八幡案1 お料理イベント

八幡案1 お料理イベント

10巻以降の奉仕部は来年ないし卒業後に向けて「三人で仲良くしたい」を実現しようとしている。 バレンタインデーのお料理イベントはこれを実現する為の八幡の案である。 三学期編概要 参照。

すなわち、奉仕部の関係性は誰かが好意を表明すればそれで瓦解する。お料理イベントは奉仕部が告白無しにバレンタインデーを乗り切る為の延命策であって、具体的には「自らは何もせず、結衣に告白させる」である。

前提 八幡は結衣を選択する。

「お前、そのうち暇な日ってあるか?」vol.11, l.0165

八幡はバレンタインデー前に結衣をデートに誘う。暗黙にチョコレートを、あるいはさらに告白を要求している。

すなわち奉仕部の終焉に対する八幡案は、自身は結衣に好意を表明せず、結衣に告白させること、である。雪乃との仲の維持はおそらく結衣に全面的に頼っている。

八幡がこの案を選択した理由は単純に この先のことについて考えることをずっと避けてvol.12, l.0422 いるから。即ち自意識過剰。あるいは結衣は 「ちゃんと考えてます。……ゆきのんも、あたしも」vol.11, l.3100 として八幡を加えていない。

八幡自身から結衣に告白しない理由は、自身が結衣を選択するその言い訳を結衣に求めているから、あるいはさらに雪乃ルートの可能性を残しておきたいから、だろう。

なおデートに誘うこと自体は、文化祭での 「じゃあ、今度ハニトー奢ってもらうことにする。」vol.06, l.2933 もしくはディスティニーランドでの 「隣りのわりかし新しいほうはどうなんだろうな」vol.09, l.4011 の回収。

多少のことなら雰囲気に飲まれて誤魔化して、『ノリだから』の一言で済ませてみたいもんだ。そうやって、期待して甘えて委ねて待ってていたいもんだ。vol.11, l.0154

バレンタインデー前にデートに誘う事自体がチョコレートの要求である。つまり、八幡は、結衣からの好意の表明を、バレンタインデーの雰囲気で誤魔化して、期待して甘えて委ねて待っている。

ただ待っているだけなのは不誠実だ。 / ちゃんと踏み込んで、後で悔やんできちんと偲ぶ。vol.11, l.0158

八幡は結衣に告白を促したとして、しかしその交際は続かない事が前提である。少なくとも本物ではなく、後の言葉を借りれば 模造品vol.14, l.3970 である。

あいつは誰のために作ろうとしたのだろうかvol.11, l.0096

なお、八幡はこの時点でも結衣が初回依頼でクッキーを食べさせようとした相手が自分であることに気付いていない。

このバレンタインデーには問題がある。

「表立って渡せなかったり、いろんなことに気をまわしちゃったりするんじゃないかなーって」vol.11, l.0784

第一義は「葉山の気持ちも解る」ということ。ダブルミーニングとして、雪乃と結衣の立場。

バレンタインデーにチョコレートを渡すならば、本命か義理か、として結衣や雪乃の好意の程度が問われる。これは奉仕部の人間関係に影響し、雪乃はチョコレートを表立って渡せないし、結衣は雪乃に気を回す。

「全然欲しくなさそうっていうのもちょっとどうしていいかわかんなくなるから困るけど……」vol.11, l.1515

戸部を話題にした会話ではある。が、これも八幡のこと。八幡は「チョコレートが欲しい」という表明を はっきりと蓋をしてvol.11, l.3353 避けている。特に結衣のチョコレートが欲しいという見解は11巻を通してセリフにも地の文にも一切ない。

雪乃案、バレンタインデーを無視する。

「比企谷くんには競い合うような友達、いないもの」 / 「俺には小町がいるからな!」vol.11, l.0322

バレンタインデーに対する雪乃案。バレンタインデーの話題を回避する。八幡もその選択を理解し同調する。

但し三浦や川崎に相談され雪乃案は破綻する。

八幡案、好意の明確化のみ先送りする。

「そっか、一緒に作っちゃえばいいのか」 / 無事伝わってよかったなと思います。vol.11, l.0868

八幡案、結衣と雪乃がチョコレートを一緒に作って八幡が試食する。八幡は、三浦や川崎の依頼にかこつけたまま、奉仕部のバレンタインデーの問題への解法を示している。これにより、結衣も雪乃も八幡も「イベント中に八幡にチョコレートを贈った/受け取った」として、バレンタインデーを好意の明確化無しに乗り越える事ができる。

そんな「優しい」人たちのためにvol.11, l.0847

「人たち」であるのでバレンタインイベントの対象は葉山らだけではなく結衣を含む。

「構わないわ。味見して意見をくれれば」 / その言葉はいつだか聞いたことがあった。vol.11, l.0856

「味見して感想をくれればいいのよ」vol.01, l.1004 。雪乃は八幡案に賛同しているということ。

結衣の初回依頼では八幡は結衣の好意を理解せずに意見しか伝えていない。今回も結衣や雪乃の好意を八幡が受け入れる必要はない、と雪乃は考えている。

由比ヶ浜はどこか寂しげに、何もない掌を見て、きゅっと軽く拳を握る。vol.11, l.2350

結衣は好意の明確化の先送りに同調はすれど賛成はしていない。

「小町以外にもそうやってわがまま言えるようになるといいんだけどねぇ」vol.11, l.3541

なお正答は結衣や小町の言う通りに八幡が 「チョコくれよチョコ……」vol.11, l.3313 と言うこと。

実際にお料理イベントは問題を先送りする。

片や食べるまでもなく分かる苦味を感じさせる暗黒物質。片やどんな味か予想がつかない暗黒物質。vol.11, l.1858

典型的ラブコメ。このお料理イベントの姿が理想の奉仕部の姿の一つであるということ。