11巻 バレンタイン・水族園

11巻 バレンタイン・水族園

2月。 三人の関係性の存続に向けた行動。八幡案、先送り。結衣案、三人とも行為の表明を封じる。

バレンタインデーお料理イベント、葛西臨海水族園の2編からなる。

10巻以降は来年ないし卒業後に向けて「三人で仲良くする」を実現するエピソードである。 三学期編概要 参照。

バレンタインデーお料理イベントは「先送り」という八幡案である。 八幡案1 お料理イベント 参照。

バレンタインデー前日、雪乃は八幡にチョコレートを渡せない。これは雪乃案であって「結衣と雪乃と八幡の三人で恋人になろうとしたから」である。 雪乃案1 けれどそのチョコレートは渡せない 参照。

葛西臨海水族園でのデートは「三人が、好意の表明を封じたまま、ずっとこのまま」という結衣案を示す。 結衣案1 葛西臨海水族園デート 参照。

冬は、その始まりを知るとき既に過ぎ去っている。vol.11, l.0020

バレンタインデーが近い。葉山はチョコレートを受け取らない。

八幡は結衣をデートに誘うが保留される。なぜならば奉仕部には好意を明確化するバレンタインは問題であるから。

いろはは奉仕部でチョコレートの話題を振る。雪乃案、バレンタインを無視する。八幡も同調する。

料理は真心ですよ。vol.11, l.0282

「やっぱ真心、ですかね」vol.14, l.1886 の伏線。ではなかろう。

こうして、女だらけの戦いが始まる(男もいるよ)。vol.11, l.0412

三浦の依頼、手作りチョコレートを葉山に食べさせたい。川崎の依頼、京華に作らせたい。

依頼により雪乃案は破綻。八幡案、チョコレート料理教室。葉山にチョコレートを受け取らせる手段であって、さらに奉仕部内での好意の明確化を回避できる。

「一色が前に自分で言ってあざとく無駄アピールしてたし……」vol.11, l.0426

「ちなみにわたしは四月十六日ですよ、先輩」vol.10, l.1420 のこと。

「無駄じゃないですよ」とのことなので、いろはの誕生日アピールの目的はそれを八幡に覚えてもらうこと。

思いがけず、一色いろはの不在がもたらすものは。vol.11, l.0882

雪乃、結衣、いろは、間でそれぞれ関係が成立した。作るチョコレートを考える雪乃と結衣は初回依頼に相似する。

そうして、男たちの一喜一憂が始まる(女もいるよ)。vol.11, l.1265

バレンタイン直前お料理イベント。

いろはが葉山戸部、海浜総合、めぐりら前生徒会、川崎京華、等々巻き込んで巨大イベントにした。陽乃も。

お料理イベントは葉山の問題を解決する

「邪魔者が見ていないところに引っ張りだしちゃえばいいんですよねー?」vol.11, l.0822

ここでの邪魔者とは三浦ではなく衆目のこと。葉山がチョコレートを受け取れない理由は、三浦やいろはがチョコレートを渡し、葉山が受け取ると、葉山はマラソン大会前と同じく話題になってしまうから。

誰もがよく知る葉山隼人らしい優しげな微笑みを浮かべた。 / 「これならみんな……、みんな自然に振る舞える」vol.11, l.2190

葉山も八幡と同じくバレンタインデーを三浦やいろはの好意の明確化無しに乗り越える事ができる。

やがて、葉山の視線は俺へと戻ってきた。 / その表情は俺の知る葉山隼人らしい寂しげな微苦笑だ。vol.11, l.2179

誰もがよく知る葉山隼人 との対比。葉山は「みんな」に要求される通りに振る舞い続け、誰も選ばないでいる事ができる。そしてその「みんな」に八幡は含まれない。 「俺もお前が嫌いだよ」 / 「それでも……。俺は選ばない、何も。」vol.10, l.4183

「うーん、はやとべかー。いまいちコないなー」vol.11, l.2492

あるいはさらに海老名でさえ戸部にチョコレートを渡してみることができる。

ふと、平塚静は現在進行形と過去形について説く。vol.11, l.1740

いろはは八幡に味見させる。結衣と雪乃も味見させようとする事ができる。

葉山曰く、いろは・三浦のみならず結衣・雪乃も自然に振る舞える。

折本、玉縄らは相変わらず。

陽乃は雪乃に「誰かにはあげるんだ?」と煽る。

平塚は「この光景を見れてよかった」とする。八幡は他人から見た自分が変化している事を「違和感」として訴える。平塚は「歩みを止めてしまった者」にとってはその変化は裏切りに映ると応える。

「ゴディバは定番だけど、ピエールエルメにジャンポールエヴァン……。」vol.11, l.2074

エヴァンとエルメとサダハルアオキが並ぶなら伊勢丹系だろうか。昔は千葉に三越があったそうです。

どーでもいいけどチョコレート屋はゴディバとエヴァンのみ。エルメやサダハルアオキなどのパティシエ系が多く混じっている。

無論、これも彼女の強化外骨格めいた外面のなせる業なのかもしれない。vol.11, l.2102

陽乃は高校在学中に生徒としてのペルソナを静に対して作った。静に対してはこのペルソナが今も適用されていて、それは当然雪乃や八幡に対するものとは異なる。

「今度付き合ってよ〜、ほら、積もる話とかあるじゃない?」 / 「……本当に積もる話があるなら、いつでも付き合ってやる」 / 一瞬ちろりと青い炎が灯ったように見えた。vol.11, l.2116

陽乃が何かを思いついた表現。 「危うく朝までコースになるとこだった」vol.12, l.1013 として、実際に陽乃と飲んでいる。

10巻で展開された様に、陽乃は、自身の外面あるいは他人の印象と陽乃自身の内心の乖離が大きい。陽乃は享楽的に生きる事でその乖離を無視している。一般論ではあるが、平塚が想定するような深刻な「積もる話」は、陽乃は自身では持てない。

この享楽的な生き方を平塚は 歩みを止めてしまったvol.11, l.2401 と評している。陽乃もかつて外面と内心の乖離に悩んだはずであって、平塚は今もそれを懸念している、ともすれば悔いている、のかもしれない。

あるいはさらに陽乃と平塚は「本物」というキーワードを共有する。八幡が「本物」への固執を捨てた後もこの二人は本物という言葉に反応する。この二人は最終的に さながら大人同士のデートのような状態のままvol.14, l.6223 に至る。「青い炎」はその関係性を示唆するかもしれない。

「そっか、今年はあげるよ」 / 「じゃ、できたら食べに来てよ」vol.11, l.2262

折本から見て八幡はどうでもいい相手のままである、ということ。「取りに来たら」であって、自分から八幡にチョコレートを渡す意思はない。

「雪乃ちゃんは / 昔から嘘をつかない子だったし」 / 「でも、本当のことを言わないことはある」vol.11, l.2316

全編を通した雪乃の設定。雪乃は嘘をつかないが本当のことを言わないことはある。

由比ヶ浜はどこか寂しげに、何もない掌を見て、きゅっと軽く拳を握る。 / 彼女のあの表情は今までにも見たことがあったはずだ。vol.11, l.2350

「寂しげに、何もない掌を見て」に相当する表現は本文中には見つからない。文脈的には雪乃に気を使ったときの表情であって、八幡のデートの誘いを保留したときの そこにあるのは、困ったような笑顔でvol.11, l.0174 、「あたしらしい、か……」の後の 由比ヶ浜は困ったように笑うと、少し沈んだような表情を見せた。vol.11, l.0787 などが相当しよう。あるいはそもそもが1巻から結衣は周囲に合わせる性格だとして描かれている。

「その違和感についてずっと考えなさい」vol.11, l.2398

「だから、ずっと、疑い続けます。」vol.14, l.6454 として繰り返される、最終的な本物の定義に等しい。

「歩みを止めてしまった者からすると、進んだ距離の分だけ裏切られたようにも感じるものだが」vol.11, l.2401

「歩みを止めてしまった者」とは陽乃。お料理イベントに際して八幡が感じた違和感は成長であって、しかしお料理イベントの馴れ合いは陽乃には裏切りに映る。

「今、近い場所でこの光景を見られてよかったよ」vol.11, l.2403

「この光景」とは、コミュ障だった八幡や雪乃が奉仕部の活動を通して人間関係を築くに至った姿。この参加者の多さは、孤立していた八幡と雪乃が奉仕部設立以降に他人に関わり作り上げた繋がりであって、すなわち八幡らの成長を示す。平塚はこれを喜んでいる。

俺ガイルはスクールカースト、ぼっち、が主題の一つであった。他方、お料理イベントには登場人物のほぼ全てが参加する。このお料理イベントはスクールカーストを舞台とした物語のラストシーンと言える。

実際にお料理イベントに参加するキャラクター陣はプロム編にて対立する八幡と雪乃とを繋ぎ止める。ダミープロム立案、八幡のプロム本編参加、ダミープロム実現、など。

かつて人間関係が存在しなかったからこそ機能した八幡の自己犠牲による方法論はもはや機能しない。がしかし、人間関係を持つということは孤独であることよりも多くの成功をもたらす。それがぼっち、孤立、コミュニケーション障害、に対する俺ガイルの結論、だろう。

「いつまでも見ていてはやれないからな」 / 「3月までもうあまり時間がないし、今のうちに片付けておきたいんだ」vol.11, l.2405

伏線。平塚は3月で離任する。

未だ、彼の求める本物には手が届かず、本物はまちがい続ける。vol.11, l.2417

参加者同士でチョコレートを渡しあう。八幡は違和感を覚えながらもそれを楽しいと思う。陽乃はその八幡に失望し馴れ合いを蔑む。

雪乃母が現れ、雪乃の遅い帰宅を咎め、雪乃に進路を問う。

八幡は楽しいと表現した自分に自己嫌悪する。

「今度はフェアに行こうじゃないか」vol.11, l.2528

玉縄から八幡へのデートの誘い。嘘。

玉縄は折本を狙いつつ折本と八幡の関係を疑っていて、あるいはさらに玉縄が折本かおりの八方美人なキャラクター作りを理解できていない。「誰にでもチョコレートをあげる」様な折本のキャラクターを理解しているなら八幡には対抗するまい。

「フェアではない」とはおそらく八幡と折本が同じ中学出身であるということ。

「今の比企谷くんたちは、なんかつまんない。」vol.11, l.2725

陽乃が雪ノ下母を介入させた理由。 内側に入り込んでまた試したいと、壊してみたいと思っているvol.10, l.4210 。「今の比企谷くんたち」 の関係が、介入するまでもなくいずれ壊れる事は自明である、ということ。

お料理イベントは、「バレンタインデーのチョコレートには本命か義理かの明確化を伴う」という問題点に対する、「結衣と雪乃がチョコレートを一緒に作って八幡が試食する」という解決策である。つまり先送りであっていずれ壊れる。

「あ、あのさ、ご飯、食べてかない?」vol.11, l.2770

結衣はこの時点で八幡を含めての話をしようとしている。おそらくこの時点で既に 「これからどうしよっか」vol.11, l.3877 から始まる、奉仕部の関係の永続化に向けた話し合いを考えている。

というかチョコレート食べまくった後に既に腹が減ってる八幡ってどういう。

「陽乃からあなたの進路の話を聞いたからよ。」vol.11, l.2795

つまり雪乃母の介入は陽乃の差し金。 「雪乃ちゃんの進路は聞いた?」 / 「一応知ってますけど、それを俺が言うのはエアじゃないんで」vol.10, l.4247 という会話で、陽乃は雪乃が進路を決めたことを知っている。

そもそも雪乃は文転した時点で学費を担う親に進路の説明は済ませていて当然ではある。

「あなたのお家の方もきっと心配されてるわ。」vol.11, l.2814

伏線。八幡は雪ノ下家の事情に介入する事で雪乃を繋ぎ止める。

どうしようもなく、雪ノ下雪乃の瞳は澄んでいる。vol.11, l.2865

2/13、バレンタイン当日は高校が休みであるために、この日がチョコレートを渡すべき日である。

雪乃はチョコレートを作ってきた。が、八幡は積極的に要求しないし、雪乃は躊躇し渡せない。

陽乃が現れ、雪ノ下母の命で雪乃の監視を始める。陽乃は、雪乃の行動は、陽乃あるいは八幡や結衣を倣っているだけだ、と指摘する。

結衣は結衣宅泊を雪乃に提案し、八幡が理由付けし、雪乃は陽乃に対してその理由を復唱する。

八幡は小町には「チョコくれ」と言える。八幡はこの日は意図的にチョコレートの話題を回避していた。

「あたしもあれからちょっと頑張ったんだけど、なかなかねー」 / 由比ヶ浜が誤魔化すように笑った。お団子髪をくしくしといじりながらvol.11, l.2948

結衣はこの段階ではチョコレートを渡さない。理由不明。八幡が14日に暇であることを確信しているか、雪乃の出方を伺っているか。

「あ、や、別に俺は……」 / 雪ノ下のため息が聞こえてくる。vol.11, l.2982

まちがっている。正答は 「チョコくれよチョコ……」vol.11, l.3313

「今だって、どう振る舞っていいかわかってないんでしょ?」 / 「雪乃ちゃんはいったいどうしたいの?」vol.11, l.3087

雪乃は陽乃をクローンする。「姉さんが今までやってきたことなら大抵のことはできるのよ」vol.06, l.3423 など。つまり雪乃ができない大抵のことは陽乃もできない。であるから陽乃もどう振る舞っていいか解っていない。であれば陽乃はチョコレートを渡せない雪乃を見ていて助けに入ったけれど、陽乃もどう振る舞っていいのかわかってないので、とりあえず悪態を吐いた。

つまり「雪乃ちゃんはいったいどうしたいの?」は雪乃を助ける、雪乃の思考を導く言葉である。であるから、「……姉妹喧嘩なら他所でやりませんか」という八幡の介入は、まちがっている。

「ちゃんと考えてます。……ゆきのんも、あたしも」vol.11, l.3100

陽乃の 「雪乃ちゃんはいったいどうしたいの?」 が、チョコレートをどうしたいのかではなく、「雪乃は現在の奉仕部の関係をどうしたいのか」という問いであるということ。結衣がそれを理解しているということ。「……お前も、ちゃんと考えたほうがいいぞ」vol.08, l.0836 を引く。

あるいはさらに雪乃と結衣のみがちゃんと考えていて、言及されない八幡はちゃんと考えていない、ということ。 「……ヒッキーならそう言うと思った」vol.11, l.4011 の根拠でもある。

やがて俯いてしまった由比ヶ浜に、陽乃さんは悲しげにも見える優しい眼差しを向けた。vol.11, l.3100

台詞の語感とは異なり陽乃は結衣や八幡に敵対はしてない。

陽乃から見た結衣は 可愛がっている子vol.13, l.4158 であるし、 それで、とても悲しそうな顔をした。 とあるから 「あの子たちがあんな感じだから、あなたが一番大人にならざるを得ないのよね」vol.13, l.4168 を見抜いたということ。

「雪乃ちゃんが帰れる場所なんて、一つしかないんだし」vol.11, l.3103

唐突に過ぎる。であれば単純に「雪乃がマンションに帰らなければよい」というヒントだろう。

「余計なこと言わなくていいからっ!」vol.11, l.3171

結衣はクッキーの自作が母から露見することを危惧している。この日の夜は由比ヶ浜宅には雪乃が泊まり、その翌朝に3人で葛西臨海公園である。であるから、この時点で既に結衣は八幡向けのクッキーを用意している。

「今の……」という小さなつぶやきが聞こえてきた。 / 由比ヶ浜が驚いたような表情で雪の下と俺を交互に見ていた。vol.11, l.3210

結衣が雪乃の依存癖、問題解決を八幡に委ねる癖に気付いた表現。

「小町以外にもそうやってわがまま言えるようになるといいんだけどねぇ」vol.11, l.3325

小町は理想解の提示役。八幡が「チョコくれ」と結衣や雪乃に一言言っていれば二人共に八幡にチョコレートを渡せた。

どこまでも、由比ヶ浜結衣の眼差しは優しく暖かい。vol.11, l.3364

2/14。

結衣は雪乃・八幡とで三人でデートする。

結衣は自身の二面性を、雪乃は自身のパーソナリティが依存的であることを伺わせる。

そもそも最初に誘ったのは俺だ。ただそれをずっと先延ばしにし続けてきただけだ。vol.11, l.3436

不明。八幡は一度 「お前、そのうち暇な日ってあるか?」vol.11, l.0165 として問うたのみで、これを保留したのは結衣である。

どちらかが死んでしまわない限り、同じパートナーと連れ添い続けるvol.11, l.3701

伏線。後に雪乃は八幡との関係を 「パートナー……、とか?かしら……」vol.14, l.5716 と評する。

「寄る辺がなければ、自分の居場所も見つけられない」vol.11, l.3742

八幡がかつて雪乃に押し付けた理想、 寄る辺がなくともその足で立ち続ける。vol.05, l.2265 との対比。その八幡の理想がまちがっていたということ。

ここで八幡は一切の反応を示さない。恐らくは 理想を押しつけまいと決めたのだvol.06, l.3954 の時点で雪乃に押し付けた理想を既に捨てている。

春は、降り積もる雪の下にて結われ、芽吹き始める。vol.11, l.3853

結衣は、バレンタインではなく、初回の相談に対するお礼として、クッキーを渡す。

結衣案。全員が好意を表明しないまま、デートで提示した姿を維持する。八幡はこれを拒否する。

「その提案には乗れない。雪ノ下の問題は、雪ノ下自身が解決すべきだ」vol.11, l.3987

プロム編を通してのトリック。後に 歪んだ欺瞞を強要した。vol.14, l.3725 と省みる。 「雪ノ下の問題は、雪ノ下自身が解決すべきだ」はまちがっている。 参照。