10巻 マラソン大会
1月。 八幡は、新たな本物の定義に従い、自身が知りたいと思う事を他人に尋ねる様になっていく。奉仕部の三人は「みんなで、一緒に」で合意する。
葉山と陽乃と雪乃の過去の関係とその現在を描く。彼らの過去は現在の奉仕部の関係に相似し、奉仕部の将来、人間関係の調整に失敗した結果としての破綻、を示唆する。
本巻はプロム編に向けた序章であって、プロム編での奉仕部の人間関係の初期値を定義する。奉仕部の不安定な関係 参照。
あるいは本巻のテーマは、「八幡が周囲の人物を知ろうとする」である。 八幡は成長し始める 参照。
この巻では八幡と雪乃や結衣の間の齟齬が見つからない。クリスマス編を超えて3人のコミュニケーションが密になった事を示唆するだろうか。
第一の手記 或いは、それは誰の独白でもない。vol.10, l.0022
視点は八幡。 人間失格の第一の手記の主人公が八幡に似ている。
それぞれの手記については 葉山と陽乃あるいはさらにはやはち を参照。
とうとう、比企谷小町は神頼みをする。vol.10, l.0043
1/1。
結衣と八幡は互いの距離感を調整し損ねている。
小町・雪乃・結衣・三浦・戸部、初詣で合流する。葉山は実家で不在。雪乃は帰省しなかった。
「元旦にお兄ちゃんと一緒にいれば来年一年中お兄ちゃんと一緒じゃん。」vol.10, l.0151
小町は理想解の提示役。葉山が文系を選んだ解、だろうか。であれば葉山はおそらく八幡について聞いてくる陽乃の好感度を稼ぐ為に八幡と同じクラスを選んだということ。
小町はひょいっと携帯電話を拾い上げると鼻歌交じりにそいつをぽちぽちいじりvol.10, l.0172
結衣と雪乃に連絡している。
俺ガイル結との明示的な分岐。俺ガイル結では結衣が能動的に雪乃と八幡とを集める。その結果結衣は八幡の 「ちゃんとするよ」
vol.Y1, l.2241 という宣言、八幡は結衣を選択するという宣言を聞く事になる。さらに結衣は三浦らとの衝突を回避する。
先日のクリスマスの折に、そのプレゼントを買いに行く約束をしたのだった。vol10, l.0385
「じゃ、あたしと、つ、つきあって、ほしいな……。その、買い物……」
vol.06.5, l.5231 。
「夏は二人で行ったのに……」vol.10, l.0410
花火大会のこと。
一番の友達、なんて概念があるのかどうかは知らないし、それを誰が決めるのかもわからないけれど、それに悩む日もきっとあるのだと思う。vol.10, l.0512
本巻で結衣は三浦らと雪乃との間で板挟みとなる。 「いいのか、三浦のほうは」
/ 「えっと……、み、みんなはどうするの?」
vol.14, l.0491 , 由比ヶ浜はどうするか悩んでいたようだが、雪ノ下がこくっと頷くと、仕方なさそうに笑って三浦の後を追った。
vol.10, l.4117 、など。
結末は 「あたしの好きな人にね、彼女みたいな感じの人がいるんだけど、それがあたしの一番大事な友達で……」
vol.14, l.6677 。
約束、と呼べるかはわからないが、一応約束をしたつもりだ。vol.10, l.0594
「この時期のランドはあれだが、隣のわりかし新しいほうはどうなんだろうな」
vol.09, l.4011 のこと。
「実家どうしてんのかと思っただけだ」/「今年は帰ってないわ。」vol.10, l.0559
雪乃は冬の予定を二転三転させている。 「今年の冬は家に戻ることにしたから」
vol.08, l.4314 、 「あたしたちのクリスマスはどうする?」
/ 「もし、やるなら空けておくことにするわ」
vol.09, l.5305 。理由不明。
個々のメールの特性は4巻参照。なお雪乃と八幡はメアドを交換していない。
まだどう振る舞うのが正しいのか、それを掴みかねている。vol.10, l.0133 /頭の軽そうなメールが来るだろうかとも思っていたが、それは来なかった。別に期待していたわけでもない。vol.10, l.0187
すなわち「頭の軽そうなメール」は結衣のもの。クリスマスイベント後、八幡も結衣もお互いの距離感の調整を出来ずにいる。結衣が雪乃の誕生日プレゼント購入に小町を誘うのも同様の距離感によるもの。
但しこの時点で小町が結衣に初詣での合流の旨連絡済みではある。
これが心理学でいうところのミラーリングというやつである。vol.10, l.0201
メタな理由ではあるが、雪乃が八幡の行動を模倣する正答であるとすれば、「シンプルなのにアホほど可愛いメール」の送り主は小町。
相変わらず、雪ノ下陽乃はかき乱してくる。vol.10, l.0581
1/2。
八幡・結衣・小町、雪乃の誕生日プレゼントを買いに出る。小町が途中で離脱。
1/3 雪乃誕生日。
八幡・結衣、陽乃・葉山に遭遇する。陽乃は雪乃を呼び出す。
雪乃母が登場。陽乃は雪乃母に八幡と結衣の名字を秘す。八幡は名乗らない。
雪乃母は雪乃に雪ノ下・葉山家の食事への同行を求める。雪乃は八幡に助けを求める。
結衣・八幡、雪乃にプレゼントを渡す。
「雪乃さんはそういうところもすごく可愛いんだけどね! ね?」/「俺のそういうところは可愛くないもんなぁ」/「この捻デレ……」vol.10, l.0641
「雪乃は可愛い」として同意を求めた小町に対し、八幡はごまかしている。
以前の俺は本当に知ろうとしてこなかったのだろう。/俺の知っている雪ノ下雪乃……。/由比ヶ浜にねだられると押し切られてしまい、猫が大好きで、休日はパンさんクッションを抱いてパソコンで猫動画を見ている。vol.10, l.0788
俺は何も見てはこなかったのではないだろうか。
/ 俺が見てきた雪ノ下雪乃。
/ 常に美しく、誠実で、嘘を吐かず、ともすれば余計なことさえ歯切れよく言ってのける。
vol.05, l.2254 との対比だろう。かつてよりも行動の基準、よりプライベートな事、を知っている。
由比ヶ浜が猫脚ルームソックスを贈るのなら、俺もそれに似合いのものを贈ろう。彼女の過ごす一人きりの時間が温かく、安らぐものでありますように。vol.10, l.0794
今後この眼鏡は八幡との距離を示す。
無言ですっと眼鏡をかけた。/
思わず目を逸らした。視界の端で雪ノ下が顔を俯かせたのが見えた。vol.10, l.1443
いそいそと眼鏡を取り出し始めた。/
まるでティアラをつけでもするかのようにゆっくりと眼鏡をかけた。vol.10.5, l.0340
疲れ目に効くとからしい眼鏡は掛けることなく、ただデスクの脇に置かれたままvol.13, l.1059
いそいそと眼鏡をかけてvol.14, l.5239
「出ないんじゃないかな」/「ううん、やぶん今日は出ると思う」vol.19, l.0829
「嫌いだけど、嫌われたくはない」
vol.08, l.1047 行動か。
俺もガラスに映る葉山を見やり、ふと、昔、何を贈ったのだろうとそんな事ばかり考えていた。vol.10, l.0918
雪乃がパンダのパンさんを好きになった理由である、パンダのパンさんの原作の原書、かも知れない。原作の原書は 「誕生日プレゼント、だったのよ。」
vol.03, l.1569 。 但し 「友人から誕生日プレゼントもらったことないから……」
vol.03, l.1092 ともしている。
俺が彼女たちと同じ小学校へ通っていたらどうなっていただろうかと。/あの時、俺はなんと答えたのだったか。vol.10, l.0981
「お前の学校にぼっちが一人増えるだけだよ」
vol.04, l.3161 。おそらく意味無し。
「陽乃。お友達?」/「そ。八幡とガハマちゃん」vol.10, l.1045
恐らく陽乃は名字を明かすことを避けている。「比企谷」と「由比ヶ浜」はかつて雪ノ下家が起こした事故の被害者の名字であって、それが雪乃母に知れてしまうことを懸念している。よって結衣と八幡の苗字を明かさず、陽乃の友達として紹介する。
しかしこのとき結衣は雪乃の友達だとして名乗る。由比ヶ浜の名字に思い当たった雪乃母は、結衣の言動と外見が子供っぽいことを受けて、「大人っぽく見えた」として、恐らくは懐柔し、結衣の好意を稼ぐ。
八幡は名乗らない。名乗らなかった事自体は偶然だろう。が、これが後の雪乃母との対峙で おそらくはこの世でただ一人、俺だけが使えて、たとえ、ただの一度きりでも使うことは許されない、およそ最低最悪の手段。
vol.10, l.4327 という武器になる。
「あなたのお誕生日祝いでもあるのよ」/雪ノ下は唇を嚙んで下を向き、そしてちらっとこちらに視線を向けてくる。/「雪乃ちゃん、ダメだよ」/「ぜひお友達も一緒に、どうかしら?」vol.10, l.1071-1100
雪乃は八幡に家の事情であるにも関わらず助けを求める。雪乃が八幡に強く依存している事を表現する。まちがっている。しかし八幡は家の事情には介入しない。これもまちがっている。雪乃の依存癖は12巻、八幡の雪ノ下家への不介入は14巻への伏線。
「ちょっと早いけど明日お誕生日だから」vol.10, l.1102
結衣は自身と八幡が一緒にいた理由を自分から説明する。雪乃に誤解させない。なおかつて由比ヶ浜は自身の誕生日プレゼントを購入する雪乃と八幡を見て二人の関係を誤解した。
いつの間にか、一色いろはは居座っている。vol.10, l.1133
八幡、結衣、いろは、雪乃の誕生日を祝う。八幡のプレゼントはブルーライトカットの眼鏡。
葉山と雪乃の交際が噂になる。葉山や結衣の否定はその他大勢には届かないとして諦めており、葉山も雪乃も噂を無視する。八幡は雪乃の進路を聞かない。
葉山は自分の進路を話さない。三浦、葉山の理系文系選択の調査を奉仕部に依頼。雪乃、八幡、受ける。
無言ですっと眼鏡をかけた。/思わず目を逸らした。視界の端で雪ノ下が顔を俯かせたのが見えた。vol.10, l.1443
八幡に褒めてもらえず失望している表現。八幡はその失望に気付かない。結衣は当然フォローしている。
たいして熱くもなさそうな紅茶にvol.10, l.1454
淹れてすぐの紅茶が熱くない。雪乃が猫舌の八幡に配慮し始めるのは新奉仕部編、 「紅茶は少し冷めてるくらいが好みです。」
vol.A2, l.2731 であるので偶然。
(葉山の進路を問うために一般論を装った三浦を受けて)
「一色ならともかく」/「先輩ってほんとわたしのことなんだと思ってるんですかねー……」/お前さっき葉山の進路聞くために俺をダシにしただろうが……。vol.10, l.1545
齟齬。八幡の理解は、いろはは葉山の進路を知る為に、初めに八幡の進路を話題にした。いろはの意図は、初めから八幡の進路を知りたくて、その後葉山を照れ隠しに使った。
ツッコミ不在で流されるが、いろはの八幡への好意を示す。
箱について
この腕に確かな重みを感じることができたvol.10, l.1640
箱は奉仕部部室の比喩。クリスマスイベントの前には 箱の中身は空っぽなのだろう。
vol.09, l.2589 と示された。
それでも、三浦優美子は知りたいと思う。vol.10, l.1642
葉山と雪乃に対する噂は止まない。
葉山は八幡にも進路を答えない。葉山が進路を隠す理由は、曰く「自分でちゃんと考えて選ばないと後悔するからな」。
葉山は「事実の説明は無意味だ」という態度を三浦にさえ取っている。三浦は、葉山に煩わしいと思われてでも葉山と同じクラスになりたい、その為に葉山の文理選択を知りたい、と依頼する。八幡は三浦に自分を重ね依頼を受諾する。
「生徒会の手伝いならもうしないぞ」/「……そうですか」vol.10, l.1874
このいろはの相談内容は平塚によれば 「明日、進路相談会があるんだが」
vol.10, l.2617 、まさに生徒会の手伝い。いろははここで八幡らに断られ、後に平塚に正式発注した、と思われる。
であれば、真の相談とした 「ライバルに差をつける方法が知りたいんですよー」
vol.10, l.1918 はアドリブ。 考え考えしながら話し始めた
vol.10, l.1887 ものである。 「も、もちろんです!冗談です!仕事はちゃんとやってます!」
vol.10, l.1880 も嘘。恐らく作劇上は陽乃への 「怖かった……。やっぱりあれ雪ノ下先輩のお姉さんですよ」
vol.10, l.3169 に対応させる為のエピソード。
「気を遣わなくて気軽に遊べる場所……みたいなのを考えてほしいってこと?」vol.10, l.1949
回収は 「前にデートコース考えるように言ったじゃないですかー?」
vol.10.5, l.0882 。
雪ノ下は嘘を吐かない。ただ、本当のことを口にしないことはある。言葉足らずで遠回りな言い方でごまかすこともある。vol.10, l.2048
雪ノ下雪乃ですら噓をつく。
vol.05, l.2325 がまちがっていた事の回収。
雪ノ下はさっきまで三浦の腕を掴んでいた手をぎゅっと強く握ると/「私は近しい人が理解してくれているならそれだけで構わないから」/もう一度、三浦の腕を掴んだほうの手をそっと撫でてvol.10, l.2091
三浦の腕を掴んでいた手ではなく、 未だ三浦の腕を掴んだままの雪ノ下の手をぽんと軽く叩
vol.10, l.2083 いた、その八幡が触れた手。
「隼人、最近、距離あるし……、なんかこのまま行きそうだし」vol.10, l.2119
三浦の危機感。海老名は 「このクラス替えが理由で決定的に瓦解するってこともないんじゃないかなぁ」
vol.10, l.2818 として客観視する。結衣はその種の懸念を一切持たない。
「葉山が教えないってことは、お前には知られたくないってことなんじゃねぇのか。」/踏み込まれることを望まない相手に踏み込んでいくことが正しいのか否か、俺にはまだ自信がない。vol.10, l.2139
八幡が戸塚や雪乃のプライベートな事情を知ろうとしない理由。 なら、それはどっかの誰かと変わらない
vol.10, l.2157 。
いつかその日まで、戸塚彩加は待っている。vol.10, l.2173
材木座は女性から離れるために理系を選択する。
葉山は戸部にも進路を教えていない。八幡は葉山に「戸部にも相談できない悩み」があり得る事に気付く。
八幡は戸塚にはさして理由なく進路を聞く事ができる。八幡も戸塚もお互いに一歩近づいたと考える。
「理系クラスのほうがのびのび生きられる。女子が少なければ教室での居心地もよかろう。」vol.10, l.2260
葉山に提示した 「理系ならそもそも人が少ないし、女子も少ない。」
vol.10, l.3795 という解の伏線。材木座は八幡の斜め下の解法の提示役。
でも、だからもっと知りたいと思うのだvol.10, l.2579
かつて 俺はわかりたいのだ。
/ 知って安心したい
vol.09, l.3076 と八幡は気負っていた。これが気負わなくなった表現。八幡の成長を示すだろう。
颯爽と、雪ノ下陽乃は暗闇に去って行く。vol.10, l.2589
平塚、海老名、川崎、雪乃のそれぞれの進路判断基準。
進路相談会。
陽乃は葉山の進路について雪乃に「自分で考えろ、頼るな」とする。
雪乃が八幡に進路を言えていない事を看破し、八幡に「聞いておくように」とする。
陽乃は、隼人が文理選択を教えない事から、陽乃も隼人も八幡に自分の内面を見出してもらえる事を期待している、と言う。
「わたしもそれは思う。それに。。。。。。」/「それに?」/海老名さんは軽く頭を振る。vol.11, l.2760
「あんまり意味ないと思うよ」
vol.11, l.2802 。海老名が葉山や三浦について醒めた目で見ていることを明かす事を避けたということだろう。
陽乃、葉山の進路について
「雪乃ちゃんならわたしに聞かなくたってわかる」vol.11, l.3105
しかし雪乃は考えても解らない。雪乃か陽乃がまちがっている。
恐らくは陽乃の葉山像が数年前で留まっており、葉山が陽乃を追うのであれば理系を選択すると考えたのみ、なのだろう。
「知っておいても別に損はないでしょう?」/言い方へたくそだな、こいつ。vol.10, l.3257
知っておいて欲しい。雪乃が他人に依頼できない表現。
「やっぱりあれ雪ノ下先輩のお姉さんですよ」vol.10, l.3345 /「だいじょぶ!ゆきのんは別に怖くないよ!」vol.10, l.3349
いろはがまだ雪乃を深くは理解していない表現。
「今度会う時までに聞いとくように」/「今度答え合わせね」vol.10, l.3388
陽乃が持つ雪乃像が正しいか否か、の答え合わせ。
文化祭以前の陽乃の理解であれば、雪乃は「陽乃の後を追い理系を選ぶ」「自分の事を話せない」であったろう。しかし、 「雪乃ちゃん、成長したのね」
vol.06, l.3400 として陽乃は雪乃の成長を認め、雪乃は同じく陽乃に対して直接に陽乃からの脱却を宣言した。つまり陽乃は雪乃の進路を以て、
を確認したい。あるいは陽乃は既にこの段階で雪乃の依存癖を懸念するに至っているかも知れない。
第二の手記 もしくは、それは誰しもの独白でもある。vol.10, l.3408
視点は葉山。自身のペルソナのシャドウに対して自己嫌悪している。
いつでも、葉山隼人は期待に応えている。vol.10, l.3433
マラソン大会。
八幡は葉山に「人間関係を切り捨てろ」として理系を勧める。葉山は八幡への反発を理由に理系を選択しない。
葉山は衆目の前で優美子といろはに言及して雪乃との噂を収束させる。
八幡は雪乃に進路を聞く事ができる。雪乃は文転。雪乃曰く、八幡が個人的な事を聞くのは初めて。
結衣は扉の外からこれを聞いている。
彼女の選択が参考になるかもしれないという可能性をあたまっから排除してしまっていた。/そうしてしまった理由を考えるのは、もっとひどい難問にぶちあたりそうだった。vol.10, l.3457
八幡が雪乃との関係性を考えることを避けていたということ。受験どころか翌年でさえ。
あるいはさらに、思春期モラトリアムの終わりの始まりでもあるだろう。葉山の進路をきっかけに、八幡が自分と誰かの進路や将来を具体的に考えねばならないという自覚を持った、ということ。通常は自身の進路がそのきっかけになるだろうが、八幡は進路を将来を考える事なく決めてしまっていた。
「葉山先輩がんばってくださーい!」/「は、隼人。……が、頑張ってね!」vol.10, l.3547 /「……先輩も頑張ってくださいねー!」/「が、がんばれー!」vol.10, l.3556
いろはが応援しているのは三浦や結衣。隣りにいた一色は二人の様子を満足気に眺めてから
vol.10, l.3555 とあるので、いろはが、自身が葉山に告白した事により三浦らの人間関係は崩れており、これをフォローした。あるいは俺ガイル新によれば 恋する女の子や諦めない女の子がわたしは好きだ
/ わたしはわたしが好きだから、わたしと同じ人はだいたい好き
vol.N1, p.075 。
「三浦は女避けには都合が良かったか?」vol.10, l.3738
葉山が好きな人はYつまり雪ノ下陽乃である。ので、交際の申し込みなどの異性周りの鬱陶しさを退けるために、三浦と仲良くしておくことは、葉山としては都合が良い。
なお結衣は積極的に三浦を男避けに使っている。 どうやらあの男子を避けるためにあえて三浦の名前を出したらしい。
vol.06.5, l.2495
「やっぱり仲良くできなかっただろうな……」vol.10, l.3801
「比企谷君とは仲よくできなかったろうな」
vol.04, l.3167 の反復。
「いや、……凄いな君は」/「理系で正解だったのか」/「違うよ。本当に君は歪んでるな」/択一問題のはずれをわざわざ宣告したということは、残った方が正解だ。vol.10, l.3806
齟齬。葉山は八幡の発想を褒め、八幡は「凄いな」を進路選択の推理が正答していた表現だと誤解し、葉山は八幡の誤解を咎め、八幡は「違うよ」を「理系ではない」と解釈する。結果は正しいが経緯はまちがっている。
恐らく、葉山は(あるいは普通は)、「人間関係を切り捨てる」という発想に至らなかった。人間失格でさえ描かれなかった自分よりも、より卑怯で低俗で歪んだ解法を提示された事、「人間関係を切り捨てる」というその発想が本当に葉山を救いかねない事、に感嘆している。
「君に劣っていると感じる、そのことがたまらなく嫌だ。だから、同格であってほしい。だから君を持ち上げたい、それだけなのかもしれない。君に負けることを肯定するために」vol.10, l.3813
「君が俺をいい奴だって決めつけるのと同じ理由だよ、たぶんね」
vol.09, l.4376 の詳細化。
本来、マラソン大会ごときに表彰式なんてないのだが、そのイベントの司会進行を一色がやっているあたりを見るに、生徒会が急遽企画したのだろう。vol.10, l.3876
「ちゃんと終息させる」
vol.10, l.3840 と葉山が確信している点からして、葉山がいろはと調整したのだろう。マラソン自体の事前か事後かは不明だが、八幡は概ねまちがっているというメタな視点からすれば、事前に。
「良きライバルと皆さんの応援のおかげで最後まで駆け抜けられました。」vol.10, l.3895
はやはち。
「とりあえずはみんな一緒ね」vol.10, l.4003 /「……みんなで、一緒に」vol.10, l.4040
結衣が八幡と雪乃の保健室の会話を聞いていて、さらに結衣が雪乃の奉仕部の終焉の後も三人で一緒にいたいという希望を理解した表現。奉仕部の終焉に対する結衣案、葛西臨海公園に代表される三人共が好意を黙した関係性の維持を提案する理由。
結衣はこの「とりあえずはみんな一緒ね」を聞いたのちに保健室に入ってくる。保健室での雪乃と八幡の会話は結衣に聞かれたところで問題のある会話ではない。が、結衣は、 ただ隙間から覗いて聞き耳を立てることばかり。
vol.12, l.1170 として、この会話に入り込めなかった。
「志望としては国公立理系だけど」vol.02, l.0539
「ゆきのん、なに書いてるの?」/
「進路希望表」vol.06, l.4022
「……一応、文系ということにはなっているわ」vol.10, l.4002
進路不明を経ていつのまにか文転している。
そうして、彼ら彼女らの過去と未来は交錯し、現在に帰結す。vol.10, l.4046
三浦は受験より葉山を選ぶ。三浦の好意は葉山の面倒な性格をも含む。結衣は納得する。
葉山は噂について雪乃に直接謝罪する。葉山は陽乃を追い続けると宣言する。葉山は八幡に雪乃の依存の先が陽乃から八幡になった事を仄めかす。
葉山が八幡に曰く、文理選択の秘匿はみんなの期待に応えたものであって自分の選択ではなかった。これからも「選ばない」を続ける。八幡は葉山に選択肢を残すべく「俺もお前は嫌いだよ」とする。
「めんどいのも含めて、さ」/「やっぱいいって思うんじゃん」/「そっか……。それで、いいんだ。もっと簡単でよかったんだ……」vol.10, l.4078
結衣が何らかの蟠りを克服した表現。恐らくは八幡の言う「本物」に自身が含まれない事。
「気遣ってくれたことには感謝しているわ」vol.10, l.4136
「俺のこの気遣いのおかげで平穏無事なんだから感謝してもらいたいもんだ」
vol.10, l.0573 の反復。
9巻でのクリスマス合同イベント会議の破壊以降、雪乃は八幡の行動を複製する。「気遣いに感謝する」は確かに陽乃や雪乃の行動様式にはない。彼女らにはそれら人間関係を維持する努力は不要であろう。
それはまさに、懺悔だった。vol.10, l.4174
「全然関係ない奴相手だから言えることもあるだろうし」
/ 「告解や懺悔みたいなものかしらね」
vol.10, l.1599 。
つまり葉山が文理選択を秘匿した理由は八幡には関係がないということ。
第三の手記 であるならば、それは誰の独白だったのか。vol.10, l.4194
陽乃。被ったペルソナが強固過ぎて誰も見抜いてくれない。他人を信じられない。本物なんて、あるのだろうか。
なれど、雪ノ下陽乃はかく語りき。vol.10, l.4215
陽乃は八幡を呼び出し、雪乃が八幡に向ける態度は信頼ではなくもっと酷い何か、本物とは呼ばない、と告げる。
「それを本物とは呼ばない……、君の言葉だったね」vol.10, l.4266
「ただ一方的に願望押し付けてたというか、勘違いしてただけで、それを本物とは呼ばない」
vol.08, l.1736
ある人は閉じた幸福だと行った。ある人は気付いていないのかと問うた。vol.10, l.4512
雪乃が八幡の行動をコピーしていること。それぞれ
「余人に理解されない幸福は閉じた幸福だとも言えるからな」vol.09, l.5152
「気付いてないのか?」/
「まぁ、わかってないならそれでもいいか……」vol.10, l.4160
雪乃が行動をコピーすることは、たかだか 心理学でいうところのミラーリング
vol.10, l.0209 であろうから、それは好意を持っているということではない、ということだろう。