結衣案1 葛西臨海水族園デート

結衣案1 葛西臨海水族園デート

葛西臨海水族園での奉仕部のあり方は、結衣が、あるいは三人が同意し得る理想の奉仕部の姿である。結衣はその理想の奉仕部の姿を提示した上で、それを実現する手段として、「三人が、好意の表明を封じたまま、ずっとこのまま」とすることを提案する。

これに対して、八幡は 「雪ノ下の問題は、雪ノ下自身が解決すべきだ」vol.11, l.3987 として結衣の提案を拒否する。雪乃は、本来結衣の提案に同意していたにも関わらず、八幡のこの拒否により、自身の願い、依頼を変える。

これを示す。

1. 結衣は単独での八幡との交際を否定する。

「三人で、行きたいの……」 / その希うような声音で十分に伝わるvol.11, l.3466

「希う」は「三人でデートに出かけるような状態」を指すキーワードとなる。 いつかのように、由比ヶ浜結衣は希う。vol.14, l.3972 など。

「……ここで、いいのか?」 / 「ここがいいの」vol.11, l.3476

「三人でいいのか」「三人がいい」の意だろう。

「二人」の想起する場所は文化祭での 「じゃあ、今度ハニトー奢ってもらうことにする。」vol.06, l.2933 もしくはディスティニーランドでの 「隣りのわりかし新しいほうはどうなんだろうな」vol.09, l.4011 など。

2. 結衣は理想の奉仕部の姿を提示する。

結衣は水族園での3人デートで理想の三人の具体例を提示する。この水族園では3人の関係性や距離感の変化を概ね追体験する。

「もう一周しちゃおっか!」 / 「楽しいと思うけど……。それに、まだ時間あるし……」vol.11, l.3798

結衣が望む奉仕部の比喩。まだ時間があるから水族園をもう一周できる。卒業までにはまだ一年あるから、春から冬までの一年間をもう一度できる。

不安定さを偽りながら / 前へ進むことはなく、ただ同じところをいつまでも。vol.11, l.3850

もう一周しない事を決めた現在の奉仕部の比喩。

「お互いの思ってることわかっちゃったら、このままっていうのもできないと思う」vol.11, l.3935

「このまま」がこの水族園での三人の姿を参照する。

競合他社にはないであろうメリットを提示するプレゼン!あえてテンションを上げて前のめりに行くことで、フランクさを演出だ! / ガハハ笑いで誤魔化せる。その場の笑い話で済ませることができる高等テクニックだ!vol.A3, l.3358

後のアンソロジーにて由比ヶ浜父がこの3人デートの意図を解説する。

何もしない八幡案、実現できない雪乃案に対して、結衣は「ずっと、このまま」のメリットを提示した。 「もっとテンションあげてこうよ〜」vol.11, l.3501 として前のめりに。さらに八幡が結衣案を拒否しても、 由比ヶ浜はにっこりと優しく微笑んだ。vol.11, l.4012 として誤魔化した。

3. 結衣は自らの好意の表明を封じる。

「あたしが自分でやってみるって言って。自分なりのやり方でやってみるって言って。それがこれなの」vol.11, l.3910

結衣が八幡への好意を表明しないという宣言。 「依頼のほうはどうするの?」 / 「今度は自分のやり方でやってみる」vol.01, l.1340 を引く。この依頼とは「八幡と仲良くなりたい」である。 結衣の依頼は「料理を上達したい」ではない。 参照。

これに従い、引用文中の指示代名詞を具体化すれば、

であって、平易に言い換えると、

となる。

つまり、結衣は「これからもずっと八幡と雪乃と仲良くしたいから、バレンタインのチョコレートを、本命でも義理でもなく、好意の有無を明確にしないまま、お礼として渡す」ということ。

仮に。もし仮に。その想いが何か特別なものであったとすれば。vol.11, l.3917 / これをただのお礼として、何も考えることなく、諾々と受け取るわけにはいかなかった。vol.11, l.3920

一方で今はもう八幡は結衣に好意を表明されても拒絶しない。 仮に。もし仮に。その想いが何か特別なものであったとしても、だ。vol.03, l.2781 を引く。

「それでも、……ただのお礼だよ?」 / 由比ヶ浜は押し殺したような声で言うと、唇を浅く噛んで表情を歪めた。vol.11, l.3919

この「ただのお礼だよ?」が、結衣が自身の恋心を封じた行動、八幡への恋心に対する訣別の宣言、である。

「ヒッキーが思ってるほど優しくないんだけどな」 / その瞳はまるで別離を告げるような儚げな微笑みを湛えていてvol.11, l.3642 も同様の宣言であって、結衣は自身の八幡への好意に別離を告げている。

4. 「例の勝負の件」を持ち出す

「例の勝負の件ってまだ続いてるよね?」 / 「ゆきのんの今抱えてる問題、あたし、答えわかってるの」 / 「たぶん、それが……あたしたちの答えだと思う」 / 「ゆきのん、それでいい?」vol.11, l.3945

雪乃が同意するならば、結衣が勝負に勝ったことにして、 「ずっと、このままでいたいなって思うの」vol.11, l.3962 という結衣の願いを三人で叶える、その為に3人ともが好意の表明を封じる、ということ。

指示代名詞を具体化して平易にすると、

となる。

5. 八幡と雪乃に好意の表明を封じる様に求める。

「ゆきのん、それでいい?」 / 「わた、しは……」vol.11, l.3978

雪乃は既に「結衣と共に本命チョコレートを渡す」ことを試みて失敗した。であれば当初の予定通り雪乃は好意を表明しないまま八幡を諦める事になる。一方で結衣の提案は「結衣も雪乃も好意を表明しない」であって、雪乃は同意し得るだろう。

視界の端で雪ノ下がぐっと鞄を握りしめてvol.11, l.3890 いることからして、雪乃は八幡に渡せなかったチョコレートをこの時点でもまだ持っている。かつ結衣は雪乃の前で自身の好意の表明を封じたチョコレートの渡し方を見せている。よって雪乃は、本命としてではなく、なんらかのお礼として、チョコレートを渡す事ができて、それを以て自身の好意を表明しない証、とすることができる。

なおアニメでの雪乃の台詞はより明示的に「わたしはそれでも構わな」まで続く。

「あたし、ずるいんだ。卑怯な子なんだ。」vol.11, l.3925

結衣は本来は雪乃と八幡が双方向に片想いであることを把握した上で、それを叶えない。 「ヒッキーが思ってるほど優しくないんだけどな」vol.11, l.3642 も同様。

6. やはり八幡の「雪ノ下の問題は、雪ノ下自身が解決すべきだ」はまちがっている。

そうやって言い訳が用意されているなら、俺はきっと自分を納得させることができる。vol.11, l.3970

八幡は結衣の提案に同意できる。

裏返せば八幡は自分から雪乃ルートを選択できない。自分から雪乃を諦めることもできない。であるから八幡は雪乃自身に諦めさせる。 俺が見つけ出した、俺の答え、俺の理由で動かなければならなかったのにvol.09, l.2898 と同種のまちがい。

「その提案には乗れない。雪ノ下の問題は、雪ノ下自身が解決すべきだ」vol.11, l.3987

まちがっている。

「あたしたちのこと」という相談に対して、「雪ノ下の問題は雪ノ下自身が解決すべきだ」としている。「三人ともにどうすればいいか解らない」という問題に対し、「雪乃が解決しろ」としている。八幡の言は 「あなた一人の責任でそうなっているなら、あなた一人で解決するべき問題でしょう」vol.09, l.2983 , 「自分のことは自分で。当たり前のことなんだ」vol.09, l.2996 に等しい。この時結衣は既に 「ヒッキー一人の責任じゃないんだよ」vol.09, l.3001 と訴えている。

実際に後に八幡はここでまちがえたと省みる。 「雪ノ下の問題は、雪ノ下自身が解決すべきだ」はまちがっている。 参照。

「……ヒッキーならそう言うと思った」 / 由比ヶ浜はにっこりと優しく微笑んだ。その瞬間つっと滴が頬を伝う。vol.11, l.4011 / 俺はどうだろう、無様な顔をしていなければいいんだけど。vol.11, l.4013

ミスディレクション。結衣の涙に対して、八幡は自身の事しか考えていない。結衣の 優しさに縋vol.14, l.3725 っている。

不安げな眼差しが儚げに揺れている。 / 俺の眼差しがずっと彼女の答えを待っているのだと気付くと、小さな深呼吸をする。vol.11, l.4020

雪乃が八幡の意、「雪ノ下の問題は、雪ノ下自身が解決すべきだ」を汲んだ描写。雪乃の 誠実さに甘えvol.14, l.3725 ている。

「あなたの依頼が残ってる」vol.11, l.4025

八幡の依頼は「本物が欲しい」。但し八幡はこれが依頼として解釈されたとは理解していない。