ねる。彼らにとってロメジュリはハッピーエンド。雪乃「これで終わりにしましょう」、八幡「はいよっと」
けれど、今は俺と彼女の二人だけらしい。vol.14, l.3214
であるから、同様に、まずまちがっていよう。いろはは聞いているだろうし、陽乃も恐らくは。
「そう。それであなたはどこにいるの?客席?」vol.14, l.3199
「それよりさっきからどこにいるの?客席?」
vol.06, l.2785 を引く。
幸せだった頃の回顧・追憶の表現であって、雪乃も八幡も終焉を意識し、八幡の地の文もひどく感傷的である。ロミオとジュリエットまでも引用するが為に、悲壮感さえ漂う。がしかしこの馴れ合いは くだらない冗談を飛ばして
vol.14, l.3248 に含まれ、すなわち、八幡の考える「正しい距離感」の範疇である。八幡と雪乃はもっと近い距離感を求めていた、という表現である。
『これで終わりにしましょう』/雪ノ下がさっと手を上げ、俺にハンドサインでキューを振る。/「はいよっと」/それに、インカムで返すことはなく、独り言で返事をした。vol.14, l.3255
八幡は「これで終わりにしましょう」を無視した。「それ」とはハンドサインによるキュー。つまり「はいよっと」はキューに対する応答。「はいよっと」は「これで終わりにしましょう」に対する応答としては軽い。
シェイクスピアの恋愛悲劇。
恋仲のロミオとジュリエットは、ジュリエットの実家に交際を反対される。ジュリエットは実家を説得すべく服毒して仮死状態になる。しかしそれを知らないロメオは仮死状態のジュリエットを見て自殺する。仮死状態から目覚めたジュリエットもロメオの遺体を見て後追い自殺する。
このすれ違った末の心中を、八幡は あんなハッピーエンドにはとても及ばない
vol.14, l.3236 、雪乃は あんなにわかりやすく幸せな結末を迎えることはない
vol.14, l.3275 と表現する。
さらに雪乃は、 私は毒薬みたいに甘い言葉を飲み込んだ。そうして、私は私を眠らせる。
vol.14, l.3281 として、服毒するジュリエットに自身を重ねる。殺した自分の恋心への同調を 『お願い、絶対叶えてね』
vol.14, l.3245 として八幡に託す。
この後の八幡と雪乃をロメオとジュリエットに準えるならば、八幡はこの後雪乃の冷えた態度を受けて雪乃への想いを諦め、雪乃はその八幡を受けて八幡への想いを諦める、と続くのだろう。
そして八幡と雪乃は、その緩慢な終焉よりも、共に死ねる方が幸福だ、と考えている。
あるいは平塚はそれを 余人に理解されない
/ 閉じた幸福
vol.09, l.5153 と許容する。葉山は 共になくてはならない存在で、一緒に地獄に落ちられたなら、そんなにも幸せなことはない
vol.13, l.3381 と妬む。
一方で結衣には悲壮感がない。八幡と雪乃の悲劇はたかだか恋人関係になれない程度であって、接触がなくなる訳ではない。恐らく 「二週間口きかないとかそんな感じじゃない?」
vol.N1, p.070 はプロム後からダミープロム再始動までの時期を指している。
プロム終了後打ち上げ。雪乃は母親に家業承継を訴え認知され、陽乃はそれに豹変する。八幡は奉仕部の終焉に合意せず逃げる。雪乃「これからは一人で、もっとちゃんとうまくやれるように頑張るから」、「だから」八幡「ああ、わかってる。大丈夫だ」
陽乃は恐らくプロムでの八幡と雪乃のロメジュリを傍聴していた。陽乃の豹変と代償行為の指摘はこれが主因であろう。 陽乃による指摘とまちがいの自覚 参照。
「けど、もう......大丈夫。これからは一人で、もっとちゃんとうまくやれるように頑張るから」/「だから......」/言葉の続きはついぞ聞こえはしなかったが、どんなことを口にしようとしたのかはおおよそ理解できていた。vol.14, l.3587
八幡は、あるいは読者は、この雪乃の聞こえなかった言葉を 『お願い、絶対叶えてね』
vol.14, l.3245 に類する言葉だとしていよう。だがしかし、八幡はまちがえていて、「だから、助けて」だったとすると大きな物語が繋がる。 「だから、これで終わりにしましょう」 参照。
陽乃は雪乃の願いが代償行為に過ぎず決着をつけるべきだ、と指摘する。八幡は自身のまちがいに思い至る。
陽乃の指摘を受けて、八幡は、「雪ノ下の問題は、雪ノ下自身が解決すべきだ」こそが「歪んだ欺瞞」であった、結衣の言う「ずっとこのまま」を受け入れるべきだった、事に気付く。 「雪ノ下の問題は、雪ノ下自身が解決すべきだ」はまちがっている。 参照。
平塚による薫陶。平塚は「共依存」いう言葉から八幡を解放し、一言に収めない伝え方を示す。八幡は結衣を傷付ける事を決心する。
取り返しがつかないほどに歪んでしまったこの関係は俺たちが求めたものではおそらくなくて、どうしようもない偽物だ。/だからせめて、この模造品に、壊れるほどの傷をつけ、たった一つの本物に。vol.14, l.3970
「偽物」は八幡と雪乃の関係、「模造品」は八幡と結衣の関係。であればここでの「本物」とは傷つけられた結衣と八幡の関係のこと。但し「壊れるほどの傷をつけ」はこの時点での八幡の決意に過ぎず、この「本物」は結衣が修復した新奉仕部のそれらではない。
小町の制服採寸。八幡は小町に奉仕部を「俺がなくす」と知らせる。小町は了解する。
「奉仕部はなくなるぞ」/「なぜなら俺がなくすからだ」/これはあの時、答えることができなかった俺の結論だ。vol.14, l.4062
「あの時」とは、プロム後の 「終わらせるなら、今がいいと思う。」
/ 「ゆきのんがそれでいいなら、いいよ」
/ 「......…俺は」
vol.14, l.3541 。
彼女はいつも待ってくれていたのだ。俺を、あるいは俺たちを。vol.14, l.4116
典型は 「あたしね、ゆきのんのことは待つことにしたの」
/ 待たないで、......こっちから行くの」
vol.06, l.3029 。
結衣は精神面や対人スキル面で八幡や雪乃よりも成熟していて、本編中でも、適切な選択肢を多数示したり、齟齬を未然に防いだりしている。他方で八幡も雪乃もそれらをまだ少しづつ学習している。この状況を 「待ってくれていた」
と表現している。
結衣は八幡と雪乃との関係を維持しようとする。「話すだけじゃ伝わらない」「けど、その分、あたしがわかろうとするからいいの」。八幡は結衣を切り捨てる。「面倒かけて、悪いな」。
「えっと......寄ってく?」vol.14, l.4161
なおこの日に結衣親は在宅している。 顔を上げると、ママがいた
vol.14, l.4398 。であるので結衣の「お願い」とは性的な事だとは考えにくい。
「これで、ほんとにいいと思う?」vol.14, l.4221
結衣は八幡の応答に応じて 本当に大事なお願い
を変えるだろう。ここに続く会話の中でも状況に応じて自案を変化させ続けている事が伺える。 結衣案3 「本当に大事なお願い」 参照。
「......俺は、終わらせてもいいと思ってる」/あの時、彼女たちに面と向かって言えなかった言葉がようやく言えた。vol.14, l.4241
「あの時」とは 「終わらせるなら、今がいいと思う。」
/ 「ゆきのんがそれでいいなら、いいよ」
/ 「......…俺は」
vol.14, l.3541 。
「......けど、お前はそれを待たなくていい」
vol.14, l.4367
この台詞は「三人で仲良くしたい」に向けての八幡案の初手であって
である。
「お前はそれを待たなくていい」 参照。
いろは話者。八幡がダミープロムを復活させた。いろはは情報収集すべく、副会長と書記ちゃんに、遊戯部と材木座の連行を指示。
先輩の周りでこういうのを手伝ってくれる人は、わたし以外では一人しかいない。vol.14, l.4457
沙希や小町がいるのでそんなこともない。そもそもいろははまず手伝わない。
いろは話者。遊戯部と材木座に事情聴取。八幡はダミープロムのサイトの更新の為に土下座した。がヨガの一種くらいにしか思っていない。八幡の悪口大会なら別の時にしてほしい。いろはは八幡の行動の目的を察する。
先輩の悪口大会なら別の時にしてほしい。そしたらわたしが絶対優勝するのに。vol.14, l.4551
八幡の悪口大会は interlude 何はともあれ、由比ヶ浜結衣は相槌を打つ。
vol.N2, p.004 にて回収。参加者は結衣、いろは、小町。
八幡は海浜総合にメールを送り、遊戯部にサイト更新を依頼し、陽乃に雪ノ下母へのリークを依頼した。結果として八幡は平塚に呼び出される。
八幡案、自身の人生と引き換えに雪乃と話す。八幡はプロムそれ自体が目的ではない事を示す。陽乃は八幡に雪ノ下家への責任を問い、八幡はその覚悟を答え、雪ノ下母は八幡の意図を理解する。八幡は、雪ノ下母を同席させた場で、雪乃に、一番間違っている言葉を連ねる。雪乃はそれらを理解し「事態の収拾」を図る。
八幡「お前の人生歪める権利を俺にくれ」。雪乃「あなたの人生を、私にください」八幡「......重っ」
ダミープロムを通じて八幡が雪乃を翻意させた過程は ダミープロム もしくは八幡案2 参照。
俺はそっと音もなく立ち上がると、廊下へ出る人の流れに紛れるようにして、教室を後にした。vol.14, l.5153
八幡は奉仕部室に行く上で結衣に声をかけない。かつ迂回する。
ダミープロム実現計画。結衣には雪乃が話す。八雪、ロケハンを言い訳にデートを約束する。
「......打ち合わせ、しづらいから」vol.14, l.5190
椅子を近くに寄せる、近くに座る為の言い訳。
「もともと捨て案としての企画だったから」vol.14, l.5207
雪ノ下母や陽乃と同じく雪乃も初見で八幡のプロム案が捨て案であることを見抜いている。
ロケハン。ツインテ雪乃。八幡の卒業後の推定進路。タピオカミルクティー写真。会場決定。
「疲れすぎて語彙力死んじゃってるじゃん......」vol.14, l.5282 /「見慣れてるのも安心感があっていいが、新鮮なのもそれはそれでいいな。うん。いい......」vol.14, l.5300
雪乃の語彙力低下を揶揄しつつ自身も語彙力を捨てている。いわゆる天丼。
「あなた、本当に千葉好きね。」vol.14, l.5328 /俺より数歩先んじて/「あなた、本当に千葉が好きなのね」vol.14, l.5360
雪乃は故意に表情を隠す。故に雪乃の感情、表情は描写されない。例えば 「はぁ......。馬鹿な理由ね。」
/ 「っ......、馬鹿な理由ね」
vol.03, l.1810 と等しい。
なのでここで雪乃は言葉の裏を理解している。
合同プロムに関係者集結、マンパワー問題が解決。結衣も合流。
海浜総合と資金調達を含めて合意。いろはに八雪の関係を問われ、雪乃「パートナー」。八幡はまだ結衣と話さない。
雪乃を休ませるべくサウナへ。
戸塚も男性サウナ。八幡と雪乃は既に葉山戸塚戸部の間では認識されている。八幡は葉山には否定し、葉山には伝わる。
みんな、薄々察しながら気を使って黙ってたの......?vol.14, l.5939
八幡がコミュニティに参加していること、対人関係スキルを獲得したこと、成長していることを示す。かつて八幡は周囲を観察し噂を冷笑する側だった。今や観察され噂される側になっている。
但しサウナのエピソード自体は戸塚が男性であることの開示だろう。
「うむ、我も熱くて限界だ!」/「僕も......」vol.14, l.5949
もしかして材木座は返答に困る八幡を助けたかもしれない。
雪乃結衣いろはは八幡を出待ちしていた。八幡は立ち上がる雪乃に手を差し出し、雪乃はその手を取る。
すぐに、先を行っていた一色に追いつくとvol.14, l.6023
結衣はまだ雪乃や八幡には合流しない。
俺は無言で手を差し出す。/「一人で立てるのに......」/「知ってる」vol.14, l.6028
二人の距離感、さらには「共依存」という言葉を克服した様、を示す。 マイクをセットした。
/ 「......これくらい自分でやるのに」
vol.14, l.2800 を引く。
話者は結衣。結衣は八雪から一歩引く。小町のいろは評、八幡とはクズ同士。小町の八幡評「人の気持ちどころか自分の気持ちも踏みにじるカス」。いろはは結衣を煽り、小町は何かを企む。結衣はいろはと小町とともに八幡と雪乃のいる場所へ駆け出す。
「先輩の妹......。 あ、お米の人」vol.14, l.6053
「は? 小町......? 誰ですか? お米?」
vol.11, l.0355 。八幡にチョコレートを贈る誰かがいろはにとってどれだけ印象深かったか、潜在的な敵であるか、が伺える。
「兄の妹の小町です。兄の尻ぬぐ…お手伝いにやってまいりました!」/難しそうな言葉を分かりやすく言い直してvol.14, l.6058
齟齬?難しいか?
「初対面の女子はこうやって呼び方でちゃんと序列付けとかないと後で揉めるし」vol.14, l.6081
「なにヶ浜ちゃんだったっけ?」
vol.05, l.1986 , 「ま、いいや。委員長ちゃんね」
vol.06, l.1430 など、概ね陽乃の手法。かつ、 ああ、こいつ、有力者に取り入り、あわよくばそのノウハウを得ようとしているのでは......
vol.10, l.3233 として、いろはは陽乃のノウハウを得ようとしていた。
「本気で酔う前に寝たふりしてその場をしのぐのが八幡メンタルなんです」/ほんとにそう、絶対そう。わかる。vol.14, l.6088
結衣が実際にその場をしのがれた 「えっと......寄ってく?」
/ 「いや、やめとくわ。また晩飯ごちそうになっちゃいそうだし」
vol.14, l.4162 を回収するだろうか。
「誰からも愛されなかった兄をこの十五年誰が愛してきたと思っているのですか」vol.14, l.6098
小町のキャラクター設定の回収。無償の愛を供する母親役に相当しよう。
とはいえ結2を見るに親から金と飯はもらってる。ので「誰からも」はちょっと言い過ぎ。
「小さい頃の兄はそれはもう可愛くて......」/前に二人で出かけた時に、そんなこと言ってたなーって思いだしてvol.14, l.6108
「小さい頃の俺とか超可愛いからな。」
vol.12, l.4230
「人の気持ちどころか自分の気持ちも踏みにじるカスなんです!」vol.14, l.6123
「......けど、お前はそれを待たなくていい」
vol.14, l.4367 。
「彼女がいる人好きになっちゃいけないなんて法律ありましたっけ?」/「諦めないでいいのは女の子の特権です!」vol.14, l.6147
結衣の動機付けであると同時に、いろはのキャラクター設定の回収でもある。
「向こうが振り込んできたらそれはそれでって感じですけどわざわざ待ち変えたり手を崩してまでベタオリする気はないんで」vol.14, l.6141
麻雀。一色の八萬(はちまん)待ち。
「えー......お米ちゃん誰の味方なの?」/「無論、兄の味方です。」vol.14, l.6161
プロム後の奉仕部再設立計画。 「奉仕部はなくなるぞ」
vol.14, l.4054 を受けての行動。
「兄の味方です」
とは、
ので、それらの理由を代わりに用意する、ということ。 「いろは先輩にも悪い話じゃないかと」
vol.14, l.6159 とは、
ということ。いろは曰く、 わたしとは利害が一致しているから
vol.N1, p.069 。
あたしが居たいと思う場所へ、駆け出した。vol.14, l.6172
「ヒッキーとゆきのんがいるところにあたしもいたいって思う」
vol.14, l.4324 。
プロム開始。雪乃は仕事を適宜譲渡する。陽乃はそれとなく漏れを指摘する。陽静。乃母と陽乃は八幡を雪ノ下家に受け入れる。雪ノ下家は対立して敵対する事が交流と教育。
「砂浜へ出る人のためにマットを適宜交換するのは館内スタッフを統括するあなたが見ておいて。」vol.14, l.6194
この期に及んでまだ伏線。最高だなぁ......。回収は 「ホールに砂が入らないよう、マットを適宜交換するようにって」
vol.14, l.6509 。
いつだか、陽乃さんが言っていたことを思い出す。/敵の存在こそがもっとも人を育てるのだと。vol.14, l.6265
文化祭での 「敵がしっかりしていないと成長もしないからね」
vol.06, l.2576 。
この親子は、あるいはこの姉妹は、対立することがコミュニケーションであり、敵対することがエデュケーションなのだ。vol.14, l.6267
雪ノ下母及び陽乃の設定の回収。すなわち雪ノ下母も陽乃も徹頭徹尾雪乃を愛し教育している。
「比企谷くん。ご迷惑おかけするけど、よろしくね」vol.14, l.6273
雪ノ下母が八幡を認めた表現。八幡の 「そのへんの責任も、まぁ、取れるなら取るつもりです」
vol.14, l.4835 への返答。あるいは陽乃の 「......覚悟決めてね?」
vol.14, l.6228 と合わせ、さらに八幡も雪ノ下家の教育の対象である、という表現。
意識低い系お仕事系ラノベのエンディング。結衣は八幡に何かを言いさして先送りする。
「......ねぇ」/「なんでもない。また今度にする」vol.14, l.6329
何を言い止したか不明。告白しようとして雪乃に先を譲っただろうか。
平塚が八幡と踊る。平塚「本物は見つかったか」、八幡「ずっと、疑い続けます」。平塚は去り、八幡は雪乃へ。
「君と踊るのをすっかり忘れていた」vol.14, l.6377
「私も君と踊ってみたかった」
vol.14, l.3362 の回収。
その青臭すぎるくらいに青々とした背表紙vol.14, l.6433
メタだが物理書籍版ガガガ文庫の背表紙は青い。
「共感と、馴れ合いと、好奇心と、憐れみと、尊敬と、嫉妬と」vol.14, l.6447
「サクラダリセット」というラノベからの引用。強い意味は持つまい。
俺ガイルでは引用、パロディ、が強い意味を持つことはない。意味を持つ決め台詞、重要な台詞、ではその種の引用はしていない。
かつ、俺ガイルでは、この種の羅列はそれぞれに参照先を持つ。 だが、八幡から雪乃に対する感情表現に哀れみ、尊敬、嫉妬、等は描写されない。
であるから、元ネタが解る人間がくすりとできればいい程度の言葉遊び、だろう。なおハチミツとクローバーの引用と思しき「あなたの人生をわたしにください」も同様。
この台詞がパロディであることを重視するなら例えばさらに下記を示すかも知れない。
「だから、ずっと、疑い続けます。」vol.14, l.6455
最終的な「本物」の定義。この宣言は八幡の平塚からの卒業を示すだろう。 本物とは脱構築である 参照。
「リア充爆発しろー!」vol.14, l.6479
1巻冒頭の八幡の課題レポート 「高校生活を振り返って」
vol.01, l.0017 の最後。
「あなたが好きよ。比企谷くん」vol.14, l.6541
愛情表現として著しく拙い。しかしだからこそ自分で考えた自分の言葉であって、 「今だって、どう振る舞っていいかわかってないんでしょ?」
vol.11, l.3288 からの成長を示す。
合同プロムの残務処理。八幡は雪ノ下母に好かれている。小町が新奉仕部を設立し、いろはが認可し、結衣が相談に訪れる。「これからもずっと仲良くしたいの」。タイトルコール。
数いる知り合いの中でも葉山隼人と海老名姫菜というvol.14, l.6558
マラソン大会での葉山の進路の回収。つまり葉山は文系を選択した。
「あたしの好きな人にね、彼女みたいな感じの人がいるんだけど、それがあたしの一番大事な友達で......。」vol.14, l.6677
告白。「みたいな」。八幡と雪乃はこの時点でもまだ交際を認めていない。
「これからもずっと仲良くしたいの。どうしたらいいかな?」vol.14, l.6677
1巻での結衣の依頼の回収。すなわち1巻での結衣の依頼は「八幡と仲良くなりたい」。 結衣の依頼は「料理を上達したい」ではない。 参照。
かつ、結衣と雪乃の間に、初回依頼時と同様に今も八幡の知らない密約が存在することの対比。 その密約とは 「ゆきのんの気持ちごと、全部貰う」
/ 「あたしの気持ちも全部貰って?」
vol.14, l.2108 という気持ちの交換。