10巻 マラソン大会
1月。 八幡は、新たな本物の定義に従い、自身が知りたいと思う事を他人に尋ねる様になっていく。奉仕部の三人は「みんなで、一緒に」で合意する。
葉山と雪ノ下姉妹の過去と現在を描く。彼らの過去は現在の奉仕部の関係の延長に相似し、人間関係の調整に失敗した結果としての破綻を示唆する。
本巻はプロム編に向けた序章であって、プロム編での奉仕部の人間関係の初期値を定義する。奉仕部の不安定な関係 参照。
あるいは本巻のトピックは、「八幡が周囲の人物を知ろうとする」である。 八幡は成長し始める 参照。
それぞれの手記については 葉山と陽乃さらにはやはち を参照。
八幡と小町は初詣の約束をする。
「元旦にお兄ちゃんと一緒にいれば来年一年中お兄ちゃんと一緒じゃん。」vol.10, l.0157
小町は理想解の提示役。葉山が文系を選んだ解、だろうか。であれば葉山はおそらく八幡について聞いてくる陽乃の好感度を稼ぐ為に八幡と同じクラスを選んだということ。
小町はひょいっと携帯電話を拾い上げると鼻歌交じりにそいつをぽちぽちいじりvol.10, l.0173
結衣と雪乃に連絡している。
俺ガイル結との明示的な分岐。俺ガイル結では結衣が能動的に雪乃と八幡とを集める。その結果結衣は八幡の 「ちゃんとするよ」
vol.Y1, l.2241 という宣言、八幡は結衣を選択するという宣言を聞く事になる。さらに結衣は三浦らとの衝突を回避する。
平塚、戸塚、材木座からあけおめメール。結衣からは来ない。小町と八幡は初詣へ。
おみくじ、屋台。結衣と八幡は雪乃の誕生日プレゼントを買いに行く約束をする。結衣は小町を呼ぶ。葉山不在の三浦らと逢い、結衣は三浦達に合流。
先日のクリスマスの折に、そのプレゼントを買いに行く約束をしたのだった。vol.10, l.0404
「じゃ、あたしと、つ、つきあって、ほしいな......。その、買い物......」
vol.06.5, l.5495 。
「夏は二人で行ったのに......」vol.10, l.0430
花火大会のこと。
一番の友達、なんて概念があるのかどうかは知らないし、それを誰が決めるのかもわからないけれど、それに悩む日もきっとあるのだと思う。vol.10, l.0538
本巻で結衣は三浦らと雪乃との間で板挟みとなる。 「いいのか、三浦のほうは」
/ 「えっと......、み、みんなはどうするの?」
vol.10, l.0516 , 由比ヶ浜はどうするか悩んでいたようだが、雪ノ下がこくっと頷くと、仕方なさそうに笑って三浦の後を追った。
vol.10, l.4350 、など。
結末は 「あたしの好きな人にね、彼女みたいな感じの人がいるんだけど、それがあたしの一番大事な友達で......」
vol.14, l.6677 。
小町は雪乃を誘いつつ離脱。八幡と雪乃は一緒に帰る。雪乃は帰省していない。
「バカ、ボケナス、八幡......」「いえ、本当に仲が良いのねと思っただけよ」vol.10, l.0569
「相変わらず仲がいいのね」
vol.03, l.0897 を引くか。であれば意図不明。3巻当時は自身の家族関係を嘆く表現であり、かつ、10巻以降でも雪乃の家庭関係が焦点となる。これを対比する、すなわちこの時点での雪乃が陽乃や雪乃母との確執から解放されていることを示すだろうか。
あるいは八幡を名前呼びする手段を得て喜んでいるか。
約束、と呼べるかはわからないが、一応約束をしたつもりだ。vol.10, l.0624
「この時期のランドはあれだが、隣のわりかし新しいほうはどうなんだろうな」
vol.09, l.4215 のこと。
「実家どうしてんのかと思っただけだ」/「今年は帰ってないわ。」vol.10, l.0588
雪乃は奉仕部の状況に応じて冬の予定を二転三転させている。 「今年の冬は家に戻ることにしたから」
vol.08, l.4541 、 「あたしたちのクリスマスはどうする?」
/ 「もし、やるなら空けておくことにするわ」
vol.09, l.5582 。
個々のメールの特性は4巻参照。なお雪乃と八幡は連絡先を交換していない。
まだどう振る舞うのが正しいのか、それを掴みかねている。vol.10, l.0136 /頭の軽そうなメールが来るだろうかとも思っていたが、それは来なかった。別に期待していたわけでもない。vol.10, l.0194
すなわち来なかった「頭の軽そうなメール」は結衣のもの。クリスマスイベント後、八幡も結衣もお互いの距離感の調整を出来ずにいる。結衣が雪乃の誕生日プレゼント購入に小町を誘うのも同様の距離感によるもの。
但しこの時点で小町が結衣に初詣での合流の旨連絡済みではある。
八幡小町結衣で雪乃のプレゼント購入。小町離脱、そのまま結衣と買い物デート。
「雪乃さんはそういうところもすごく可愛いんだけどね!」/「俺のそういうところは可愛くないもんなぁ」/「この捻デレ......」vol.10, l.0676
「雪乃は可愛い」として同意を求めた小町に対し、八幡はごまかしている。
結衣と買い物。結衣は猫脚ルームソックス。八幡はそれに似合いのもの。
以前の俺は本当に知ろうとしてこなかったのだろう。/俺の知っている雪ノ下雪乃......。/由比ヶ浜にねだられると押し切られてしまい、猫が大好きで、休日はパンさんクッションを抱いてパソコンで猫動画を見ている。vol.10, l.0832
俺は何も見てはこなかったのではないだろうか。
/ 俺が見てきた雪ノ下雪乃。
/ 常に美しく、誠実で、嘘を吐かず、ともすれば余計なことさえ歯切れよく言ってのける。
vol.05, l.2382 との対比だろう。かつてよりも行動の基準、よりプライベートな事、を知っている。
由比ヶ浜が猫脚ルームソックスを贈るのなら、俺もそれに似合いのものを贈ろう。vol.10, l.0832
ブルーライトカット眼鏡。ルームソックスに似合いのもの、であるので、八幡は自宅室内での用途を想定している。しかし雪乃はこれを奉仕部室で使用する。
今後この眼鏡は八幡との距離を示す。
無言ですっと眼鏡をかけた。/
思わず欠伸をする振りをして目を逸らした。視界の端で雪ノ下が顔を俯かせたのが見えた。vol.10, l.1527
いそいそと眼鏡を取り出し始めた。/
まるでティアラをつけでもするかのようにゆっくりと眼鏡をかけた。vol.10.5, l.0363
疲れ目に効くとからしい眼鏡は掛けることなく、ただデスクの脇に置かれたままvol.13, l.1105
いそいそと眼鏡を掛けてvol.14, l.5239
葉山、陽乃と合流。陽乃は雪乃を呼び出す。
「出ないんじゃないかな」/「ううん、たぶん今日は出ると思う」vol.10, l.0872
「嫌いだけど、嫌われたくはない」
vol.08, l.1104 行動か。
俺も硝子に映る葉山を見やり、ふと、昔、何を贈ったのだろうとそんな事ばかり考えていた。vol.10, l.0965
雪乃がパンダのパンさんを好きになった理由である、パンダのパンさんの原作の原書、だろう。原作の原書は 「誕生日プレゼント、だったのよ。」
vol.03, l.1653 であり、かつ 「友人から誕生日プレゼントもらったことないから」
vol.03, l.1143 。また雪乃の誕生日は冬休み中である為に同級生から祝われることがない。
雪乃合流。陽乃雪乃と葉山の想い出話。雪ノ下母合流。陽乃は雪ノ下母に八幡らの本名を隠す。八幡は名乗らない。別れ際に結衣と八幡は雪乃に誕生日プレゼントを渡す。
時折苦いコーヒーを口に運ぶこととvol.10, l.1031
ちびちび飲んでいたコーヒーもとうに空にな
vol.10, l.0970 っている。単純ミスでよいだろう。
俺が彼女たちと同じ小学校へ通っていたらどうなっていただろうかと。/あの時、俺はなんと答えたのだったか。vol.10, l.1034
「お前の学校にぼっちが一人増えるだけだよ」
vol.04, l.3345 。おそらく意味無し。
「陽乃。お友達?」/「そ。八幡とガハマちゃん」vol.10, l.1102
陽乃は名字を明かさない。「比企谷」と「由比ヶ浜」はかつて雪ノ下家が起こした事故の被害者の名字であって、それが雪乃母に知れてしまうことを懸念している。
しかしこのとき結衣は雪乃の友達だとして名乗る。由比ヶ浜の名字に思い当たった雪乃母は、結衣の言動と外見が子供っぽいことを受けて、「大人っぽく見えた」として、恐らくは懐柔し、結衣の好意を稼ぐ。
「あなたのお誕生日祝いでもあるのよ」/雪ノ下は唇を嚙んで下を向き、そしてちらっとこちらに視線を向けてくる。/「雪乃ちゃん、ダメだよ」/「ぜひお友達も一緒に、どうかしら?」vol.10, l.1146
雪乃は八幡に家の事情であるにも関わらず助けを求める。雪乃が八幡に強く依存している表現だろう。
まちがっている。しかし八幡は家の事情には介入しない。これもまちがっている。雪乃の依存癖は12巻、八幡の雪ノ下家への不介入は14巻への伏線。
「ちょっと早いけど明日お誕生日だから」vol.10, l.1164
結衣は自身と八幡が一緒にいた理由を自分から説明し、雪乃に誤解させない。かつて由比ヶ浜は自身の誕生日プレゼントを購入する雪乃と八幡を見て二人の関係を誤解した。 休みの日に二人で出かけてたらそんなの決まってるよね。
vol.03, l.1047。
葉山は文理選択を他人に教えない。曰く「自分のことなんだから真剣に考えないと後悔するぞ」。葉山と雪乃の交際が噂になり、葉山は怒る。三浦の誤解は結衣が解く。
葉山と雪乃の噂が広がっている。八幡は雪乃がこの噂を聞けば怒ると考える。
雪乃の誕生日祝い。いろはは自身の誕生日をアピール。いろはは噂を雪乃に確認し、葉山の周囲が変化する可能性を指摘する。結衣案、「気にしない」。
千葉県横断お悩み相談メール。雪乃は八幡のクリスマスプレゼントの眼鏡を使う。三浦は葉山の進路を知りたい。葉山は教えない。
無言ですっと眼鏡をかけた。/思わず欠伸をする振りをして目を逸らした。視界の端で雪ノ下が顔を俯かせたのが見えた。vol.10, l.1527
八幡に褒めてもらえず失望している表現。八幡はその失望に気付かない。結衣は当然フォローしている。
(葉山の進路を問うために一般論を装った三浦を受けて)
「一色ならともかく」/「先輩ってほんとわたしのことなんだと思ってるんですかねー......」/お前さっき葉山の進路聞くために俺をダシにしただろうが......。vol.10, l.1633
齟齬。八幡の理解は、いろはは葉山の進路を知る為に、初めに八幡の進路を話題にした。いろはの意図は、初めから八幡の進路を知りたくて、その後葉山を照れ隠しに使った。
ツッコミ不在で流されるが、いろはの八幡への好意を示す。
箱について
この腕に確かな重みを感じることができたvol.10, l.1734
箱は奉仕部部室の比喩。クリスマスイベントの前には 箱の中身は空っぽなのだろう
vol.09, l.2715 。
葉山の部活の出待ちをする八幡に雪乃結衣が差し入れ。雪乃は結衣のプレゼントも使っている。
葉山は女子に告白される。葉山は八幡にも進路を教えない。「自分でちゃんと考えて選ばないと、きっと後悔するからな」
葉山らに関する噂が広がっている。葉山は苦笑し、三浦は憤っている。
一色、雪乃、結衣は八幡に「気を遣わなくて気軽に遊べる場所」を問う。三浦が奉仕部を訪れ、雪乃と葉山の関係を確認し、葉山を知りたい、葉山に嫌がられても、と訴える。八幡はそれに同調する。
「生徒会の手伝いならもうしないぞ」/「......そうですか」vol.10, l.1980
このいろはの相談内容は平塚によれば 「明日、進路相談会があるんだが」
vol.10, l.2765 、まさに生徒会の手伝い。いろははここで八幡らに断られ、後に平塚に正式発注した、と思われる。
であれば、真の相談とした 「ライバルに差をつける方法が知りたいんですよー」
vol.10, l.2026 はアドリブ。 考え考えしながら話し始めた
vol.10, l.1993 ものである。 「も、もちろんです!冗談です!仕事はちゃんとやってます!」
vol.10, l.1986 も嘘。恐らく作劇上は陽乃への 「怖かった......。やっぱりあれ雪ノ下先輩のお姉さんですよ」
vol.10, l.3346 に対応させる為のエピソード。
「気を遣わなくて気軽に遊べる場所......みたいなのを考えてほしいってこと?」vol.10, l.2059
回収は 「前にデートコース考えるように言ったじゃないですかー?」
vol.10.5, l.0931 。
雪乃や結衣までがそれに乗るのは彼女らも「八幡を知りたい」という表現だろう。
「優美子!」咎めるような声音をあげたのは由比ヶ浜だった。vol.10, l.2142
結衣が三浦に意見できる様になっている、1巻当初に結衣が三浦に迎合していた頃から変化している。
雪ノ下は嘘を吐かない。ただ、本当のことを口にしないことはある。言葉足らずで遠回りな言い方でごまかすこともある。vol.10, l.2164
雪ノ下雪乃ですら嘘をつく。
vol.05, l.2444 がまちがっていた事の回収。
雪ノ下はさっきまで三浦の腕を掴んでいた手をぎゅっと強く握ると/「私は近しい人が理解してくれているならそれだけで構わないから」/もう一度、三浦の腕を掴んだほうの手をそっと撫でてvol.10, l.2215
三浦の腕を掴んでいた手ではなく、 未だ三浦の腕を掴んだままの雪ノ下の手をぽんと軽く叩
vol.10, l.2200 いた、その八幡が触れた手。
「隼人、最近、距離あるし......、なんかこのまま行きそうだし」vol.10, l.2239
三浦の危機感。但し海老名は 「このクラス替えが理由で決定的に瓦解するってこともないんじゃないかなぁ」
vol.10, l.2976 として客観視する。結衣はその種の懸念を一切持たない。
「葉山が教えないってことは、お前には知られたくないってことなんじゃねぇのか。」/踏み込まれることを望まない相手に踏み込んでいくことが正しいのか否か、俺にはまだ自信がない。vol.10, l.2269
八幡が雪乃のプライベートな事情を知ろうとしない理由。
材木座は「女子のほうが苦手」なので理系。
「理系クラスのほうがのびのび生きられる。女子が少なければ教室での居心地もよかろう。」vol.10, l.2390
葉山に提示した 「理系ならそもそも人が少ないし、女子も少ない。」
vol.10, l.4007 という解の伏線。材木座は八幡の斜め下の解法の提示役。
マラソン練習中。戸部は葉山の進路どころか悩みさえ聞いていない。八幡は葉山に「戸部にも相談できない悩み」があり得る事に気付く。
戸塚は部長らしくなった。文理選択は受験科目で決めてもよいし、自己推薦でもよい。八幡は戸塚の進路を聞ける。戸塚は八幡が他人を知ろうとしなかった、聞こうとしなかった事を指摘する。
でも、だからもっと知りたいと思うのだvol.10, l.2725
かつて 俺はわかりたいのだ。
/ 知って安心したい
vol.09, l.3228 と八幡は気負っていた。これが気負わなくなった表現。八幡の成長を示すだろう。
平塚は八幡に翌日の進路相談会の手伝いを依頼する。葉山は既に進路を提出している。平塚は八幡に進路指導する。
海老名に葉山の進路を聞く。海老名曰く、「そういう細かいことなら、ヒキタニくんのほうがわかるんじゃない?」。三浦の依頼はクラス変えへの懸念ではない、それで人間関係は壊れない、なぜならば、「みんなの期待に応えてくれるのが、隼人くんだから」。
「わたしもそれは思う。それに......」/「それに?」/海老名さんは軽く頭を振る。vol.10, l.2917
「あんまり意味ないと思うよ」
vol.10, l.2959 。海老名が葉山や三浦について醒めた目で見ていることを結衣に明かす事を避けたということだろう。
進路相談会の準備。八幡は川崎に、川崎は八幡に進路を聞く。
進路相談会。めぐりの進路は指定校推薦。陽乃は葉山の進路を答えずに「どうせ決まってる」「雪乃ちゃんならわたしに聞かなくたってわかるでしょ」「自分でよく考えなさい」。雪乃と葉山の噂に関しては「......そんなの、大昔に通ってる道なのよねぇ」。
陽乃、葉山の進路について
「雪乃ちゃんならわたしに聞かなくたってわかる」vol.10, l.3278
しかし雪乃は考えても解らない。雪乃か陽乃がまちがっている。
恐らくは陽乃が葉山の選択を知らず(興味がなく)それを隠している。
雪乃は葉山家の家庭環境や雪ノ下家と葉山家の付き合いを自分から語る。八幡は自分から聞くべきだったと考える。
「知っておいても別に損はないでしょう?」/言い方へたくそだな、こいつ。vol.10, l.3441
雪乃は他人に「知って欲しい」と表現できない。
「やっぱりあれ雪ノ下先輩のお姉さんですよ」vol.10, l.3346 /「だいじょぶ!ゆきのんは別に怖くないよ!」vol.10, l.3350
いろはがまだ雪乃を深くは理解していない表現。
陽乃が八幡を呼び止める。陽乃は雪乃の進路を聞き出そうとするが、八幡は知らない。「今度答え合わせね」。葉山の進路については、「隼人も期待してたんだね」「見つけてくれることを」
「今度会う時までに聞いとくように」/「今度答え合わせね」vol.10, l.3591
陽乃が持つ雪乃像が正しいか否か、の答え合わせ。
文化祭以前の陽乃の理解であれば、雪乃は「陽乃の後を追い理系を選ぶ」「自分の事を話せない」であったろう。しかし、 「雪乃ちゃん、成長したのね」
vol.06, l.3572 として陽乃は雪乃の成長を見出し、雪乃は同じく陽乃に対して直接に陽乃からの脱却を宣言した。つまり陽乃は雪乃の進路を以て、
を確認したい。あるいは陽乃は既にこの段階で雪乃の依存癖を懸念するに至っているかも知れない。
視点は葉山。自身のペルソナのシャドウに対して自己嫌悪している。
葉山の進路は選択肢からは絞れない。八幡は葉山の人格、過去、から類推する。八幡は戸塚に電話し頼る。
彼女の選択が参考になるかもしれないという可能性をあたまっから排除してしまっていた。/そうしてしまった理由を考えるのは、もっとひどい難問にぶちあたりそうだった。vol.10, l.3650
八幡が雪乃との関係性を考えることを避けていたということ。受験どころか翌年でさえ。
あるいはさらに、思春期モラトリアムの終わりの始まりでもあるだろう。葉山の進路をきっかけに、八幡が自分と誰かの進路や将来を具体的に考えねばならないという自覚を持った、ということ。通常は自身の進路がそのきっかけになるだろうが、八幡は進路を将来を考える事なく決めてしまっていた。
マラソン大会のスタートラインで女性陣が男性陣を応援する。八幡は材木座と戸塚に妨害を依頼し葉山とツートップを作る。
「葉山先輩がんばってくださーい!」/「は、隼人。......が、頑張ってね!」vol.10, l.3751 /「......先輩も頑張ってくださいねー!」/「が、がんばれー!」vol.10, l.3759
いろはが応援しているのは三浦や結衣。隣にいた一色は二人の様子を満足げに眺めてから
vol.10, l.3754 とあるので、いろはは、葉山を応援することで、葉山と三浦とをフォローした。あるいは俺ガイル新によれば 恋する女の子や諦めない女の子がわたしは好きだ
/ わたしはわたしが好きだから、わたしと同じ人はだいたい好き
vol.N1, p.075 。
八幡は「お前はみんなの望む葉山隼人をやめたい」として理系を勧める。葉山「君の言う通りにはしない」。八幡は噂について葉山に聞く。葉山は「ちゃんと収束させる」。
「三浦は女避けには都合が良かったか?」vol.10, l.3947
葉山が好きな人はYつまり雪ノ下陽乃である。ので、交際の申し込みなどの異性周りの鬱陶しさを退けるために、三浦と仲良くしておくことは、葉山としては都合が良い。
なお結衣は三浦を積極的に男避けに使っていて、八幡はこれを知っている。これを引いているかも知れない。 どうやらあの男子を避けるためにあえて三浦の名前を出したらしい。
vol.06.5, l.2622
「やっぱり仲良くできなかっただろうな......」vol.10, l.4013
「比企谷君とは仲よくできなかったろうな」
vol.04, l.3352 の反復。
「いや、......凄いな君は」/「理系で正解だったのか」/「違うよ。本当に君は歪んでるな」/択一問題のはずれをわざわざ宣告したということは、残った方が正解だ。vol.10, l.4020
齟齬。葉山は八幡の発想を褒め、八幡は「凄いな」を進路選択の推理が正答していた表現だと誤解し、葉山は八幡の誤解を咎め、八幡は「違うよ」を「理系ではない」と解釈する。結果は正しいが経緯はまちがっている。
恐らく、葉山は(あるいは普通は)、「人間関係を切り捨てる」という発想に至らなかった。人間失格でさえ描かれなかった自分よりも、より卑怯で低俗で歪んだ解法を提示された事、「人間関係を切り捨てる」というその発想が本当に葉山を救いかねない事、に感嘆している。
「君に劣っていると感じる、そのことがたまらなく嫌だ。だから、同格であってほしい。だから君を持ち上げたい、それだけなのかもしれない。君に負けることを肯定するために」vol.10, l.4027
「君が俺をいい奴だって決めつけるのと同じ理由だよ、たぶんね」
vol.09, l.4599 の詳細化。
生徒会が葉山の表彰式をしている。葉山は三浦といろはに感謝してみせることで噂を収束する。
本来、マラソン大会ごときに表彰式なんてないのだが、そのイベントの司会進行を一色がやっているあたりを見るに、生徒会が急遽企画したのだろう。vol.10, l.4089
「ちゃんと終息させる」
vol.10, l.4054 と葉山が確信している点からして、葉山がいろはと調整したのだろう。マラソン自体の事前か事後かは不明だが、八幡は概ねまちがっているというメタな視点からすれば、事前に。
「良きライバルと皆さんの応援のおかげで最後まで駆け抜けられました。」vol.10, l.4112
はやはち。
八幡は怪我の治療で保健室へ。雪乃がマラソン大会棄権で保健室にいる。雪乃は八幡の傷を処置する。八幡は雪乃に進路を聞く。雪乃は文系、「みんな一緒ね」。結衣は盗み聞きしている。「みんなで、一緒に」。
「とりあえずはみんな一緒ね」vol.10, l.4227 /「......みんなで、一緒に」vol.10, l.4267
結衣が八幡と雪乃の保健室の会話を聞いていて、さらに結衣が雪乃の奉仕部の終焉の後も三人で一緒にいたいという希望を理解した表現。奉仕部の終焉に対する結衣案、葛西臨海公園に代表される三人共が好意を黙した関係性の維持を提案する理由。
結衣はこの「とりあえずはみんな一緒ね」を聞いたのちに保健室に入ってくる。保健室での雪乃と八幡の会話は結衣に聞かれたところで問題のある会話ではない。が、結衣は、 ただ隙間から覗いて聞き耳を立てることばかり。
vol.12, l.1243 として、この会話に入り込めなかった。
「志望としては国公立理系だけど」vol.02, l.0569
「ゆきのん、なに書いてるの?」/
「進路希望表」vol.06, l.4227
「......一応、文系ということにはなっているわ」vol.10, l.4227
進路不明を経ていつのまにか文転している。
葉山の進路を三浦に告げる。三浦「めんどいのも含めて」「やっぱいいって思う」、結衣「もっと簡単でよかったんだ」。雪乃と八幡は打ち上げに合流。雪乃「誰かの背中を無理に追う必要もない」、葉山「それも含めて、俺だよ」。葉山曰く、八幡による進路の推測は間違っている。「それしか選びようがなかったものを選んでも、それを自分の選択とはいわない」。
「めんどいのも含めて、さ」/「やっぱいいって思うんじゃん」/「そっか......。それで、いいんだ。もっと簡単でよかったんだ......」vol.10, l.4315
奉仕部の終焉に対する結衣案「三人が、好意の表明を封じたまま、ずっとこのまま」の発端。結衣案1 葛西臨海水族園デート 参照。
「気遣ってくれたことには感謝しているわ」vol.10, l.4366
「俺のこの気遣いのおかげで平穏無事なんだから感謝してもらいたいもんだ」
vol.10, l.0601 の反復。
9巻でのクリスマス合同イベント会議の破壊以降、雪乃は八幡の行動を複製する。「気遣いに感謝する」は確かに陽乃や雪乃の行動様式にはない。彼女らにはそれら人間関係を維持する努力は不要であろう。
それはまさに、懺悔だった。vol.10, l.4415
「全然関係ない奴相手だから言えることもあるだろうし」
/ 「告解や懺悔みたいなものかしらね」
vol.10, l.1690 。
つまり葉山が文理選択を秘匿した理由は八幡には関係がないということ。
陽乃は八幡を呼び出し、雪乃から八幡への好意を評して「それを本物とは呼ばない」。
雪乃が八幡に向ける態度は信頼ではなくもっと酷い何か、本物とは呼ばない、と告げる。
「それを本物とは呼ばない......、君の言葉だったね」vol.10, l.4506
「ただ一方的に願望押し付けてたというか、勘違いしてただけで、それを本物とは呼ばない」
(vol.08, l.1828 )
ある人は閉じた幸福だと行った。ある人は気付いていないのかと問うた。vol.10, l.4512
それぞれ
「余人に理解されない幸福は閉じた幸福だとも言えるからな」vol.09, l.5153
「気付いてないのか?」/
「まぁ、わかってないならそれでもいいか......」vol.10, l.4395
雪乃が八幡の行動をコピーしているこは、たかだか 心理学でいうところのミラーリング
vol.10, l.0209 であろうから、それは好意を持っているということではない、ということだろう。