13巻 自粛対策〜実施決定
八幡はダミープロムを立案する。雪ノ下母は八幡を気に入りプロム中止を撤回する。雪乃は八幡に助けられた事を理由に八幡との関係性の終了を望む。
物語の完結に向けてのサブキャラクター群の設定の開示や伏線の回収が多い。暗黙にサブキャラクター群のフラグ折れも示される。
いつだって答えを出すべき場所と機会はそこにあって、その度に最適解を導きだそうとしてきた。/けれど、けして正解を出そうとはしてこなかったのだ。vol.13, l.0029
個々の句が八幡が過去に「まちがえた」シーンに対応する。
白み始めた朝ぼらけに。
朝からずっと考えていた。比企谷八幡にできることは、なんだ。vol.08, l.3192 の朝。
雨露が滴る昼下がりに。
「もう、無理して来なくてもいいわ......」vol.09, l.2709 と言われた箇所。
細雪舞い散る夕暮れに。
朧な月が揺れる夜半に。
八幡の独白。またきっとまちがえた。
たとえ、それが世間一般における標準的な答えだったとしても、俺の、俺たちの答えなのだとは思えない。vol.13, l.0049
不明。「標準的な答え」とは泣き出した人間を放置するべきではないということ、「俺の答えだとは思えない」とは、八幡の自意識が邪魔をするということ、だとして、それが「俺たちの答えだと思えない」理由が不明。結衣に甘えている表現だろうか。
プロムは中止ではなく自粛。陽乃の言う「共依存」は正しくはない。雪乃は八幡の介入を望まない一方で、八幡は介入すると決めている。平塚はその相反の解決策として勝負を提案する。平塚は八幡に自身の離任を告げる。
明確な形を与えたはずのものは相変わらず曖昧なままでvol.13, l.0082
八幡が雪乃を助ける理由。 「いつか、助けるって約束したから」
vol.12, l.4853 という明確な言葉にしたにも関わらず、それは本当の理由とは異なる。
聞けずにそのまま蓋をしていたことは確かめずともはっきりわかってしまう。vol.13, l.0084
平塚の離任。
その手の頑なさを指摘された覚えがある。vol.13, l.0319
(己の中の判断基準について) 「君の潔癖の話さ」
/ 「いつか許せるときがくると思うぞ」
vol.05, l.1242 か。
彼女一人に帰属すべきものに
どんな肩書きでどの程度の関わり合いであれば、そこに触れることが許されるのだろう。vol.13, l.0355
伏線。八幡の解は 時間とか感情とか将来とか人生とか
/ 諸々全部やる
vol.14, l.5052 なら、雪乃の人生を歪める権利を手にすることができる。
理由など、あのたった一言あればそれで充分だ。vol.13, l.0364
「たった一言」とは、「いつか、私を助けてね」
vol.09, l.4407 。
八幡は一色に雪乃に拒否られても手伝おうとする理由を問われ「責任がある」と答える。
やるべきこと、考えるべきことははっきりしている。それ以外のことを、今は除外する。vol.13, l.0526
「やるべきこと、考えるべきこと」は雪乃に関わること。あるいはプロムの実施。 「まずはプロムを終わらせる。
/ 部活とか、まぁ、先のことはそれから考える」
vol.13, l.1589 。
「それ以外のこと」はほぼ自意識に等しかろう。「やるべきことではないことを除外して考える」は、一般にはTOC, 制約理論と呼ばれる技法。目的遂行を妨げる、制約している要素を同定し、その制約の除去に集中する。
実際に八幡の行動はこの付近を境に変化する。自意識の徹底を諦め社会通念を優先する、あるいは諦める、成長する。この変化の具体例を下記に示す。
「いろはすがうまいこと言ってくれたりしないの?」vol.13, l.0661
なにより、たった一言で済まされてしまうのが気に入らないvol.13, l.0715
「あいったぁ......」/
礼儀として小さく呻く。vol.13, l.1155
「めんどいし、厄介だし、あとめんどくさいんです。それにめんどくさいし」/
「あいったぁ......」vol.13, l.1296
彼女には知っておいてもらいたい。vol.13, l.1572
今からそこに割って入らねばならない。vol.13, l.1633
なにより、たった一言で済まされてしまうのが気に入らないvol.13, l.0715
「たった一言」とは共依存。八幡がこの言葉の否定に縋る理由。 「共依存」は八幡が好意を認めないから機能する 参照。
もっとも一言認めるだけでも相当の進歩ではある。
「なんでそこまでするんですか?」/「責任がある」/「なんか思ってたのと違う答えが来たので」vol.13, l.0733
いろはの八幡への実質的な告白、 「責任、とってくださいね」
vol.09, l.4684 の反復。八幡がいろはに興味を持たない事の表明。
一色いろはも考えて行動している 参照。
八幡はプロムに介入する為に雪乃と対立する。雪乃は「この勝負に勝ったほうが何でもいうことを聞かせる」として受ける。
「なにかやることあるか?」vol.13, l.0800
八幡がプロムに縋る描写。以降、八幡は、 「自前で用意する連中は?」
、 「逆に目立つためにあえて派手なの選ぶ奴もいるだろ」
、 「SNSへのアップ禁止なんて守る奴いるか?」
等々、プロムに介入する余地、雪乃に関わる余地を捜す。
どれだけこちらが譲歩しても、そもそもの企画自体を認めない可能性はある。vol.13, l.0925
八幡がプロムに縋る描写。小さなリスクを過大に扱い否定させない論法。雪ノ下母がプロムに難癖をつけた論法、 どれだけ手を打とうと、絶対安全と言い切ることは誰にもできない
vol.12, l.4415 に等しい。
「俺は、お前を......助けたいと思ってる」vol.13, l.0977 /「その責任は俺にもある」vol.13, l.0988
これらの八幡の発言は正しい。 責任、とりたいというか、とらせてくれというか......
vol.14, l.5045 にほぼ等しい。あるいはクリスマスイベントにて八幡は雪乃の 「あなた一人の責任でそうなっているなら、あなた一人で解決するべき問題でしょう」
vol.09, l.3129 に対して同意してしまっていたが、今回は、責任を共に取るとしている。
あるいは八幡がプロムに干渉する事も恐らく正しい。雪ノ下母にすれば、雪乃案は及第点ではあるが、しかしプロム実施賛成には及ばない。雪ノ下母曰く、 「説得する要素は揃っていると思うけれど」
/ 「他の皆さんのご意見を変えるには至らないんじゃないかしら」
vol.13, l.4527 。雪ノ下母が雪乃に期待しているものがこの理解と打開だとするならば、雪乃の 「実現のためのロードマップも構築している」
vol.13, l.0921 では不足する。
しかし、雪乃は自身の自立を訴え八幡の言葉を拒否する。人間が発達する上で自己同一性を獲得しようとする行為も正しい。八幡の発言は正しく、雪乃の拒否も正しく、ここで折り合いをつける事は難しい。 互いの正義がぶつかったとき
vol.13, l.0402 と平塚が予期した通りの展開となる。
敵対という手段をとる事の正誤は不明。平塚は 「勝負で雌雄を決するものと決まっている」
vol.13, l.0403 と肯定し、結衣は これは言い訳なんだ。
vol.13, l.1607 と許容し、葉山や海老名は否定する。
が、八幡はプロムに関わる動機、雪乃と対立する動機を あの時間が共依存ではないことの証明
vol.13, l.1020 に置いた。これがまちがっている。後に共依存という 借物の言葉
vol.14, l.3968 に縋った、と省みる。対立であっても協業であっても、雪乃に関わりたいとする動機の正答は、 「手放したら二度と掴めねぇんだよ」
/ 「俺は関わり続けたいと、思ってる。」
vol.14, l.5051 であろう。
拒絶の為の沈黙ではなく、次に進むための空白なのだと俺には感じられた。/「これで…‥」vol.13, l.1043
雪乃が続けた言葉は 「これで最後だから。......これでちゃんと終わりにできる」
vol.13, l.1130 。八幡がプロムへの干渉の強行を訴えたことで、雪乃は三人の終焉を決断した。
この 次に進むための空白
での雪乃の思考は 正直に言うわ
vol.13, l.4729 以降に示される通りであろう。すなわち、
「負けず嫌いなの、私」vol.13, l.1080
雪乃が逆転劇を見込んでいるということ。雪乃は、この段階で、八幡が雪乃案のプロムを実行させることを確信し、さらに、雪乃の勝利としてお願いを叶えさせる計画を立てた。
いろはの独白。雪乃と八幡の仲を痛感する。「ちゃんと責任とってほしい」。 雪乃「プロムは実現する」「これで最後だから。......これでちゃんと終わりにできる」
先輩の話を聞く間、ずっと伏せてた私の顔なんて見てないっていうか、見えてないことはわかってるけど、でも、そのあたりはちゃんと空気で察してほしい。vol.13, l.1097
実際に 「プロム、俺が手伝ってもいいか」
vol.13, l.0939 以降、 「あの、そういう話なんですか、これ」
vol.13, l.0991 といろはが介入するまで、いろはの描写がない。
「プロムは実現することになるから」vol.13, l.1118
雪乃の八幡への盲信を示す。
それを言っていいのはたぶんわたしじゃないから/「あんまり無理しないでくださいね」vol.13, l.1127
いろはは、八幡の雪乃への干渉が、いろは含む誰にでも起きる 過保護
vol.13, l.0613 とは違って、八幡は雪乃のためにではなく自身の為に雪乃に関わろうとしていること、つまり雪乃と八幡が両片想いであること、を告げようとする。 一色いろはも考えて行動している 参照。が、その好意を伝えるのは八幡自らであるべきだとして、代わりに、八幡の雪乃への心配、 「たまに平気で無茶するし。」
vol.12, l.3310 を伝えた。
マッ缶とおしるこの誤前提提示。いろはがプロムを手掛ける動機、平塚や八幡達との別れを納得し諦める為に努力したい。あるいはその機会を八幡らに提供したい。
最初は反対していたのに、結局一色の熱意に押し切られてしまったわけだ。vol.13, l.1218
共依存の否定に縋る八幡が言い訳を求めている表現だろう。いろはには八幡ら奉仕部に協力を求める熱意はさほどない。 「断られるのも織り込み済みです。」
vol.12, l.2614
小町と夕食。鍋の具の誤前提提示。
「ほい、どっちにする?」/片方は白菜がやや多め、もう片方は豚肉が多め。さして大差があるわけでもない。vol.13, l.1374
小町は理想解の提示役。プロム自粛要請に対する正答。誤前提提示は雪ノ下母には機能していないので、ダミープロムを「ひどいプロム」にする必要がなかった。
しかし、選べと言われれば選ばざるを得ない。/「なるほどなぁ......」vol.13, l.1377
八幡が誤前提提示に気付いた表現。
小町とアイディア出し。八幡はプロムの実現を誓う。
八幡は雪乃と対立する旨を結衣に話す。結衣は八幡に協力を申し出る。
理解が得られるかどうかは別として、彼女には知っておいてもらいたい。vol.13, l.1572
八幡が何かを「知って欲しい」と初めて言及する。
恐らく 「俺は世界でただ一人、この子にだけは嫌われたくないから」
vol.14, l.4231 に連なる。雪乃を手伝うことで八幡は結衣に嫌われたくないということ。
9巻で八幡が本物を定義した時点では、八幡は自身が話す側に立つケースしか考えておらず、聞く側に立つケースの発想には至っていない。 「俺はわかってもらいたいんじゃない」
vol.09, l.3226 とまで明言している。これが変化、成長している。
結衣の独白。雪乃の願いは結衣と同じで結衣の反対。その方法は一つしかないが、それはダメ。結衣は1年の頃から八幡を見ていた。もう少しだけと言い訳をして嘘を吐く。自己嫌悪。
ちゃんと終わらせるから。/どうか彼女と一緒にこの関係をちゃんと終わらせてください。/だから、お願い。終わらせないで。vol.13, l.2645
願いの相手は八幡だとして、
だろうか。この場合単純に言えば「結衣はプロム終了後も3人で居たいから八幡は自爆するな」。
ずっと見てた。クラスが違っても、気づかれてなくても、知られてなくても、知り合ってからも、ちょっとずつ仲良くなってからも、たぶんずっとずっと。vol.13, l.1617
つまり結衣は本編開始以前から八幡に好意を持っていた。 「由比ヶ浜さんは手作りクッキーを食べてほしい人がいるのだそうよ。」
vol.01, l.1012 とは八幡である、という謎解き。
あらためて、比企谷八幡はかたりかける。vol.13, l.1621
章題の「あらためて」は 満を持して、比企谷八幡はかたりかける。
vol.08, l.3852 との対比。
当時は 協力を頼める相手もいない。迷惑をかけても許されるような、そういう存在、そういう関係を俺は築いてこなかった。
vol.08, l.3204 として、材木座以外のメンバーは小町が収集した。今回は八幡は材木座に加えて戸塚を呼ぶ。 たぶん、俺は初めて、戸塚彩加という男の子をちゃんと見たのだと思う。
vol.10, l.2724 の成果であろう。
最終的に戸塚は 友達
vol.14, l.0331 と表現されるに至る。
八幡は教室で結衣に声をかける。八幡も結衣も話す場所に奉仕部室を選択しない。
結衣は雪乃とは昼食を共にしていない。 八幡案、当て馬的なプロム企画による誤前提提示。八幡は正攻法で心当たりに声をかけてみる事に。
この企画は既に失敗作の烙印を押されているのだ。vol.13, l.1714
八幡がプロムに、共依存の否定に縋っている描写。
「企画自体を認めない可能性がある」という烙印を自ら押して、自らそれに囚われている。
「新たな候補としてカロリーハーフのアイスがでてきたら、なんか食べてもいい気がしてくるな?」/「うん、二個食べられる......」vol.13, l.1741
結衣は概ね正しい。プロムもダミープロムも実施する。
材木座、戸塚、川崎を招集。八幡、材木座に「七十歳で独身だったらお互い一緒の介護施設入って暮らそうな」。
材木座、戸塚、川崎にダミープロム計画を説明。戸塚は八幡に「よくわからないまま終わ」るのは「嫌」と訴えた上で、八幡の意図を聞く。川崎は辞退、けれど八幡の応援はする。戸塚と材木座は協力する。
「八幡はどうしたいの?」/「ぼくたちも、ちゃんと八幡のこと理解したいから」vol.13, l.2037
9巻で八幡が定義した本物、 理解したいだなんて
/ その醜い自己満足を押し付け合うことができて、その傲慢さを許容できる関係性が存在するのなら。
vol.09, l.3232 を、結衣に続き戸塚、「ぼくたち」であるのでさらには川崎や材木座も満たしている、ということ。9巻で八幡が定義した本物、相互理解、とは単に人間関係での基本であるということ。
いつかもこうして彼らに助力を願った。vol.13, l.2044
生徒会選挙。
遊戯部が八幡に協力する。
ダミープロム案詳細化。雪乃らのプロム案よりも酷い案を立て、部長会を名乗り、海浜総合を巻き込み、遊戯部がHP作成、材木座がSNS活動し、保護者会の目に止まる。
ネットカフェでペアシート。映画を見ながら企画書を作成。途中で結衣が寝たふりをする。エンドロール後の行動が未定。
このまま終わりまで見るか。/あるいは、また最初から始めるか。/それとも、これまでと変わらず、見ないふりを続けるか。vol.13, l.2622
終わる奉仕部に対する対策の比喩。八幡は奉仕部の終焉への対策を決めていない。
八幡と雪乃の対立を聞いてから結衣の行動には一貫性がなくなる。状況に応じて行動を変えている。 本物の本質 あるいは結衣案2とその変化 参照。
八幡は結衣が起きていた事に気づいていない。八幡と遊戯部と材木座はサイトデザインラフ、企画書のレビュー等を実施。材木座はデジカメを提供し、団体名を提案する。
総武高校プロムサイコウプロジェクト/重要なのは適度なわかりやすさと程よい頭の悪さだ。vol.13, l.2807
材木座は八幡の斜め下の解決の提示役。「適度なわかりやすさと程よい頭の悪さ」はダミープロムが雪ノ下母を説得し得たその成功要因。
ダミープロムはそれが当て馬であることを容易に見抜ける程度にわかりやすい。その理由が恋心である程度に頭が悪い。よって雪ノ下母は八幡のダミープロムの意図が雪乃への好意であることに気付いた。であるから雪ノ下母は雪乃プロムの実施について同意に回った。
八幡と雪乃は馴れ合う。雪乃が結衣の願いを理解していないか、理解して諦めている事を知り、結衣は雪乃に友情の継続を訴える。雪乃は応じる。
「糖分補給にちょうど良いから」/ようやくマッ缶の魅力に気づいたか。vol.13, l.2864
八幡の誤解あるいは韜晦。雪乃の八幡に対する未練を示す。マッ缶の魅力に気づいた所で 頬を朱に染めて
/ 缶を隠して
しまう訳がない。
「そんなに無理する必要ないのに」/「......いつも無理してきたからな。これが俺の普通だ」/「そう......」vol.13, l.2912
齟齬。雪乃は自身に関わるなと言っている。八幡は言葉をその通りに受け取っている。しかし八幡のその応答は雪乃にとっては自身は八幡に負担を強いてきたという意味となる。
「あたしのこと、避けてた?」/「そうじゃないわ、そんなことない。ただ、プロムの準備や、中止の連絡が来たりして、やることが多くて」/「うん、だよね。ごめん......」vol.13, l.2960
避けてた。雪乃の多弁は言い訳。
この雪乃の行動はかつて雪乃が結衣を評した 「私が聞いたらあの子は行くってきっと答えるもの。」
vol.03, l.0230 と等しい。
「あたしね、ヒッキー手伝ってるの」/「......言って、なかったか」vol.13, l.2970
ここでは、「結衣が八幡を手伝っている」という事情を、八幡と結衣は知っているが、雪乃は知らない、という宣言。
メタに解釈すれば、各キャラクターごとに知っている事が異なる、という物語構成上の宣言。雪乃が結衣の願いを知っていると言いつつ、しかし雪乃の願いは結衣の願いとは微妙に異なる、という解釈を可能とする為には、この種の宣言が必要である。
一般に小説やマンガでは、キャラクター間の情報共有のシーンは冗長である為に省略される。各キャラクターが持つ知識は同じであって、各キャラクターで行動が異なる理由は、知識の差ではなく性格によるものである。
ミステリー小説では一般に、登場人物が知っていて探偵すなわち読者に明かされない情報がある。さらにある登場人物が知っていて別の登場人物が知らない情報が存在する。その知識の差に基づいて各登場人物は異なる行動を取り、読者をミスリードする。この行動の違いを元に探偵や読者は推理する。であるからキャラクター間の情報の共有は明示的に描かれる。
俺ガイルの場合、八幡は結衣や雪乃の感情や思考を知らない。結衣と雪乃で感情や思考が共有されていること(あるいは異なること)を知らない。この「あたしね、ヒッキー手伝ってるの」という読者にとって自明な台詞は、逆説的に、その自明な台詞が存在しない限り結衣と雪乃とで共有されていない事を示す。
なお、結衣が八幡を手伝い始めたのは前日であって、これをまだ雪乃に伝えていない事自体にはさして問題はなかろう。むしろ 何も言わなくても通じて
vol.08, l.4391 を理想としていた八幡が「言っておくべき」と考える様になったという進歩でさえある。
本当はもっと簡単な伝え方があることを俺も彼女も知っている。/けれど、それが正しいと思えないから。/だから、せめてまちがえないように。vol.13, l.3024
本当はもっと簡単な伝え方があることを俺も彼女も知っている。
けれど、それが正しいと思えないから。
だから、せめてまちがえないように。
部長会、葉山個人、共にダミープロムへの協力を断る。結衣は葉山と八幡の仲に驚く。結衣は葉山に雪乃の自立の意思を知らせる。
「合同追いコンについては、生徒会から既に打診されてるよ」/雪ノ下も自分のプランを補強するうえで、部長会を利用することに思い至ったのだろう。/部長会の件は向こうが先に手札を切ったというだけで、効果としてはさして変わらないvol.13, l.3176
齟齬。葉山の台詞が 「装飾に使う花についても各部活動が卒業生に贈る花束と合わせてグロスで発注するからコストダウン交渉中よ」
vol.12, l.3511 を指すものであるなら、これはプロム自粛要請以前のものであって、部長会の利用を意図したものではない。
実際に14巻にて描かれるプロムに部活に関する表現は見つからないし葉山も登場しない。
「あ、ちょっと意外だったから」/由比ヶ浜は俺と葉山を見比べて、えへへと少し嬉しそうに笑う。/まぁ、お優しい葉山隼人しか知らないと、俺に嫌味を言う姿はちょっと意外に映るのかもしれない。vol.13, l.3133
齟齬。八幡(と戸部)は、結衣が葉山の行動を意外に思った、と考えている。結衣は葉山と話せる八幡を意外だと思っている。でなければ「嬉しそうに」笑わない、だろう。つまり結衣は葉山がお優しいだけではない事を知っている。あるいは結衣のその嬉しそうな笑みは、 葉山はばつが悪そうに口を噤んだ
からして、葉山がその影を隠す必要のない誰かを持つ事を知った故の、葉山の為のものであるかも知れない。
結衣と戸部が離脱。葉山は雪乃、陽乃との過去とその後悔を話す。八幡は共依存の否定に縋り、それを男の意地と嘯く。
「俺にはその覚悟も動機もなかったけれど......君は違うだろう?」vol.13, l.3263
葉山には雪乃を助ける動機がない、すなわち葉山は雪乃に好意を抱いていない、ということ。夏キャンプ以降ミスリードされてきた葉山と雪乃の関係の回収。 「......好きな人の話しようぜ」
/ 「イニシャルでいいから!」
/ 「......Y」
vol.04, l.1987 など。なお、葉山が陽乃に好意を示す行動、むしろ陽乃の態度に失望する行動、はこれまでも複数存在する。
「君がすべきなのはそんなことじゃないはずだ」vol.13, l.3281
葉山は陽乃の気を引く為に「そんなこと」に類する回りくどい事を繰り返してきた。折本らを雪乃の為に傷つけること、文化祭時に相模を失踪させかつ屋上に繋ぎ止める、など。
お前だけがそれを言ってくれる。/だから、俺も言うことができる。vol.13, l.3291
対句。
結衣もいろはも既に八幡のダミープロム案を理解し許容してしまいあるいは否定できない。戸塚や材木座は協力さえする。ライバルと言える関係、人間関係の破綻を気にせずに、しかし指摘する義理を持つ関係は、八幡にとっても葉山にとってもお互いのみである。
「あいつが助けを必要としてなくて、それでも俺が助けたいと思うなら......、それは共依存なんかじゃない。」vol.13, l.3305
八幡自身がこの理屈が 言葉遊びの言い逃れであることは自覚している。
vol.13, l.4226 。つまり八幡が雪乃に干渉する為に共依存という言葉の否定に縋っている表現。
葉山の独白。陽乃を呼び出す。「確かめなければ俺も彼も彼女もこの先に踏み出すことができない」。
葉山と陽乃との会話。二人ともが過去に囚われている。陽乃「私が見たいのは本物だけ」。葉山には既に陽乃に働きかける手段がなく、故に葉山の現在は八幡の未来に似る。葉山の独白は八幡の裏返し。
「そういう言葉をわざわざ使って彼をけしかける人に心当たりがあったから」/「やるじゃん、名探偵。大正解」vol.13, l.3357
「けしかける」は葉山の誤解。陽乃が「共依存」という言葉を用いた意図は徹底して 「比企谷くんも見守ってあげて」
vol.12, l.1122 、 「よく我慢したじゃない。......あれでいいんだよ」
vol.14, l.2913 、八幡の雪乃への干渉を抑える、であった。であるから、「やるじゃん、名探偵。大正解」は、自身のミスを故意であるかの様に収集してしまう発言。文化祭時の 「部活には居づらくなってるだろうし」
vol.06, l.1479 / 「うまくいかなかったみたいだけど」
vol.06, l.1484 と同様。恐らく陽乃は「共依存という言葉が八幡をけしかける結果になった」事をこの時点で初めて知った。
「ありえない。そうだったでしょ?」/その言い方が、あの夏の日の言葉と重なった。vol.13, l.3370
「あの夏の日の言葉」は 「あなたでは無理よ。そうだったでしょう?」
vol.04, l.1653 。葉山は陽乃にも雪乃にも同じ理由で見限られ疎まれている。
彼女は、自身が大切にしているものを、もうこれ以上誰にも傷つけられないようにと、先んじて自分で傷つける。vol.13, l.3372
陽乃が八幡と雪乃に干渉した理由。平塚が異動し奉仕部がなくなるなら、あるいはバレンタインイベントの様なやがて壊れる馴れ合いに堕ちてしまえば、その関係は失われる。雪乃はそれに傷つく。よって陽乃は先んじて自分で雪乃の人間関係を傷つける。
そして、傷つけた者は誰一人として許さない。vol.13, l.3372
陽乃の性格設定の回収。陽乃が自棄的な性格である理由。
陽乃は雪乃を傷つけた葉山を許さない。同様に陽乃は雪乃を傷つけた自分自身を許さない。かつ、陽乃は、 「興味がないものにはちょっかい出したりしないよ。......何もしないんだ」
vol.08, l.1401 。
であるから、陽乃は、葉山に何もしないのと同様に、陽乃自身に対しても何もしない。陽乃は自分自身に対しても それこそ爪とぎ板ほどの価値しか見出してはいない
vol.13, l.3342 。
よって、陽乃は、 「何より、どっちだって構わない。どっちでも変わらないのよ。うまくいったって諦めたって......」
/ 「そうやってたくさん諦めて大人になっていくもんよ」
vol.12, l.1112 などとして、自棄的な態度を取る。
「そんなに、......憎んでるの?」/誰を、とは聞かなかった。/「いいえ、大好きよ」/贖罪の機会を俺はついに得ることができなかった。vol.13, l.3379
葉山と陽乃自身を。
陽乃が「葉山を憎んでいる」と答えたならば、葉山は陽乃に贖罪する機会、理由を得る。しかし陽乃が「大好き」と答えたなら、葉山は何もできない。
贖罪の機会を俺はついに得ることができなかった。/だから、彼に押し付けたのだ。せめて、彼らだけはと。vol.13, l.3380
葉山が八幡に 「本気で、全力で向き合うべきだ。」
vol.13, l.3263 と諭したこと。
ああ、心底妬ましい。/共になくてはならない存在で、一緒に地獄に落ちられたなら、そんなにも幸せなことはない。vol.13, l.3381
「こんな」ではなく「そんな」、手元にはないものを指す代名詞であるので、葉山は陽乃と一緒に地獄に落ちる事を望んで、しかしそれができていないということ。
その悔いる姿を見て、羨ましいとさえ思った。
/ そこまで鮮烈に刻み込むことができたなら、一生宝物のようにしまい込んでおけるなら、生涯忘れることができないくらいに、ただ一つのことを思い続けていられるなら。
/ 俺はそれこそ悔いがない
vol.13, l.3278 との対句を成す。八幡は葉山の過去の傷を、葉山は八幡の現在と未来を、共に羨み妬んでいる。
意味的には 「一緒に傷つくのなら、それは傷ではないのかもしれないな」
vol.09, l.5146 を引くだろう。葉山は雪乃から八幡への関係、 閉じた幸福
vol.09, l.5153 、あるいは共依存、と表現される関係を積極的に肯定する。
たとえそれが紛い物であったとしても、この世でただ一つの歪な贋作であるならば、誰も偽物などと呼べないはずだ。/もしも俺がそれを手にしていたなら、きっとこの歪な形に一つの名前をつけられたのに。
「そんなの、紛い物じゃない。私が見たいのは本物だけ」
vol.13, l.3364 への反応。陽乃(や八幡)と葉山の考え方の対比。陽乃や八幡は関係性を問うている。葉山は陽乃に興味を示されない為に、陽乃との関係性が存在せず、それを問うことができない。 「こうはなりたくない」
vol.13, l.3259 と思うことさえできない。
あの時、全力で助けていれば。/あなたは俺を許してくれましたか。vol.13, l.3386
陽乃と葉山の関係の回収。かつて葉山は雪乃を助けなかった。今は葉山は自棄的な陽乃を助けたいが、その手段がない。
「あの時、俺は全力で助けるべきだったんだ。そうすれば......」
/ 「少なくとも、こうはなりたくないって思えるんじゃないか」
vol.13, l.3259 を引く。すなわち、「陽乃が葉山を許す」と「葉山が現状に不満を抱く事を許される」が等しい。つまり、葉山は、陽乃に、(陽乃と葉山の関係性についての)現状に不満を抱く事を許されていない。 「いいえ、大好きよ」
vol.13, l.3376 と答えられた葉山は、陽乃に自身へ関心を持たせることができない。
なぜならば、陽乃は葉山も陽乃自身も許さず、興味を示さない。故に陽乃は自身は自棄的に扱い、葉山の働き掛けを無視する。よって葉山からすれば、かつて自身が雪乃を全力で助けなかった為に、陽乃は自棄的になり、かつ葉山を無視するようになった、ということ。
なお、
は、葉山が否定したい現状ではない。葉山自身はこれらを肯定している。 「誰かの背中を無理に追う必要もない」
/ 「それも含めて、俺だよ」
vol.10, l.4375 、 俺は別に関係を断ちたいわけじゃない。
vol.10, l.4404 など。
俺と葉山隼人は結局のところ、鏡合わせにすらなれず、互いに間違い探しを続けて、手前勝手に苛立ちをぶつけ合っているにすぎない。vol.13, l.3408
八幡と葉山が 同位体
vol.03, l.0016 であることを示す。
もう何度目になるかわからない深いため息を吐いて
vol.13, l.3319 と もう何度目になるかわからない深いため息を吐いて
vol.13, l.3415 などまったく鏡合わせである。
葉山がぽかんと口を開けて、なにか珍獣でも見るような驚きとも呆れともつかない表情をするものだから、
vol.13, l.3396 は あんな言葉に一瞬でも揺れてしまった自分が許せない。
vol.13, l.3318 に対応していて、つまりまちがっているが、それを見つけられていない。
ぶつけあっているものは ああ、心底妬ましい。
vol.13, l.3381 、 羨ましいとさえ思った。
vol.13, l.3276 であって、つまるところ応援と憧れである。
言語化したことで、その目的意識はより強固になった。vol.13, l.3411
まちがっている。この「目的意識」とは 「あいつが助けを必要としてなくて、それでも俺が助けたいと思うなら......、それは共依存なんかじゃない。それが証明できればいい」
vol.13, l.3305 である。直後に 俺自身、それが言葉遊びの言い逃れであることは自覚している
vol.13, l.4226 に至る。
ダミープロム進捗。結衣・折本経由で海浜総合に連絡。三浦らに写真モデルを依頼。
三浦結衣海老名で写真撮影。海老名は自身と八幡との違いを明確化する。「恋とか愛とか性とか」について海老名「面倒だよね」、八幡「めっちゃ恥ずかしい」
「面倒だよね、そういうの」/「恋とか愛とか性とか」(vol.13, l.3638)
海老名が 「誰に告白されても付き合う気はない」
vol.07, l.3236 とした直接的な理由。まして戸部を嫌っている訳ではない。
「面倒だよね」/「恋とか愛とか性とか」/「恥ずかしいからそういう話あんましたくないんだけど」vol.13, l.3639
あるいは海老名と八幡の決定的な差。海老名は恋とか愛とか性とかに興味がない。八幡にとってはなまじリアリティがある話
。
「お互い全然興味ないから話せることってあるじゃん?」vol.13, l.3642
海老名は八幡に興味がない。
あるいはさらに修学旅行での戸部の告白阻止で、姫菜が結衣や三浦優美子に相談しなかった理由。つまり海老名は葉山にも興味がない。
「でも、まぁなんとかなるんじゃない?」/「結局、比企谷くんは私とは違うから」vol.13, l.3649
「だからうまく付き合っていけないの」
vol.07, l.3362 を引く。
かつて八幡は 理解することを諦める
vol.05, l.2376 を理想としていた。海老名は 「誰も理解できないし、理解されたくもない」
vol.07, l.3362 と考えていた。この修学旅行の時点では海老名と八幡は似ていた。
今の八幡は 俺はわかりたいのだ。
/ 知って安心したい
vol.09, l.3228 と考えている。これ以降、海老名と八幡は大きく異なっている。
「そういうペシミズム?嫌いじゃない」vol.13, l.3687
八幡と海老名の違い。八幡は人間関係に対して悲観はしていない。海老名は他人に興味がない。八幡が「雪乃を直接手伝うことが難しい」という行動を取った理由は自意識、人間関係に対する恐怖、に由来するものである。
たぶん俺たちの思想には近しい部分がある。自身を腐っている云々と言い訳みたいな言葉を貼り付けて、塗り固めていたその様に、共感できるものがあった。vol.13, l.3689
かつて(7巻以前の)八幡は孤独だから取れる手段がない、として自己犠牲的な手法を用い、しかしその手法を自身の孤立を正当化する手段にしてしまった。同様に、海老名は他人への興味の欠如を隠す為に「腐女子」を装い、しかしその腐女子的な振る舞いが大切な数人とのコミュニケーション手段になってしまっている。
似ていても、近くても、同じように見えても、それぞれ違っていて、俺はこの一年かけて、それをずっと確かめてきたのだと思う。/おそらくは、俺と彼女もまた、同様に。vol.13, l.3698
「俺と彼女」を八幡と雪乃だとするならば、
きっと俺と彼女はどこか似ている。vol.01, l.0751
俺と彼女はちっとも似ていない。vol.06, l.4145
「ちっとも、似てなんかいなかったのね」/
俺たちはけして似ていない。vol.09, l.4468
など。
八幡は小町の誕生日を祝う。小町は結衣と八幡の約束を知っている。そして奉仕部の不安定さを察する。
八幡、ダミープロム計画を玉縄にプレゼン。意識高い系を脱した玉縄に八幡はフリースタイルで敗北するが折本が介入して合意。海浜総合とサイト用の写真撮影。
互いの距離感を気にしないというか、わかっていてなお、詰めようとするのだ、昔から。vol.13, l.3815
折本の設定の回収。
「抽象的すぎるんじゃないかな、不必要な部分が多すぎて、企画意図の焦点がずれてるよ」/「もっと伝える力を意識したほうがいいと思うよ。」/「筋道が立っていないよね」vol.13, l.3877
八幡のダミープロム案の暗喩。ダミープロム案は 「関わりがなくなるのが嫌」
vol.14, l.4272 という八幡の真の目的に比して婉曲に過ぎる。
遊戯部はダミープロムのサイトリリース。八幡はサイトのリークを依頼すべく陽乃を呼び出す。
あからさまに興味を失った様子で/「相談って言ったら恋愛ごとでしょ、普通」vol.13, l.4183
共依存が陽乃の詭弁であることの傍証。「相談って言ったら恋愛ごとでしょ」は、 「さ、三角関係、とか」
/ 「そんな風に思ってるんだ! ぷっ、しかもそれ自分から言い出すって面白すぎない?」
vol.12, l.4730 という態度と矛盾する。
なお陽乃は葉山の 「そういう言葉をわざわざ使って彼をけしかける人に心当たりがあったから」
vol.13, l.3356 により八幡がまだ雪乃に関わっている事を既に知っている。
八幡は陽乃にダミープロムサイトの雪ノ下母へのリークを依頼する。陽乃は八幡の方法を全否定する。結衣は八幡が「共依存の否定」に縋っている事を知る。
「避けて、距離とって、そうやって何もしないでいたら、何も変わらないです。それで、たぶん、そのままダメになって終わっちゃうんです。」vol.13, l.4240
八幡や雪乃は 対立とか勝負とかそういう理由がないと、近づくこともできない
vol.13, l.1606 から。結衣が自ら雪乃や八幡に関わらないと、雪乃も八幡も互いに離れてしまい、3人どころかうち2人のいずれも、一緒にいる事ができない。
実際に
左に折れれば特別棟、右に折れれば下へ降りる階段だ。/
「どうしよっか」vol.13, l.1665
右へ行けば階段、左へ行けば特別棟だ。/
「今日どうしよっか」vol.13, l.2117
など、結衣は八幡に雪乃との対話を二度促すも、しかし八幡は奉仕部部室を選択しない。かつ雪乃は結衣のことを 避けてた
vol.13, l.2960 。
「比企谷くんはなんでそこまでするの?」vol.13, l.4261
陽乃は、八幡や結衣が雪乃に干渉しようがしまいが三人の関係性は終わる、八幡による雪乃への干渉は無駄である、と理解したということ。
「雪乃ちゃんは」/
「その関係性を終わらせたいんだよ。」vol.13, l.4227
「少しでも近くにいて、関わってないと/
それがちゃんと終わらせるために、必要なことだから。」vol.13, l.4246
「それが、どんな終わりでもいいの?雪乃ちゃんも、......誰も望まない終わりでも?」/
「それでいいんです」vol.13, l.4258
に従えば、
である。
「比企谷くんはなんでそこまでするの?」/別に迷いがあるわけではない。既に答えは出ている。vol.13, l.4263
この「答え」は単純に八幡から雪乃への好意のこと。
傍らでは由比ヶ浜が身を固くして、じっと耳を澄ませている。
/ 由比ヶ浜の肩から力が抜けるのが伝わってくる。
という結衣の反応、及び、後の平塚の 「自分の中で答えはあるのに、それを出す術を君は知らないだけさ」
vol.14, l.3918 からして。
「ほんとのことは言わないんだね」/「仮にあったとしても......」/言いかけた言葉を飲みこんで、俺は違うことを口にする。/「それを言う相手はあなたじゃない」vol.13, l.4275
飲みこんだ言葉は恐らく「仮にあったとしても、伝わらない」。 「......言って、なかったか」
vol.13, l.2970 、 彼女には知っておいてもらいたい。
vol.13, l.1572 などと合わせ、他人に伝える意思の芽生えを示すだろう。
話者は陽乃。陽乃は「嘘偽りない唯一つの正しい結末」を探している。結衣が陽乃の「共依存」を否定する。
話者は結衣。陽乃曰く、八幡の全てを受け入れる結衣が最も重症。結衣は共依存云々を「痛いから」でキャンセルする。
「だって、こんなに痛いから......」vol.13, l.4391
結衣は概ね正しい、と設定されている。であるから陽乃の「共依存」も全無視が正しかった、のだろう。
とは言え結衣はここでは考えない。最終的に本物に対するアプローチが 「疑い続けます。」
vol.14, l.6455 と定義される以上、八幡が結衣よりも雪乃を選ぶ本質的な理由でもあろう。
八幡が雪ノ下母から呼び出される。結衣は同行しない。平塚は八幡をラーメンに誘う。
雪ノ下母には誤前提提示は効果がない。八幡は自らの名を名乗り、交通事故の被害者として言外に雪ノ下母を脅迫する。「そう......、あなたが......」。雪ノ下母と平塚は雪ノ下修正案の受け入れで合意する。
この駒は普段まったく使いどころのない、なんなら身の置き場もない穀潰しのろくでなしだ。/だが、ある一定条件下では女王を落とすことだってできる。vol.13, l.4561
大貧民の スペードの3。
/ だが、特定ルール下ではワイルドカード・ジョーカーに対する唯一の対抗手段とされる
vol.03, l.2780 が伏線。
「実際、俺みたいなどこの誰とも知らない奴じゃ説得力なかったわけですし」vol.13, l.4549 /「プロムの際には踊ってご覧に入れますよ」vol.13, l.4584
八幡は会話を誘導している。「比企谷」の名を問わせ、名を告げた意味を明示している。
「雪ノ下に修正案を軸にプロムを進めると伝えてくれるか。言い方は君に任せる」vol.13, l.4611
平塚は雪ノ下母に「八幡の行動の目的が雪乃のプロム実施の支援であること」を保証している。
なお平塚は雪乃の 「これで最後だから。......これでちゃんと終わりにできる」
vol.13, l.1130 という決意を知らない。あるいは雪乃が 「思い詰めてしまっている」
vol.13, l.0313 事を把握していて、しかしその程度を見誤っている。
「比企谷くん。また会いましょう」vol.13, l.4618 。
雪ノ下母が八幡を気に入った表現。誤前提提示も、名前を問わせ言外に脅迫した事も含めて。
八幡は生徒会室を訪れる。雪乃は不在。八幡はいろはにプロム実施決定を知らせる。
八幡は雪乃にプロム実施決定を伝える。これは雪乃の八幡への依存を強調する。雪乃「あなたに助けてもらえた」「だから」「これで終わりにしましょう」。雪乃の願いは「由比ヶ浜さんのお願いを叶えてあげて」。
「でも、あなたならどうにかしてしまうような気がしてた」vol.13, l.4693
「信頼が重いな......」
という皮肉が通じない程に。
「......あなたにも、わからないことはあるのね」
vol.09, l.3642 や 「これくらいのことはあなたも考えていると思っていたから」
vol.09, l.3688 と同系統の盲信であろう。
「楽しかった。初めてだった。」vol.13, l.4732
一句一句が過去の雪乃と八幡の出来事に対応する。
一緒に過ごす時間が居心地いいって思えて、嬉しかった
「居場所があるだけで、星となって燃え尽きるような悲惨な最期を迎えずに済むのよ」vol.01, l.0296 を引くだろうか。
あんなふうに、言い合いしたり喧嘩したり、
人前で泣いたことなんてなかった。
「ちゃんと始めることだってできるわ。......あなたたちは」vol.03, l.2939 直後。
「私は平塚先生に人員補充完了の報告をしてこないといけないから」vol.03, l.2942 として離席した後。
静かな嗚咽が漏れ聞こえてくるvol.09, l.3351 まで存在しない。
二人で出かけるのだってすごく緊張して、初めてでわからないことだらけで
「今日一日に限り、恋人のように振る舞うことを許可する」vol.03, l.1372 という奇行の理由。この時点での雪乃は恐らく八幡には好意を持っていない。
誰かに頼ってもいいって、そんなことも知らなかったの。
「それじゃあ相手も言い訳できないじゃない」vol.06, l.2483 の言い訳。
だから、どこかでまちがえて......
「曖昧な言葉で話をした気になって、わかった気になって、なに一つ行動を起こさない。そんなの前に進むわけがないわ......。」vol.09, l.5065 に代表される、前に進む行動。これ以降の八幡への同化。
あなたが望んでくれたものとはきっと違う
「俺は、本物が欲しい」vol.09, l.3244 。
「あなたに助けてもらえた」
「いつか、私を助けてね」vol.09, l.4407 の回収。
「あなたに助けてもらえた。」/「だから、この勝負も、この関係も......、これで終わりにしましょう。」vol.13, l.4745
「そうすれば、ちゃんと始められる」
vol.12, l.0594 との対比。 かつ、雪乃のキャラクター設定。 「だから、これで終わりにしましょう」 参照。
だから、もう何もない。俺が彼女に関わる理由はすべてなくなった。vol.13, l.4748
これらの「理由」は下記の通り。全てが真の欲求、 関わりがなくなるのが嫌
vol.14, l.4272 とは異なる。
あるいは八幡が雪乃に関わりたい正しい理由は材木座が 「なりたいから好きなわけではない! ......好きだから、なるのだ!」
vol.03, l.2669 として示している。
助けるという目標は達成され
「いつか、助けるって約束したから」vol.12, l.4853
共依存は解消され
依存がどうとか、そういうのもまぁ俺が招いた責任だ。vol.13, l.0729
男の意地も貫いた。
「男の意地っていうんだ」vol.13, l.3310
奉仕の精神などもとより持ち合わせてはいない。
「奉仕精神......、ですかね。」vol.13, l.4267
まるで誰かを看取るように頷く雪ノ下にvol.13, l.4756
八幡を好きだった自身を。
閉ざした扉が、二度と開くことのないように、固く鍵を掛けた。vol.13, l.4761
話者は雪乃。鍵を掛けている。 その鍵はいつも彼女だけが持っていて、俺は触れたことさえない
vol.12, l.2219 に従う。
せめて、壊れることがないように、そっと大事に仕舞い込み、これですべてをおしまいに。vol.13, l.4770
一生宝物のようにしまい込んでおけるなら
vol.13, l.3276 を引く。八幡と雪乃の思考が等しい。
どうかこれが正しい終わりでありますようにvol.13, l.4771
この終わりは、葛西臨海公園で問われた、奉仕部の終焉に対する雪乃の解法、である。三人でまた始める為に、雪乃は八幡を諦めるべく行動している。 「ちゃんと始められると思うから」 あるいは雪乃案2 参照。