11巻 バレンタイン・水族園
2月。 三人の関係性の存続に向けた行動。八幡案、先送り。結衣案、三人とも行為の表明を封じる。
バレンタインデーお料理イベントと葛西臨海水族園の2編からなる。
10巻以降は奉仕部の終焉に向けて「三人で仲良くする」を実現するエピソードである。 三学期編概要 参照。
バレンタインデーお料理イベントは奉仕部の終焉に対する「先送り」という八幡案である。 八幡案1 お料理イベント 参照。
バレンタインデー前日、雪乃は八幡にチョコレートを渡せない。これは雪乃案「結衣と雪乃と八幡の三人で恋人になる」の失敗である。 雪乃案1 けれどそのチョコレートは渡せない 参照。
葛西臨海水族園でのデートは「三人が、好意の表明を封じたまま、ずっとこのまま」という結衣案を示す。 結衣案1 葛西臨海水族園デート 参照。
葉山はバレンタインデーのチョコレートを受け取らない。八幡は結衣が誰にクッキーを作ろうとしたのかを知らない。葉山らは復縁した。
いろはは義理チョコを作る。葉山がチョコレートを受け取らない理由はその後もめるから。雪乃案、バレンタインを無視する。八幡も同調する。
「一色が前に自分で言ってあざとく無駄アピールしてたし......」vol.11, l.0426
「ちなみにわたしは四月十六日ですよ、先輩」
vol.10, l.1420 のこと。
「無駄じゃないですよ」とのことなので、いろはの誕生日アピールの目的はそれを八幡に覚えてもらうこと。
三浦の依頼、葉山向け手作りチョコレート。課題は葉山がそれを受け取らないこと。
沙希の依頼、京華でも作れるチョコレート。
平塚が奉仕部件への一色の参加を認める。雪乃の課題、依頼の数、葉山がチョコレートを受け取らない。結衣の課題、八幡にチョコレートを渡すには好意を明確化について雪乃や八幡との調整が要る。八幡案、一緒に作る。いろはは依頼をまとめて生徒会イベント化する。いろはがプロデューサーとして成長している。
いろはによるバレンタインデー企画説明。チョコレートについて離す雪乃と結衣は初回依頼に相似する。
いろはが概ね自立完了。書記ちゃんと副会長が仲良い。
三浦、海老名、戸部、葉山、参加。葉山は八幡を見てバレンタインイベントの意図を理解する。
戸部は海老名アピールがしたい。いろは、雪乃はそれが鬱陶しい。結衣「全然欲しくなさそうっていうのもちょっとどうしていいかわかんなくなる」。バレンタインイベントの試食は好意の明確化を防ぐ。
いろはがイベントを巨大化。玉縄, 折本かおり、城廻らも参加。講師として陽乃。
「邪魔者が見てないところに引っ張り出しちゃえばいいんですよねー?」vol.11, l.0874
ここでの邪魔者とは三浦ではなく衆目のこと。葉山がチョコレートを受け取れない理由は、三浦やいろはがチョコレートを渡し、葉山が受け取ると、葉山はマラソン大会前と同じく話題になってしまうから。
誰もがよく知る葉山隼人らしい優しげな微笑みを浮かべた。/「これならみんな......、みんな自然に振る舞える」vol.11, l.2323
葉山も八幡と同じくバレンタインデーを三浦やいろはの好意の明確化無しに乗り越える事ができる。
やがて、葉山の視線は俺へと戻ってきた。/その表情は俺の知る葉山隼人らしい寂しげな微苦笑だ。vol.11, l.2329
誰もがよく知る葉山隼人
との対比。葉山は「みんな」に要求される通りに振る舞い続け、誰も選ばないでいる事ができる。そしてその「みんな」に八幡は含まれない。
「うーん、はやとべかー。いまいちコないなー」vol.11, l.2654
あるいはさらに海老名でさえ戸部にチョコレートを渡してみることができる。
いろはは八幡に味見させる。結衣と雪乃も味見させようとする事ができる。ラブコメバレンタインの典型。
沙希と京華登場。
戸塚、材木座、平塚、等参加。陽静「今度付き合ってよ~」「いつでも付き合ってやる」。葉山「これならみんな自然に振る舞える」。いろは三浦のみならず結衣雪乃も。
「ゴディバは定番だけど、ピエールエルメにジャンポールエヴァン......。」vol.11, l.2203
エヴァンとエルメとサダハルアオキが並ぶなら伊勢丹系だろうか。昔は千葉に三越があったそうです。
どーでもいいけどチョコレート屋はゴディバとエヴァンのみ。エルメやサダハルアオキなどのパティシエ系が多く混じっている。
無論、これも彼女の強化外骨格めいた外面のなせる業なのかもしれない。vol.11, l.2233
陽乃は高校在学中に生徒としてのペルソナを静に対して作った。静に対してはこのペルソナが今も適用されていて、それは当然雪乃や八幡に対するものとは異なる。
「今度付き合ってよ〜、ほら、積もる話とかあるじゃない?」/「......本当に積もる話があるなら、いつでも付き合ってやる」/一瞬ちろりと青い炎が灯ったように見えた。vol.11, l.2251
陽乃が何かを思いついた表現。 「危うく朝までコースになるとこだった」
vol.12, l.1069 として、実際に陽乃と飲んでいる。
10巻で展開された様に、陽乃は、自身の外面あるいは他人の印象と陽乃自身の内心の乖離が大きい。陽乃は享楽的に生きる事でその乖離を無視している。一般論ではあるが、平塚が想定するような深刻な「積もる話」は、陽乃は自身では持てない。
この享楽的な生き方を平塚は 歩みを止めてしまった
vol.11, l.2556 と評している。陽乃もかつて外面と内心の乖離に悩んだはずであって、平塚は今もそれを懸念している、ともすれば悔いている、のかもしれない。
あるいはさらに陽乃と平塚は「本物」というキーワードを共有する。八幡が「本物」への固執を捨てた後もこの二人は本物という言葉に反応する。この二人は最終的に さながら大人同士のデートのような状態のまま
vol.14, l.6223 に至る。「青い炎」はその関係性を示唆するかもしれない。
折本、葉山らを切っ掛けにして陽乃が雪乃に絡む。雪乃は「誰かにはあげるんだ?」と問われ動揺し、結衣はそれをフォローする。
「そっか、今年はあげるよ」/「じゃ、できたら食べに来てよ」vol.11, l.2411
折本から見て八幡はどうでもいい相手のままである、ということ。「取りに来たら」であって、自分から八幡にチョコレートを渡す意思はない。
「雪乃ちゃんは/昔から嘘をつかない子だったし」/「でも、本当のことを言わないことはある」vol.11, l.2471
全編を通した雪乃の設定。雪乃は嘘をつかないが本当のことを言わないことはある。
由比ヶ浜はどこか寂しげに、何もない掌を見て、きゅっと軽く拳を握る。/彼女のあの表情は今までにも見たことがあったはずだ。vol.11, l.2506
「寂しげに」「掌を見て」に相当する表現は本文中には見つからない。文脈的には雪乃に気を使ったときの表情であって、八幡のデートの誘いを保留したときの そこにあるのは、困ったような笑顔で
vol.11, l.0184 、「あたしらしい、か......」の後の 由比ヶ浜は困ったように笑うと、少し沈んだような表情を見せた。
vol.11, l.0836 などが相当しよう。あるいはそもそもが1巻から結衣は周囲に合わせる性格だとして描かれている。
平塚「この光景を見れてよかった」。平塚、(自身の成長に伴う)「違和感についてずっと考えろ」。平塚退職初出。
「その違和感についてずっと考えなさい」vol.11, l.2553
「だから、ずっと、疑い続けます。」
vol.14, l.6455 として繰り返される、最終的な本物の定義に等しい。
「歩みを止めてしまった者からすると、進んだ距離の分だけ裏切られたようにも感じるものだが」vol.11, l.2556
「歩みを止めてしまった者」とは陽乃。お料理イベントに際して八幡が感じた違和感は成長であって、しかしお料理イベントの馴れ合いは陽乃には裏切りに映る。
「今、近い場所でこの光景を見られてよかったよ」vol.11, l.2558
「この光景」とは、コミュ障だった八幡や雪乃が奉仕部の活動を通して人間関係を築くに至った姿。この参加者の多さは、孤立していた八幡と雪乃が奉仕部設立以降に他人に関わり作り上げた繋がりであって、すなわち八幡らの成長を示す。平塚はこれを喜んでいる。
俺ガイルはスクールカースト、ぼっち、が主題の一つであった。他方、お料理イベントには登場人物のほぼ全てが参加する。このお料理イベントはスクールカーストを舞台とした物語のエンディングと言える。
かつて人間関係が存在しなかったからこそ機能した八幡の自己犠牲による方法論はもはや機能しない。だがしかし、人間関係を持つならば、孤独であるよりも多くの成功をもたらす。それがぼっち、孤立、コミュニケーション障害、に対する俺ガイルの結論、だろう。
「いつまでも見ていてはやれないからな」/「三月までもうあまり時間がないし、今のうちに片付けておきたいんだ」vol.11, l.2567
伏線。平塚は3月で離任する。
チョコレート試食。いろは、折本、川崎は八幡にチョコレートを渡す。典型的ラブコメサブキャラ。八幡は違和感を覚えながらもそれを楽しいと思う。
「今度はフェアに行こうじゃないか」vol.11, l.2691
玉縄から八幡へのデートの誘い。嘘。
玉縄は折本を狙いつつ折本と八幡の関係を疑っていて、あるいはさらに玉縄が折本かおりの八方美人なキャラクター作りを理解できていない。「誰にでもチョコレートをあげる」様な折本のキャラクターを理解しているなら八幡には対抗するまい。
「フェアではない」とはおそらく八幡と折本が同じ中学出身であるということ。
八雪結。結衣は美味しいチョコレートクッキーを作る。陽乃は八雪の馴れ合いを蔑む。「それが比企谷くんのいう本物?」
「今の比企谷くんたちは、なんかつまんない。」vol.11, l.2901
陽乃が雪ノ下母を介入させた理由。 内側に入り込んでまた試したいと、壊してみたいと思っている
vol.10, l.4446 。「今の比企谷くんたち」 の関係が、介入するまでもなくいずれ壊れる事は自明である、ということ。
お料理イベントは、「バレンタインデーのチョコレートには本命か義理かの明確化を伴う」という問題点に対する、「結衣と雪乃がチョコレートを一緒に作って八幡が試食する」という解決策である。つまり先送りであっていずれ壊れる。
「あ、あのさ、ご飯、食べてかない?」vol.11, l.2950
結衣はこの時点で八幡を含めての話をしようとしている。おそらくこの時点で既に 「これからどうしよっか」
vol.11, l.4122 から始まる、奉仕部の関係の永続化に向けた話し合いを考えている。
というかチョコレート食べまくった後に既に腹が減ってる八幡ってどういう。
雪ノ下母が雪乃を待ち伏せ。雪ノ下母「今後、あなたはどうしたいの?」。八幡は自身の変化や他者との関係性の変化を厭う。
「陽乃からあなたの進路の話を聞いたからよ。」vol.11, l.2976
つまり雪乃母の介入は陽乃の差し金。 「雪乃ちゃんの進路は聞いた?」
/ 「一応知ってますけど、それを俺が言うのはエアじゃないんで」
vol.10, l.4487 という会話で、陽乃は雪乃が進路を決めたことを知っている。
そもそも雪乃は文転した時点で学費を担う親に進路の説明は済ませていて当然ではある。
「あなたのお家の方もきっと心配されてるわ。」vol.11, l.2996
伏線。八幡は雪ノ下家の事情に介入する事で雪乃を繋ぎ止める。
バレンタイン当日は高校が休みであり、前日がチョコレートを渡すべき日。雪乃は八幡へのチョコレートを渡せない。結衣は促し、八幡は要求しない。
「あたしもあれからちょっと頑張ったんだけど、なかなかねー」/由比ヶ浜が誤魔化すように笑った。お団子髪をくしくしといじりながらvol.11, l.3140
結衣はこの段階ではチョコレートを渡さない。理由不明。八幡が14日に暇であることを確信しているか、雪乃の出方を伺っているか。
「あ、や、別に俺は......」/雪ノ下のため息が聞こえてくる。vol.11, l.3175
まちがっている。正答は 「チョコくれよチョコ......」
vol.11, l.3515 。
雪乃は八幡へのチョコレートを渡せない。陽乃登場、雪ノ下母の命で雪乃の監視を始める。陽乃は雪乃の行動は、陽乃あるいは八幡や結衣を倣っているだけだ、として雪乃のアイデンティティ確立の遅れを揶揄する。「......今だって、どう振る舞っていいかわかってないんでしょ?」
「今だって、どう振る舞っていいかわかってないんでしょ?」/「雪乃ちゃんはいったいどうしたいの?」vol.11, l.3291
雪乃は陽乃をクローンする。「姉さんが今までやってきたことなら大抵のことはできるのよ」
vol.06, l.3595 など。つまり雪乃ができない大抵のことは陽乃もできない。であるから陽乃もどう振る舞っていいか解っていない。であれば陽乃はチョコレートを渡せない雪乃を見ていて助けに入ったけれど、陽乃もどう振る舞っていいのかわかってないので、とりあえず悪態を吐いた。
つまり「雪乃ちゃんはいったいどうしたいの?」は雪乃を助ける、雪乃の思考を導く言葉である。であるから、「......姉妹喧嘩なら他所でやりませんか」
という八幡の介入は、まちがっている。
「ちゃんと考えてます。......ゆきのんも、あたしも」vol.11, l.3299
陽乃の 「雪乃ちゃんはいったいどうしたいの?」
が、チョコレートをどうしたいのかではなく、「雪乃は現在の奉仕部の関係をどうしたいのか」という問いであるということ。結衣がそれを理解しているということ。「......お前も、ちゃんと考えたほうがいいぞ」
vol.08, l.0882 を引く。
あるいはさらに雪乃と結衣のみがちゃんと考えていて、言及されない八幡はちゃんと考えていない、ということ。 「......ヒッキーならそう言うと思った」
vol.11, l.4266 の根拠でもある。
やがて俯いてしまった由比ヶ浜に、陽乃さんは悲しげにも見える優しい眼差しを向けた。vol.11, l.3302
台詞の語感とは異なり陽乃は結衣や八幡に敵対はしてない。
陽乃から見た結衣は 可愛がっている子
vol.13, l.4362 であるし、 それで、とても悲しそうな顔をした。
とあるから 「あの子たちがあんな感じだから、あなたが一番大人にならざるを得ないのよね」
vol.13, l.4377 を見抜いたということ。
「雪乃ちゃんが帰れる場所なんて、一つしかないんだし」vol.11, l.3304
唐突に過ぎる。であれば単純に「雪乃がマンションに帰らなければよい」というヒントだろう。
雪乃は由比ヶ浜宅に泊まる。雪乃はその理由を八幡からコピーする。陽乃はそれを八幡に指摘する。
「余計なこと言わなくていいからっ!」vol.11, l.3377
結衣はクッキーの自作が母から露見することを危惧している。この日の夜は由比ヶ浜宅には雪乃が泊まり、その翌朝に3人で葛西臨海公園である。であるから、この時点で既に結衣は八幡向けのクッキーを用意している。
「今の......」という小さなつぶやきが聞こえてきた。/由比ヶ浜が驚いたような表情で雪の下と俺を交互に見ていた。vol.11, l.3419
結衣が雪乃の依存癖、問題解決を八幡に委ねる癖に気付いた表現。
八幡は小町にはチョコレートを要求できる。小町「小町以外にもそうやってわがまま言えるようになるといいんだけどねぇ」。八幡はこの日は意図的にチョコレートの話題を回避していた。
「小町以外にもそうやってわがまま言えるようになるといいんだけどねぇ」vol.11, l.3540
小町は理想解の提示役。八幡が「チョコくれ」と結衣や雪乃に一言言っていれば二人共に八幡にチョコレートを渡せた。
小町は受験。結衣『ヒッキー、デートしよう!』
八幡と結衣の約束によれば、結衣を選ぶならシーに行くべき。葛藤。
そもそも最初に誘ったのは俺だ。ただそれをずっと先延ばしにし続けてきただけだ。vol.11, l.3656
不明。八幡は一度 「お前、そのうち暇な日ってあるか?」
vol.11, l.0173 として問うたのみで、これを保留したのは結衣である。
結衣は八幡とのデートに雪乃を呼んでいる。結衣も「シーでないこと」に自覚的。結衣「三人で、行きたいの......」、八幡「今日のところは、みんなで」。
八雪結デート。結衣は自身と八幡の結衣像との乖離を訴える。「ヒッキーが思ってるほど優しくないんだけどな」
ペンギン。「どちらかが死んでしまわない限り、同じパートナーと連れ添い続ける」。
どちらかが死んでしまわない限り、同じパートナーと連れ添い続けるvol.11, l.3937
伏線。後に雪乃は八幡との関係を 「パートナー......、とか?かしら......」
vol.14, l.5716 と評する。
雪乃は自身のアイデンティティ危機を吐露する。「寄る辺がなければ、自分の居場所も見つけられない」。
「寄る辺がなければ、自分の居場所も見つけられない」vol.11, l.3979
八幡がかつて雪乃に押し付けた理想、 寄る辺がなくともその足で立ち続ける。
vol.05, l.2383 との対比。その八幡の理想がまちがっていたということ。
ここで八幡は一切の反応を示さない。恐らくは 理想を押しつけまいと決めたのだ
vol.06, l.4155 の時点で雪乃に押し付けた理想を既に捨てている。
水族園デート終了。結衣はもう一周、あるいは観覧車を提案する。「もう一周しちゃおっか!」「まだ時間あるし」。
八雪結で観覧車。叙景で現状の関係性を喩えつつ、「......もうすぐ、終わりだね」
三人でいる為の結衣案。バレンタインのクッキーを「ただのお礼」として、結衣のみならず雪乃も八幡への好意の表明を封じ、デートで提示した姿を維持する。雪乃は同意しかけるが、八幡が覆す。
「その提案には乗れない。雪ノ下の問題は、雪ノ下自身が解決すべきだ」vol.11, l.4239
プロム編を通してのトリック。後に 歪んだ欺瞞を強要した。
vol.14, l.3726 と省みる。 「雪ノ下の問題は、雪ノ下自身が解決すべきだ」はまちがっている。 参照。