八幡は成長し始める。

八幡は成長し始める。

7巻から9巻にかけての奉仕部の鬱屈は、三人が自身の意図を伝えないこと、相手の意図を聞かないこと、がその理由である。

10巻から14巻はこの回収が一つのモチーフである。10巻では、八幡は、自身が知りたいと思う事を聞こうとする。なお、他方、伝えたい事を言えるようになる、は14巻である。

理解したいだなんて、ひどく独善的で、独裁的で、傲慢な願いだ。 / その醜い自己満足を押しつけ合うことができて、その傲慢さを許容できる関係性vol.09, l.3081

9巻時点で八幡が定義する本物。すなわち、互いに知りたいという要求を相互に許容できること、である。

八幡、雪乃について 以前の俺は本当に知ろうとしてこなかったのだろう。vol.10, l.0788

本人が口にしなかったことを問うだけの権利を俺は有しているだろうか。vol.10, l.1995

踏み込まれることを望まない相手に踏み込んでいくことが正しいのか否か、俺にはまだ自信がない。vol.10, l.2147

八幡は雪乃と葉山の過去について知りたいと思う一方で、しかしそれを聞いてこなかった。

いったい何様気取りなんだという気もして、聞けない。vol.10, l.0418

八幡がプライベートな事を聞けない、という状況は結衣に対しても同様。八幡は結衣にかかってきた電話の相手を聞けない。

その状況下で、葉山の進路を知りたい、という依頼を受ける。進学進路は人それぞれに異なり、多くの人に進路を問うていく過程で、八幡は他人に個人的な事柄を問える様になっていく。

だから、たぶん、俺は初めて、戸塚彩加という男の子をちゃんと見たのだと思う。vol.10, l.2578

八幡は戸塚に聞きたい事を聞くことが出来る様になる。「ちゃんと見た」という成長の実感を得る。

「ゆきのんさ、少しずつ自分のこと話してくれるようになったね。」 / 俺もいつかちゃんと尋ねるべきなんだろう。vol.10, l.3317

雪乃は個人的な事を話せる様になる。八幡は、それを受けて、相手に個人的な事を聞くべきだ、という発想に至る。

八幡、雪乃に文理選択を問い、雪乃はクラス分けがないと言われ、 それでも満足ではあった。vol.10, l.3994

八幡は、雪乃に個人的なことを聞くことができる様になる。これが八幡が10巻で得た成長である。

踏み越えた一歩がせめて足跡になればいいvol.10, l.4010

ただし、八幡は、それが本物に寄与するとはさして考えてはいない。