奉仕部の不安定な関係

奉仕部の不安定な関係

10巻冒頭での奉仕部の三人の関係性を下記に要約する。

俺ガイルのプロム編は関係性を言語化できないとする。本稿は関係性を言語化できないの理由の一端がその複雑さと繊細さにあることを示す。

前提

本稿は関係性を下記の三段階に近似する。

かつその反応を下記の三種に分類する。

さらに二者ともに許容ないし肯定する場合に「合意」とする。

あくまで近似であって俺ガイル本文ではより多段階に多種に定義されている。

八幡と奉仕部

八幡は自らは人間関係を構築しない。

「八幡が自ら人間関係を構築する」その行動がプロム編のクライマックスである。

雪乃と奉仕部

雪乃は奉仕部の関係性を再構築しようとしている。 「そんなの前に進むわけがないわ……」vol.09, l.5065 は、玉縄らの会議に対する評価であって、八幡の「本物が欲しい」に対する評価でもある。

結衣と奉仕部

結衣は八幡と雪乃の関係性に疎外感を持つ。 だから、その手を優しく払った。途端に、由比ヶ浜の手は力なく落ちて、泣きそうな顔になる。vol.09, l.3253

「あなたの依頼、受けるって言ったじゃない」vol.09, l.5295 に従えば、雪乃の言う「あなたの依頼」は「本物が欲しい」である。他方、結衣の「あたしも、手伝う」の目的語はクリスマスイベントである。この差が「本物が欲しい」に関して結衣の持つ疎外感を示す。 本物とはまちがっていて故に人間関係を壊す。 を参照。

八幡と雪乃

恐らく八幡は、自身から雪乃への感情は気付いていて、雪乃から自身への感情にも気付いているが、しかしそれを諦める以前に、それを好意だと定義することも、考えることさえも避けている、という状態であろう。 冬の雪化粧のように白く抜ける肌vol.10, l.3974 などの叙景から推測できるのみである。

そんな本物を、俺も彼女も求めていたvol.08, l.4172 の通り、八幡は雪乃に「本物」を求めている。そして、 「どうしたって終わってしまうし、失うことは避けられない」vol.11, l.3958 として、諦めている。あるいはむしろ「本物」とは雪乃への感情を言い換えたものであって、その言い換えが自身の自意識の正当化に過ぎない事を自覚している。

雪乃と結衣

ここで結衣は雪乃から八幡への好意を応援できない。雪乃は八幡を諦めようとしているから、雪乃から八幡への行為を指摘した時点で雪乃はそれを否定して 「たぶん全部終わってしまう」vol.12, l.1172

結衣と八幡

八幡が結衣を選択していた決定的な理由は、俺ガイル新の 今の俺はあの時とは違う、確かな答えを口にするべきだ。vol.N4, p.022 が示す。「あの時」は葛西臨海公園での だから、その答えを口にするべきだ。 / その選択を、きっと悔やむと知っていても。vol.12, l.0034 を参照している。ここで、俺ガイル新での「確かな答え」とは雪乃を選んだことであるから、葛西臨海公園での「答え」とは、雪乃を選んだ事とは異なる、すなわち結衣を選ぶこと、となる。

結衣を選んだ理由は単純に 模造品vol.14, l.3970 。本物である雪乃が手に入らないから結衣で擬えるということ。

しかし八幡は、結衣への感情を好意として定義する事、それを確定する行動、は避けている。

「お前、そのうち暇な日ってあるか?」vol.11, l.0165、すなわちバレンタイン前にデートに誘った事は結衣に好意の明確化、告白、を迫る行為だったろう。結衣がクッキーを「お礼」として渡した時点の これをただのお礼として、何も考えることなく、諾々と受け取るわけにはいかなかったvol.11, l.3921 も同様に、八幡は結衣に好意の表明を(=告白を)期待ないし要求している。

八幡が結衣に告白を要求する理由は単に自意識過剰、それが本物ではないから、自分では表明できないから。この態度を恋愛と呼ぶか否かは人に依るだろう。私は相手の好意を積極的に求めるならそれは恋だと考える。

物語の終幕での奉仕部の関係性

物語の終幕での奉仕部の関係性については 物語終幕での人間関係 を参照のこと。