「言ってくれなきゃわかんないこと」

「言ってくれなきゃわかんないこと」

「……ゆきのんの言ってること、ちょっとずるいと思う」vol.09, l.3010

「……今、それを言うのね。……あなたも、卑怯だわ」vol.09, l.3014

「ゆきのん、言わなかったじゃん……。言ってくれなきゃわかんないことだって、あるよ」vol.09, l.3024

「……あなただって言わなかった。ずっと取り繕った会話ばかりしていた」 / 「だから、あなたが、あなたたちが望んでいるならって、そう……」vol.09, l.3028

読者への挑戦状。雪乃と結衣が隠している話題は何か。

あるいはさらに、この諍いを含めた「本物が欲しい」前後の顛末は奉仕部の鬱屈を解決する。この鬱屈の主因は何であったか。

雪乃の八幡への好意。

すなわち、結衣は 「あなたのやり方、嫌いだわ」vol.07, l.3088 により雪乃の八幡への好意を察した。それは三角関係を意味するために、結衣は、取り繕った会話を続けた。雪乃は八幡と結衣が好意の表明を封じてでも奉仕部を継続する事を望んだと考え、奉仕部を延命させるべく、生徒会長戦に立候補した。

全部の答えを出して

「……ゆきのんの言ってること、ちょっとずるいと思う」vol.09, l.3010

「……今、それを言うのね。……あなたも、卑怯だわ」vol.09, l.3014

「ゆきのん、言わなかったじゃん……。言ってくれなきゃわかんないことだって、あるよ」vol.09, l.3024

「……あなただって言わなかった。ずっと取り繕った会話ばかりしていた」 / 「だから、あなたが、あなたたちが望んでいるならって、そう……」vol.09, l.3028

問いは、上記を理解することである。

さらにこのとき、

とする。

以上から、求める項目を

とする。

ここで、これら項目間には、

というを時間順あるいは依存関係が存在する。

以上を前提として、各項目を推定する。

A. 「ゆきのんの言ってること」

「……ゆきのんの言ってること、ちょっとずるいと思う」vol.09, l.3010

「……今、それを言うのね。vol.09, l.3014

「ゆきのんの言ってること」「それ」とは何か、を求める。

条件は

である。

「一つ、依頼がしたい」以降の雪乃の発言を網羅すると

である。

これらの発言のうち、鬱屈前から言い続けているものとして

を得る。

なお、それぞれについて、「ちょっとずるい」理由を求めると

となる。

B. 雪乃の言わなかったことを結衣が察せなかったことによる言動、結衣が卑怯とされる理由

「……ゆきのんの言ってること、ちょっとずるいと思う」vol.09, l.3010

「……今、それを言うのね。vol.09, l.3014 / ……あなたも、卑怯だわ」vol.09, l.3014

「ゆきのん、言わなかったじゃん……。vol.09, l.3024

結衣が「あなたも、卑怯だわ」と言われる理由となる行動を求める。

条件は

とする。

よって、「ゆきのんの言ってること」それぞれについて、それを指摘することが卑怯なことに変化する様な結衣の言動、を求める。候補は、

とする。

C. 雪乃が言わなかったこと

「……今、それを言うのね。vol.09, l.3014 / ……あなたも、卑怯だわ」vol.09, l.3014

「ゆきのん、言わなかったじゃん……。言ってくれなきゃわかんないことだって、あるよ」vol.09, l.3024

「……あなただって言わなかった。ずっと取り繕った会話ばかりしていた」vol.09, l.3025

「言ってくれなきゃわかんないこと」は何か、を求める。

条件は

とする。

よって、前記「卑怯だわ」と言われる理由となる結衣の言動のそれぞれについて、その言動を起こす理由となった、雪乃が言わなかったこと、を推定する。但し「言わなかった」であるので、読者に分かる様には書かれていない可能性がある。

D. 結衣が言わなかったこと

「……あなただって言わなかった。ずっと取り繕った会話ばかりしていた」vol.09, l.3025

結衣が「言わなかった」ことは何か。

但し、「言わなかった」の候補の網羅は不可能であるので、まず「取り繕った会話」を求める。その後、言わなかった何か、を推定する。

ここで、「取り繕った会話」の条件は

である。

結衣が取り繕った会話のうち、結衣が言わなかったことが存在する会話を網羅すると、

となる。

E. 取り繕った会話を受けての雪乃の言動

「だから、あなたが、あなたたちが望んでいるならって、そう……」vol.09, l.3028

「そう」に後続する様な雪乃の言動を網羅する。

条件は

である。よって、候補を

とする。

消去法で一つずつ潰せ

の組み合わせのそれぞれについて、その妥当性を考える。

ABC. 雪乃は何を言わずに、何を言ったか

について、成立した組み合わせを下記に示す。

DE. 結衣が取り繕った会話ばかりしていたから、雪乃は何をしたか

について、成立する組み合わせを下記に示す。

それでもわかるもんじゃないんじゃないですかね

以上、ABC5通り、DE4通り、計5x4 の 20 通りが成立する。

ここで、

「ゆきのん、言わなかったじゃん……。言ってくれなきゃわかんないことだって、あるよ」vol.09, l.3024

「……あなただって言わなかった。ずっと取り繕った会話ばかりしていた」 (vol.09, l.3025)

連続するこの2つの台詞の内容が関連する、雪乃が言わなかったことを結衣も言わなかった、と仮定すると、

等の解が残る。

なら、計算が間違っているか、見落としがあるんだろう。

普通に考えればβ案が解で良いだろう。が、ここで、γ案、最後の解について深耕する。

「君は人の心理を読み取ることには長けているな」 / 「けれど、感情は理解していない」 / 「問題の根っこは一つなんだよ。……心だ」vol.09, l.2730

問題はすなわち結衣と雪乃の感情、心、である。結衣や雪乃の「言わなかったこと」も感情、問題の根っこと言われる程に根本的な心、である。

「考えたのはヒッキーだし、やったのもヒッキーかもしんない。」vol.09, l.3001

八幡の行為が諍いの起点になっているということ。発生順に

である。鬱屈の由来を八幡がクリスマスイベントを手伝った事だとするα案を除去する。

「でも、あたしたちもそうだよ。全部、押し付けちゃったの……」vol.09, l.3001

この会話は、鬱屈や齟齬に関する雪乃の責を問うている。

ここで、γ案はα案β案よりも直截に雪乃が齟齬を起こしがちな本質をついている。

「言ってくれなきゃわかんないことだって、あるよ」vol.09, l.3024

結衣は、雪乃の齟齬を起こしがちな本質にも関わらず、普通のことなら雪乃が言わずとも察せる。すなわちγ案が特定していない「雪乃が言わなかったこと」は、より結衣が察せない程に飛躍している、とする。

「お互いがお互いのことを想えばこそ、手に入らないものもある。」vol.09, l.2799

解が満たすべき条件である。想いの程度はより深く、手に入るものはより貴重であるべきである。

残ったものが君の答えだ

これらに基づいてγ案を再解釈すると、

という、より劇的な解を得る。

余波

本稿は下記仮定が正しい事を前提とし、あるいは補強する。

「待たないで、……こっちから行くの」vol.06, l.2883

このとき結衣は雪乃から八幡への好意を把握していない。察してもいない。

──彼と彼女の告白は誰にも届かない。vol.07, l.2978

この表題の「彼と彼女」は八幡と雪乃を指す。つまり、結衣に言い寄られる八幡は雪乃を想定して「好きです、付き合ってください」と言い、雪乃は「あなたのやり方以外は好き」と答えている、とする。「誰にも」であるので、結衣にも届かない。読者にも。

「あなたのやり方、嫌いだわ」vol.07, l.3088

結衣は雪乃のこの言葉をきっかけとして雪乃の八幡への想いを察した。あるいは、この場ではなく、その後の雪乃との何らかの会話を通して、でもよい。例えば 中からは話し声が漏れてきた。扉越しの声は聞き取りづらいが、どうやら二人とも来ているらしいvol.08, l.0341

「あたしたちも普通に……、うん……」vol.08, l.0401

八幡と結衣が、結衣が好意を表明しないことにより奉仕部を維持する、事に合意した表現。この時点で結衣は雪乃の八幡への好意を察していて、雪乃への配慮を含む。

「あなたは……、その……」 / 雪の下はぐっとスカートを握り込む。肩がわずかに震えていた。そして意を決したように喉をこくりと動かす。だが、ついぞ言葉は出てこなかった。vol.08, l.0411

雪乃は八幡に奉仕部の関係性について問おうとしている。例えば八幡の結衣への感情。この時点で雪乃は、結衣が自身の八幡への好意を察している事を知らない。

「ゆ、ゆきのん! あ、あの、あのさ……」 / その先を言わせてはいけないと、そう直感したように。 / でもそれは、ただの先延ばしで見て見ぬふり、人知れずそっと野に埋めるような行為でしかない。vol.08, l.0417

結衣が、八幡と結衣の合意に、雪乃を巻き込む行為。

「けれど。感情は理解していない」 / 比企谷八幡がわかろうとしなかったものの正体に気づいてしまう。vol.09, l.2695

「比企谷八幡がわかろうとしなかったもの」は、雪乃の八幡への感情、となる。

聞くことも、言うことも、確かめることも、諦めることもしていなかった自分に気づいてしまった。vol.Y1, l.0185 / ずっと前から、好きだったんだ。vol.Y1, l.0187

俺ガイル結にて、この頃の結衣は既に、雪乃の感情を察していながら気づかないふりをしていた、と明かされる。

率直に言えばこの俺ガイル結での 言うことも ずっと前から という言葉の選択こそが本論が正しいと考えた契機である。本解釈において結衣は「雪乃が八幡を好きだったんだ」とは聞いても言っても確かめても諦めてもいない。