09巻 クリスマス
12月。 八幡の単独行動により奉仕部は鬱屈する。八幡は奉仕部瓦解の正念場で本心を吐き出す。雪乃と結衣の蟠りは解ける。
嘘告白を発端とする連作の完結編。八幡は、自身の理想としていた 理解されないことを嘆かず、理解することを諦める
vol.05, l.2376 のうち 理解することを諦める
がまちがっている事を知り、 俺はわかりたいのだ。
/ 知って安心したい
vol.09, l.3228 と自覚する。
「俺は、本物が欲しい」
vol.09, l.3248 は端的に雪乃を念頭においた発言だが、しかし雪乃には伝わらず、結衣が収拾する。このとき、八幡はこの「本物」の条件を改めて設定し、実際に結衣はその条件を満たすものの、しかし八幡は結衣を本物の対象として想定しない。 本物とはまちがっていて故に人間関係を壊す。 を参照。
「本物が欲しい」以降、雪乃は八幡の行動を模倣する。雪乃は文化祭での八幡と本質的に同じ自爆的な手段で玉縄会議の閉塞を打開する。この模倣は11巻で顕在化しプロム編の主題となる。雪乃が生徒会長選の挫折で喪失したアイデンティティを「本物が欲しい」に寄せる表現であろう。
なお、雪乃と八幡が似た言動を取ること自体は「本物が欲しい」以前から始まっている。この例を下記に示す。
「そんな上っ面の関係で楽しくやろうっていうお前らのほうがおかしい」vol.07, l.3088
「そんなうわべだけのものに意味なんてないと言ったのはあなただったはずよ」vol.08, l.1663
「それで壊れる関係なら、もともとその程度のもんなんじゃねぇの」vol.07, l.3073
「それで壊れてしまうのなら、それまでのものでしかない......」vol.09, l.2684
できているつもりで、その実本当は何もできていないのにvol.09, l.2112
「できているつもりで......、わかっているつもりでいただけだもの」vol.09, l.2668
終焉を意識しつつ奉仕部は閉塞した馴れ合いを続ける。
八幡は自身が何が欲しいか解らない。川崎や戸塚が八幡に挨拶する。三浦と葉山に距離感があるが、しかし彼らでさえ各自が距離感を調整している。
今の由比ヶ浜にとっては、三浦たちといることが安らぎなのかもしれない。vol.09, l.0275
この時点での葉山と三浦はそれなりに軋轢を抱えている。これが安らぎであるとは考えがたい。
結衣は人間関係の維持を一人で担う必要がないことに安堵しているか、あるいは、葉山と三浦の軋轢に気付いていないかも知れない。概ね常に正しい結衣はその軋轢が大した問題ではないと判断しているのかも知れない。
戸部はグループ内の不穏な空気を感じて無自覚に行動していたのかもしれないが、海老名さんは自覚的に溝を埋めようとしていたのだろう。vol.09, l.0364
「じゃ、じゃあアレじゃね!初詣とか」
vol.09, l.0310 / 「みんなで遊ぶのはいいね」
vol.09, l.0318 のこと。
「そうだけどっ! ......あれ? じゃあいいのか」vol.09, l.0475
結衣の目的が八幡と教室を出るという事ではない、ということ。結衣と八幡が一緒に奉仕部に行く目的は、ひと息ついてから、むんと気合いを入れるように
, いつものペースで歩いたら、きっと由比ヶ浜を置いてけぼりにしてしまうだろう。
と合わせ、奉仕部室に行く気鬱を抑え込む、こと。
いろはの依頼、海浜総合との合同クリスマスイベント。八幡は雪乃を慮り奉仕部ではなく個人として手伝うとする。
「受験生に迷惑かけるわけにはいかないじゃないですかー」vol.09, l.0620 /ふわぽわ天然系キャラを作ってる一色からしたら本物のふわぽわ天然系めぐりんは眩しいのかも知れない。vol.09, l.0622
まちがっている。 「でも、平塚先生がやれって言うから......」
vol.09, l.0589 / 「雪ノ下と由比ヶ浜はどうした?」
vol.09, l.1098 によれば、クリスマスイベントへの参加自体が平塚の暗躍によるもの。であれば 「受験生に迷惑かけるわけにはいかないじゃないですかー」
も平塚の仕込み。
「どうかしら?」/初めて、なんじゃないだろうか。雪ノ下が依頼を受けるか否かを俺たちに問うことは。vol.09, l.0651
理由不明。
確かに依頼を受けるか否かを八幡らに問う事は初めてと見られる。が、後に10巻でも 「この相談、どうしましょうか」
vol.10, l.1665 としており、このときには雪乃や八幡に違和感はない。依頼と相談で扱いが異なるのかも知れないし、「本物が欲しい」あるいは「いつか、私を助けてね」等の関係性の変化に伴う変化かも知れない。
八幡はいろはの依頼を受けた事を雪乃や結衣に明かさない。
いろはと合流。
玉縄は議事進行が下手。海浜総合と総武高校はモチベーションに差がある。平塚合流。クリスマスイベントへの参加依頼は平塚の差し金。
比企谷母帰宅。八幡にパーティバーレルとケーキの予約を指示する。小町「そういうときは『愛してる』でいいんだよ」
「お兄ちゃん、そういうときは『愛してる』でいいんだよ」vol.09, l.1210
いろは攻略法。小町は理想解の提示役。
「追い詰められてるときって別のことしたほうが気が紛れるじゃん?」vol.09, l.1216
同じく理想解。鬱屈している奉仕部はいろはの依頼を受けるべきだった。
現時点での問題は総武高校側生徒会。奉仕部の鬱屈は続く。八幡はパーティバーレル予約を理由に途中退出する。
副会長の不満はいろはの仕事を拒否する交渉力の弱さに因るもので、八幡はその補強に入る。折本は八幡がいろはを狙っている訳でも雪結と交際している訳でもない事を知る。
結衣は八幡がいろはを手伝っている事に気付く。雪乃は不明。八幡は生徒会長選で間違えた。ならばその責任は一人で負わねばならない、と考える。結衣は奉仕部を維持ししかし疲弊している。雪乃は八幡と結衣による暗黙の現状維持に諦めて従っている。
葉山の八幡評、「頼られたら断らない」。葉山「俺は君が思っているほど、いい奴じゃない」。
「頼られたら断らないからな、君は」vol.09, l.1878
8巻で雪乃が生徒会長選に失敗した理由は、雪乃がその意図を黙して八幡を頼らなかったことにもあるということ。
「お前だって断らないだろ、別に部活じゃないのに」/「俺は君が思っているほど、いい奴じゃない」vol.09, l.1890
葉山が千葉村キャンプに参加したり、文化祭で雪乃を手伝ったり、生徒会長戦で雪乃の応援演説を請け負ったりした理由、の回収。全て葉山は雪乃に頼られても頼まれてもいない。
「俺は君が思っているほど、いい奴じゃない」/静かなのに苛烈さを秘めた声音。それはいつだかの夏休みにも聞いたような気がする。vol.09, l.1892
「比企谷君とは仲よくできなかったろうな」
/ 優しいだけではなく、どこか苛烈さを秘めた声音
vol.04, l.3358 。陽乃に気に入られている八幡への嫉妬の表現。
隙がなく完璧だからこそ、底が知れなくてうすら寒い。あれによく似たものを俺はどこかで見ているはずだ。
vol.09, l.1911 も同じく陽乃の笑顔。葉山が陽乃の後を追いその表現手法をクローンしている表現。
であるから葉山が動いた理由は陽乃だということ。
合流した小学生の中に鶴見留美がいる。未だ孤立している。八幡は小学生の作業を投機的に捏造する。八幡はイベントの中身の決定を玉縄に迫る。玉縄は会議に持ち込む。
おそらく、玉縄が一方的に悪いというわけではない。/今度も間違えているのは俺のほうかもしれない。vol.09, l.2046
玉縄が一方的に悪い。八幡は この会議の最大のミスは否定が存在しなかったことだ
vol.09, l.5022 とする。ブレインストーミングにはアイディアの発散だけではなく収束させる作業が必須であって、玉縄はこれを欠いている。
あるいはそもそもアイディア出しの会議と意思決定の会議は別物。
持ち帰り検討。戸塚は疲れて見える八幡を案じ、理由を問うが、八幡は話さない。戸塚は八幡の孤立を褒める。それを機に逆説的に八幡はいろはの疲弊や鶴見留美の孤立が自身の方法論が導いた結果であること直視し、自身の方法論を疑う。
それにどちらかといえば肉より野菜のほうを好んでいたような気がしたが......。vol.09, l.2205
「ぼくは野菜メインだと嬉しいな」
vol.07, l.3638 。
己の中に定めた、自身のあるべき姿を裏切るまいと、そうやって依怙地になっているにすぎない。vol.09, l.2281
「自身のあるべき姿」とは、 孤高を貫き、己が正義を貫き、理解されないことを嘆かず、理解することを諦める
vol.05, l.2376 。
折本はいろはに八幡との過去を問われしかし話さない。折本も進捗の遅れを認識はしている。
八幡は自身が指示をしている事に気付き、改める。八幡はキャンプ肝試しでの責任として、一人で作業している留美に寄り添い、しかしそれは免罪符にはならず、八幡は方法論の変化を志す。
一人ぽつんと作業している留美を見つけた。vol.09, l.2482 /留美が満足げな吐息とともに小さな笑顔を見せた。vol.09, l.2537
留美が八幡に笑顔を見せる事が問題なのではなく、見せる笑顔を持ちつつ、同級生などの前ではそれを見せない事、が問題である。
雪乃は八幡がいろはを手伝っている事を知っている。雪乃は八幡にクリスマスイベントを奉仕部の活動とするか否かの最終確認をし、八幡は否定する。雪乃「いつも、できているつもりで......、わかっているつもりでいただけだもの」「それで壊れてしまうのなら、それまでのものでしかない」
「あなたの個人的な行動まで私がどうこうできるわけではないし、そんな資格もないもの。」/「私の許可が必要?」/「いいや、ただの確認だ」vol.09, l.2642
雪乃は自身の願い。「してほしい」に類する言葉を口にしない。
自虐的に、卑下するかの様に表現し、八幡はこれを裏返さずに理解する。「勘違いしないでよねあなたの為じゃないんだからね!」「そうか俺のためではないのか」という状況。
「個人的な行動ではなく奉仕部の行動としてほしい、許可が必要な状態にしてほしい。」の意。
「謝る必要なんてないじゃない」vol.09, l.2646 /謝ることも許されないなら、他に何が言えるだろう。vol.09, l.2649
同様。謝れば良い。
「いつも、できているつもりで......、わかっているつもりでいただけだもの」vol.09, l.2668
できているつもりで、その実本当は何もできていないのに
vol.09, l.2112 と 「わかるものだとばかり、思っていたのね......」
vol.08, l.4286 を引く。
「私たちに気を遣っているなら、それは不要な気遣いよ」/「別に気を遣ってるとかじゃねぇよ」/言うべき言葉がこれじゃないのは知っている。vol.09, l.2677
「言うべき言葉」は、小町による理想解では謝ること。 「どうせきっとなんかやったお兄ちゃんが悪いし」
/ 「だいたい謝ってないし」
vol.08, l.3090 。
「ずっと気を遣っているわ......。あのときからずっと......。だから......」/しかし、その続きはついぞ出てこず、vol.09, l.2682
その続きは、 「けど、別にもう無理する必要なんて無いじゃない。」
vol.09, l.2683 として逆接することから、 「だから、あなたが、あなたたちが望んでいるならって、そう......」
vol.09, l.3176 だろう。生徒会長選以降、雪乃も空気を読んで合わせようとしていたということ。さらに、その奉仕部の閉塞の理由が、雪乃はその類の行為について著しく不器用だったからだ、と雪乃が自覚しているということ。
「それで壊れてしまうのなら、それまでのものでしかない......。違う?」vol.09, l.2684
「......それで壊れる関係なら、もともとその程度のもんなんじゃねぇの」
vol.07, l.3073 を引く。が、この会話は雪乃がいない場での八幡と葉山の間の会話であって、雪乃は耳にしていないはず、ではある。同じく雪乃と八幡が似た者同士である、という表現だろう。
八幡の側が自省的に記述されているが、社会通念上は、八幡の うわべを取り繕うことがまったくの無駄ではない
vol.09, l.2702 方が正しく、雪乃や八幡の 「それで壊れてしまうのなら、それまでのものでしかない」の主張の方がまちがっている。
俺は守ったのではなく、守った気になって、縋っていたのだ。vol.09, l.2698
雪乃ルートの可能性に縋っていた、だろう。
平塚と偶然合流。八幡は平塚にイベントの問題点を話す。平塚は八幡が自他の感情を理解しようとしない事を指摘し、正しいブレインストーミング法と弁証法による問題解決とを教える。「誰かを大切に思うということは、その人を傷つける覚悟をすることだよ」。
そういやこれ左ハンドルなんだな/「私の愛車はこいつだ」vol.09, l.2748
アニメではアストンマーティン、イギリス車。イギリスは日本と同じく左側通行右ハンドルなので、アニメスタッフのミスだろう。なお原作では車種もベンダーも特定されない。
「けれど。感情は理解していない」/比企谷八幡がわかろうとしなかったものの正体に気づいてしまう。vol.09, l.2825
感情。八幡は、感情を理解しないのではなく、理解しようとしない、ということ。
あるいは 理解されないことを嘆かず、理解することを諦める
vol.05, l.2376 、あるいは 何も言わなくても通じて、何もしなくても理解できて
vol.08, l.4390 の目的語が感情である、ということ。
「ならもっと考えろ。計算しかできないなら計算しつくせ。全部の答えを出して消去法で一つずつ潰せ。残ったものが君の答えだ」vol.09, l.2863
奉仕部の鬱屈の理由の導出法。 「ゆきのんの言ってること、ちょっとずるいと思う」 あるいは嘘告白以降の鬱屈の主因 参照。
「大切なものだから、傷つけたくない」vol.09, l.2911 /「誰かを大切に思うということは、その人を傷つける覚悟をすることだよ」vol.09, l.2924
弁証法。「本物が欲しい」という問いと解の導出法。 本物は人間関係を壊す 参照。
「お互いがお互いのことを想えばこそ、手に入らないものもある。」vol.09, l.2928
奉仕部の現状。プロム編の主題。 雪乃も八幡も結衣も、他の二人が大切で、しかし誰かを選べば、他方を手に入れられない。
八幡は問いを「欲しいものがあっ」て、「触れた気がし」たから、「まちがえた」に再設定し、答えを得る。
平塚先生は確かにヒントをくれた。たぶん今日に限らず、これまでもずっと教え続けてくれていたのだ。vol.09, l.2994
平塚は嘘告白以降ここまで
と八幡を気にかけ、八幡は平塚の想定通りには動かず、しかし八幡と雪乃の失敗を見守っている。
八幡の答えは「クリスマスイベントへの協力を奉仕部に依頼する」。しかし雪乃と八幡はすれ違い、結衣と雪乃は言い争い、八幡は結衣の言葉を聞かない。八幡は言葉を否定し「本物が欲しい」に至る。雪乃は逃げ、八幡は結衣を拒否する。結衣「今のままじゃやだよ」。雪乃は自身の願望を言葉にしないまま八幡の依頼を受ける。結衣も手伝う。
「......ゆきのんの言ってること、ちょっとずるいと思う」vol.09, l.3157 /「......今、それを言うのね。......あなたも、卑怯だわ」vol.09, l.3161
嘘告白以降に鬱屈していた理由、雪乃が立候補した理由。 「言ってくれなきゃわかんないこと」 参照。
「俺は、本物が欲しい」vol.09, l.3244
本物は人間関係を壊す 参照。
八幡は自己嫌悪。小町「往々にして個性個性言ってる奴に限って個性がねぇんだ。」
「アイデンティティ? はぁー?往々にして個性個性言ってる奴に限って個性がねぇんだ」vol.09, l.3396
「それがあれば、私は救えると思ったから」
vol.09, l.4473 の「それ」の解。小町は理想解の提示役。 なお 個性個性いう奴らほど個性がない。
vol.05, l.0740 の反復。
八幡は自身の依頼について結衣と雪乃が揃うのを待つ。結衣と雪乃は距離感を調節している。
玉縄によるクリスマスイベント草案、ブレストの結果を総和したのみ。時間も金も不足かつ未検討。
雪乃は問題点を整理と具体策を絞り込む。まずは金の無心。
「...あなたにも、わからないことはあるのね」vol.09, l.3642 /「これくらいのことはあなたも考えていると思っていたから」vol.09, l.3688
不明。
この種の八幡を捉え直す表現は水族館、 「いいえ、少し意外だっただけ。」
vol.11, l.3745 にも現れる。この期間は、ちょうど八幡の「本物が欲しい」という依頼を受けて、雪乃八幡へ依存していく過程である。であるから、
などの描写だろうか。
金を無心された平塚は話を逸らして八幡らにディスティニィーランドのチケットを渡す。
「で、まずは予算と言うわけか......」/「君たちはクリスマスの何たるかをわかっていないようだな」vol.09, l.3718
平塚は話題をずらしている。 その予算獲得も平塚先生の反応見る限り難しそうだ
vol.09, l.4725 。
いろはは葉山を呼ぶ。結衣は人間関係上三浦、海老名、戸部を呼ぶ。雪乃と結衣の距離感が復帰。
ルートはいろはの考案。戸部がいろは三浦に挟まれた葉山を助けに入る。葉山らも距離感を調整していて、しかし海老名はそれを受け流す。
「とべっち、大変そうだねぇ」/「そうだな。......助けてやったら?」/「ヒキタニくんが変なこと言うからだよ」vol.09, l.4033
海老名の性格。葉山や戸部を一歩引いて見ている上に彼らを助ける義理を感じない。
「そっちはぎくしゃくしてねぇのか」/「......うん、おかげさまで」/きっと、海老名姫菜はまた一つ、小さな嘘を吐いたのだろう。vol.09, l.4050
つまり海老名らもぎくしゃくしている。
パンさんのバンブーファイト。八幡は結衣と雪乃から距離をおこうとするが、結衣が引き戻す。
となると、俺は海老名さんと戸部と一緒に乗るのか......。vol.09, l.4089
八幡が結衣と雪乃から距離をおいている。
かつ、八幡は雪乃と結衣と一緒に乗っているので、ここで海老名と戸部は二人で乗っている。
八幡、雪乃、結衣で小町のクリスマスプレゼント選び。結衣は文化祭時の八幡との約束を再確認。八幡は結衣と雪乃の写真を撮る。
「でも、あたしは、また......来たいな」vol.09, l.4207
結衣や雪乃から距離を置いている八幡を結衣側から修復する言葉。
八幡と雪乃ははぐれ、ライドに二人で乗ることに。陽乃のせいで雪乃はコースター系が苦手。雪乃、落下の写真撮影タイミングで、「いつか、私を助けてね」
「いつか、私を助けてね」/それはたぶん、雪ノ下雪乃が口にした初めての願いだったのだと思う。vol.09, l.4408
「......本当に、誰でも救ってしまうのね」
vol.06, l.4020 を引き、 「いつか、助けるって約束したから」
vol.12, l.4853 に繋がる言葉。助ける、救う、は雪乃の人間関係を規定するキーワードである。
9巻のエピソードは、この雪乃の台詞を核として、雪乃の主観によればひどくネガティブなものであり、しかし俯瞰ないし客観ではポジティブなものとなる。 「いつか、私を助けてね」 参照。
雪乃は八幡との写真を買った。雪乃は生徒会長選の行動の理由を仄めかす。曰く、陽乃も八幡も雪乃にないものを持っている、だからまた別のものが欲しくなった、「それがあれば、私は救えると思ったから」。
雪ノ下はいつの間にか買い物でもしてきたのか、薄い縦長のビニール袋をバッグにしまっているところだった。vol.09, l.4414
後に結衣が雪乃宅で見つける記念写真。 ああ、やっぱり。って、それだけ思った
vol.12, l.1227 。
「私にできることが何もないって気づいてしまったから、あなたも姉さんも持っていないものが欲しくなった。......それがあれば、私は救えると思ったから」/いったい何があれば、何を救えたのだろう。vol.09, l.4474
アイデンティティがあれば。「何を」は恐らく八幡を。
メタではあるが、解は小町や陽乃が示す。
「アイデンティティ? はぁー?往々にして個性個性言ってる奴に限って個性がねぇんだ」vol.09, l.3396
「自分が何者かなんてことに悩むような」vol.12, l.4700
回避することが人を傷つける手段になりうることを知っている。/「気づいてたんなら覚悟が足りなかっただけなんじゃねえの」vol.09, l.4588 。
前者は嘘告白とその後の奉仕部の鬱屈。後者は 「誰かを大切に思うということは、その人を傷つける覚悟をすること」
vol.09, l.2924 を引く。平塚のアドバイスに対する八幡の理解が、告白されたら断る覚悟をしておくこと、だということ。
いろはが葉山に告白し断られる。葉山はいろはが自身に告白してきた理由を察し、八幡に当て擦る。
一色いろはって 八幡のことなんだと思ってるんですかねー? 。
いろはは八幡を自宅近辺まで連れ帰る。いろはは「本物が欲しい」に中てられた。葉山への未練を示しつつ「責任、とってくださいね」
夜の街灯りの中をモノレールは進んでいく。vol.09, l.4635
千葉みなと駅からモノレールに乗るのであれば千葉駅からでも良い。いろはが葉山らと帰る経路を避けた、あるいは八幡らと帰る事を選んだ、ということ。
頑張ってる奴に頑張れとは言ってやれない。小町いわく、そういう時は愛してるでいいと言うが、あれは妹専用の言葉だ。vol.09, l.4678 。
まちがっている。「愛してる」が理想解。
いろははまだ会長職に自信がない。海浜総合には決定役がいない。八幡は私情を持ち込む決定法を示す。八幡らは合議制の破壊を提案し、いろはは意思決定する。八幡らは嘘告白寸前の会話を繰り返す。
「最初の問題提起が面倒くさいもんだ。なら、もう存在してる問題にカウンターをあてればいい」vol.09, l.4847
発想法の一つ。 「これについてはゼロベースから始めることだから、みんな自由にどんどん発言してね」
vol.09, l.2058 の反対。 「考えるときは、考えるポイントを間違えないことだ」
vol.09, l.2894 の繰り返し。
「あなたの好きにしたらいいわ」/「......うん、わかった」vol.09, l.4952
嘘告白直前の会話、 「あなたに任せるわ」
/ それに由比ヶ浜もうんと頷く。
vol.09, l.3199 の繰り返している状況。
いろはが玉縄と交渉。折衷を狙う玉縄に対していろはは折れない。合同に固執する玉縄に、八幡は玉縄は責任を分散しようとしていると指摘する。雪乃が嘘告白同様に八幡コピーで自爆、結衣が取り成す。
「曖昧な言葉で話をした気になって、わかった気になって、なに一つ行動を起こさない。そんなの前に進むわけがないわ......。何も生み出さない、何も得られない、何も与えない。......ただの偽物」vol.09, l.5064
八幡が取りがちな自爆技の雪乃コピー。かつ、雪ノ下はきゅっと拳を握り、俯いている。
ので、自虐。「本物が欲しい」という曖昧な言葉で話をした気になって行動を起こさない八幡と奉仕部のダブルミーニング。
八幡と雪乃のリカバリーは結衣といろはで。平塚は八幡コピーをした雪乃を理解しつつ懸念する。
折本は八幡の変化を指摘し自身の見識の狭さを悔いる。
「でも、友達としてはちょっとありかな。ウケるし。」vol.09, l.5195
折本が八幡の告白を断った言葉は『うん、お友達でいてください』
vol.01, l.1850 。折本は八幡を覚えていない。
八幡「俺のほうがもっと一人でできる」として留美を手伝う。葉山はいろはの手伝いを断る。雪乃はいろはにリーダーを委譲する。
「でもな、俺のほうがもっと一人でできる」vol.09, l.5233
ぼっちに声を掛けるときの八幡の解。葉山の留美への声の掛け方が 悪手、である。
vol.04, l.1361 であった事との対比。
「あなたを推した人がいるのだから、それを信じていいと思う」vol.09, l.5338
雪乃の八幡への盲信。プロム編で雪乃から八幡への依存となるものだろう。
なおこの種の盲信は1巻に既に 「この男が試合を決めるから、おとなしく敗北なさい」
vol.01, l.3422 として現れている。あるいは文化祭での失踪した相模の捜索や、修学旅行での嘘告白前の許可なども相当しよう。
イベント準備。小町、戸塚、材木座合流。
クリスマス合同イベント開始。海浜総合側も成功。いろははリーダーとして振舞い始める。
「最後のタイミング、副会長と確認しておいてくださいね。それと、ケーキの方もよろしくです」/「了解だ、会長」vol.09, l.5423
指示出し。いろはの生徒会長としての自立を示す。
エンディング、大団円。鶴見留美が人の輪の中に戻る。
結衣と雪乃の八幡へのクリスマスプレゼント、湯飲み。雪乃「あなたの依頼、受けるって言ったじゃない」。
紙コップ代わりとはいえ、いただきものをして、へそを曲げるほど偏屈でも幼くもない。/「......ありがとな、湯呑み」vol.09, l.5557
こうわざわざ用意されてそれを受け取れないほど天の邪鬼でもない。
vol.07, l.0259 との対比。いただきものをして感謝できる。
「あなたの依頼、受けるって言ったじゃない」/「なに、なぞなぞなの?」vol.09, l.5567
「本物が欲しい」。
「そうね、なぞなぞかも」vol.09, l.5568
本物とは何か、が。
どこを見るともない視線のまま、ぽしょりと/「あたしは......、わかっちゃったな。......ヒッキーはわかんなくてもいいかもね」vol.09, l.5574
10巻以降への伏線と捉えるならば、結衣はここで
「勝ったら何でも言うことを聞いてもらえる」vol.08, l.0828 の勝者が雪乃に決まったこと
「やっぱり遠慮しておくわ。それは二人でやりなさい」vol.04, l.3278
までもがわかっちゃった、かも知れない。
「ゆきのんは予定、......ある?」/たぶんいつかクリスマスの予定を聞いたあの何気ない上っ面の会話のことを気にしているのだろう。vol.09, l.5580
「まだちょっと家の予定がわからないけれど」
vol.08, l.4543 。