八幡と雪乃は共依存ではない。

八幡と雪乃は共依存ではない。

プロム編は奉仕部の関係性の維持を「依頼」として、しかし3人の「依頼」「奉仕部維持の解法」「お願い」「本音」が全て異なる。本稿はこれをまとめる。

少なくとも八幡と雪乃は共依存ではない。メンタルヘルス的、社会学的、の様な厳密な意味ではなく、漠然とした意味であっても、その記述が見つからない。

共依存ではないという言及

「私としても依存という表現が正しいとは思わないが」vol.13, l.0305

平塚はそもそも依存という表現を否定する。

あからさまに興味を失った様子で / 「相談って言ったら恋愛ごとでしょ、普通」vol.13, l.3973

陽乃自身が八幡の相談に恋愛ごとを期待する。 「さ、三角関係、とか」 / 「そんな風に思ってるんだ! ぷっ、しかもそれ自分から言い出すって面白すぎない?」vol.12, l.4508 という態度と矛盾する。

陽乃が共依存を持ち出した理由

「あの子がちゃんと言ったのは、たぶん始めてだからさ。比企谷くんも見守ってあげて」 / 手を出すなと暗に言われた気がする。vol.12, l.1062

「……まだ『お兄ちゃん』するの?」vol.12, l.4376

陽乃は雪乃の自立の意思に触れ、雪乃に干渉しようとする八幡を二度牽制してきた。

「わかってるの、依存してること。」 / 「それは、違う……。ぜんぜん違うだろ」vol.12, l.4421

しかしそれでも八幡は雪乃に介入しようとした。

「共依存っていうのよ」vol.12, l.4520

であるから、陽乃は、八幡を牽制すべく、八幡に最も響く言葉を用いた。陽乃が「共依存」という言葉を選んだ理由、なぜ八幡に「共依存」という言葉が響くか、については 「共依存」は八幡が好意を認めないから機能する を参照。

「さ、三角関係、とか」 / 「そんな風に思ってるんだ! ぷっ、しかもそれ自分から言い出すって面白すぎない?」vol.12, l.4508

陽乃が八幡の 自尊心や自意識がりがり削 る為の演技。八幡は陽乃の牽制を繰返し無視した。だから陽乃は八幡の行動を制した、そのために共依存という言葉を用いた、ということ。

「ねぇ……。それは、本物って呼べるの?」vol.13, l.4180

陽乃の言う「共依存」は、本物ではなさそう、という程度の意味だと言える。読者が受け取る程の強い意味はない。

八幡は雪乃に依存していない。

陽乃は、 「あの子に頼られるのって気持ちいいでしょ?」vol.12, l.4526 と指摘する。が、雪乃から八幡への依存は明確である一方で、八幡が雪乃に依存している、八幡が雪乃の依存を気持ち良いと表現している箇所が見つからない。

雪乃母に同行を求められ、 雪ノ下は唇を噛んで下を向き、そしてちらっとこちらに視線を向けてくる。いや、こっちを見られても……。vol.11, l.1073

「手伝い、ということであればいいと思うけれど、……どう?」 / 「いや、どうと言われてもな……。」vol.11, l.0840

など、問題解決や意思決定を委ねられる場合は多くの場合に戸惑っている。

八幡は結衣に依存している。

「今しかない、あんなゆきのん、初めて見たから!」vol.09, l.3125 など、八幡が自意識故に行動できない場合に、結衣は率先して行動する。

八幡はバレンタイン前にデートに誘う。また、結衣がクッキーを「お礼」として渡した時点で これをただのお礼として、何も考えることなく、諾々と受け取るわけにはいかなかったvol.11, l.3921 として、八幡は結衣に好意の表明を要求している。

これらの八幡から結衣への態度は、 俺は彼女の優しさにずっと甘えていたのだ。心地良さに微睡んで、蓋をして見ないふりをして、ずっと助けられてきた。vol.14, l.4359 と総括される。

八幡の「お兄ちゃん気質」

八幡が誰かを気にかけて何かをしてあげる、それができない場合に寂しいと思う、という描写は多数ある。が、その相手は雪乃や結衣に限らない。

同時にどこかで安堵にも似たほんの一抹の寂しさがあった。vol.12, l.1791

小町に対して。

その安堵も寂寥も俺は既に味わっている。vol.12, l.2597

ちょっと寂しくて、誇らしい。vol.12, l.2619

あっさり開放されるとなにやら釈然としない。vol.12, l.3874

雪乃に対して。

なんか、手がかからなくなるとそれはそれで寂しいなぁ。vol.11, l.0880

いろはに対して。

雪乃は八幡に依存している。

以上、作中の描写を依存だと表現して良いのであれば、十分に依存的である。

陽乃と葉山はこの依存に気付いている。

但し雪乃から八幡へのそれは依存ではないかもしれない

「一緒に傷つくのなら、それは傷ではないのかもしれないな。」vol.09, l.4896

「余人に理解されない幸福は閉じた幸福だとも言えるからな」vol.09, l.4901

平塚は雪乃の依存についてある程度の懸念は持ちつつ、しかしさほど否定的ではない。

あるいはミラーリングの一種、好意を持つ誰かに行動を似せているだけ、かも知れない。本文中にミラーリングへの言及が複数見られる。

雪乃は結衣に依存している。

など、雪乃が維持できない人間関係の修復の多くを結衣が担っている。

結衣は八幡に依存していない。

結衣は八幡を 諦めたり、譲ったり、拒否したりvol.12, l.4668 できない。八幡の行動を止められない、明示的な要求を拒否できない。

例えば、プロム自粛決定後、八幡が雪乃を助けに行く時点で、結衣は八幡を制止できず、 なにするためにいくの?vol.12, l.4633 と問うことしかできない。このとき、結衣は、

を把握していて、それでも八幡を制止できない。

いずれも結衣の空気を読む程度の能力の延長に等しい。

結衣は雪乃に依存していない。

人間関係を維持する上での共生的な依存はあるが、病理としての共依存が意味する様な依存ではない。

共生は 彼女の気持ちを効くのはずるいことだ。 / 自分の気持ちを言うのはずるいことだ。 / でも、彼の気持ちを知るのが怖いから。 / 彼女のせいにしているのが一番ずるい。vol.12, l.1175 が相当する。結衣は、八幡の好意の対象を明確化させない為に、雪乃の好意の表明を封じている。

あるいは あたしは彼女に依存したの。vol.12, l.4670 が相当する。八幡が雪乃に干渉する事は雪乃の為にならない事を知りつつ、しかし雪乃を助けに行く八幡の拒否を雪乃に委ねた。