08巻 生徒会長選挙

08巻 生徒会長選挙

11月。 これまで八幡は自身の行動の意図を説明しない。それを雪乃も真似て、しかし結果として奉仕部は意思疎通に失敗し鬱屈する。

7巻から9巻、嘘告白、生徒会長選挙、クリスマスイベントは、八幡がかつて雪乃に押し付けた 理解されないことを嘆かず、理解することを諦める。vol.05, l.2260 という八幡の理想がまちがっている事を示すエピソードである。八幡は嘘告白を 理解も、共感もできるはずがないvol.08, l.2961 と考えている。さらに、雪乃の生徒会長の立候補について、 雪ノ下の真意はわからないままvol.08, l.3015 対策を進める。結果として雪乃による奉仕部の生徒会移行の意図を汲み損ねる。

この巻から9巻前半にかけて、八幡の推測や行動の多くがまちがっている。雪乃の行動や発言の前後の描写は、嘘告白及び応援演説の否定を除いて、一貫して八幡を咎めている様には描写されていない。かつ、社会通念上は雪乃がまちがっている。にもかかわらず、八幡は雪乃のあらゆる発言や行動に咎められている様に描写されている。

雪乃の感情や意図の多くが描写されない。共感はできず、叙景による暗喩もされず、理詰めでしか類推できない。 「人の気持ち、もっと考えてよ……」vol.07, l.3128「けれど、感情は理解していない」vol.09, l.2693 、等として明示的に指摘される通り、ミステリで言うところのホワイダニットの部類であろう。 「わかるものだとばかり、思っていたのね」 参照。

言うまでもなく、比企谷小町の逆鱗はそこにある。vol.08, l.0019

月曜日。

葉山・海老名・戸部などに外見上の変化はない。

奉仕部は鬱屈し、上辺の会話を続ける。雪乃は八幡に憤る。結衣は言及しようとする雪乃を制し、八幡はその鬱屈を無視する。

雪乃も八幡も奉仕部の終焉を想定し始める。

俺は俺。いつも通り。なら、これまでと変わらずに過ごすべきだ。 / この前までとは違うルートで部室へと向かった。vol.08, l.0333

八幡は一旦帰ろうとして部室に戻る。いつもと違う行動を取っている。

選んだのは缶コーヒー。またしても選ばれたのは綾鷹ではない。 / 「……コーヒー苦ぇな」vol.08, l.0335

同じく八幡はいつもと違う行動を取っている。選ばれたのはマッ缶ではない。

雪ノ下の言うことはとても正しく、どこにも非を打つことができない。 / 「あんまり気にしすぎてもアレだ。俺たちも普通にしてやるのが一番なんじゃねぇの」vol.08, l.0396

理解することを諦める。vol.05, l.2260 と同類。八幡にとってこの理想像がまだ有効である事を示す。

俺ガイル7巻から9巻のテーマの一つは、奉仕部の終焉に備えての八幡の成長、八幡が「理解したい」という欲求を自覚すること、である。その初期状態、成長前の姿、を示す。八幡は雪乃や結衣の怒りの理由を理解しようとしない。

「あんまり気にしすぎてもアレだ。俺たちも普通にしてやるのが一番なんじゃねぇの」vol.08, l.0396 / 「あたしたちも普通に……、うん……」vol.07, l.0400 / 「それがあなたにとっての普通なのね」vol.08, l.0406 / 「変わらないと、そう言うのね」 / 諦めるような、終わってしまったような、そんな温度のない言葉だ。vol.08, l.0410

「普通」「変わらない」「諦める」がキーワード。 「わかるものだとばかり、思っていたのね」 参照。

コンコンという軽いノックの音がしたからだ。vol.08, l.0424

本来平塚はノックしない。めぐりやいろはの手前、だろう。

そこはかとなく、一色いろはは危険な香りがする。vol.08, l.0429

一色いろは登場。周囲の悪意で生徒会長選挙に立候補させられた。依頼、「いろはを生徒会長にさせない」。

八幡案、酷い応援演説。雪乃も結衣も八幡の自己犠牲的な手法を厭う。

雪乃は八幡と別行動すると宣言する。部活は自由参加となる。

「確実性がないからよ」 / 「つまり、その気になればいくらでも」vol.08, l.0704 / 「その演説ってさ、誰が、やるのかな……。そういうの、やだな」vol.08, l.0718

雪乃も結衣も同じく八幡の自己犠牲的な手法を厭う。雪乃は饒舌に本当の事を言わず、結衣は端的に核心を突く。

但し、嘘告白も酷い演説も、言わば八幡が自身を孤立させようとする行為、「ぼっちだから他に取れる手段がない」ことの表明を目的とした行為である。 理解されないことを嘆かず、理解することを諦める。vol.05, l.2260 の一環であろう。しかし八幡のこの種の選択は結衣や雪乃に対して「八幡に好意を持つな」と言っているに等しい。

それを平塚先生が優しい声音で窘める。 / 確かに失言といえば失言だろう。vol.08, l.0711

齟齬。平塚は八幡を思い遣る雪乃を理解している。八幡は雪乃の意図を理解しない。

まぁ、説明していない理由もなんとなくは察せられる。vol.08, l.0787

奉仕部は雪乃や八幡がアイデンティティや対人スキルを習得する場、手段であって

で良いと思われる。

「私と彼が同じやり方をとる必要はないということよ」 / 「お互い無理して合わせたって意味ないしな」vol.08, l.0821

齟齬。生徒会長編のトリック。雪乃は自身が勝利することでお願いとして八幡を生徒会に参加させようとしている。八幡は奉仕部の関係性について悲観している 。 「わかるものだとばかり、思っていたのね」 参照。

「君のやり方では、本当に助けたい誰かに出会ったとき、助けることができないよ」vol.08, l.0877

以下の何れかあるいは全てを意味しよう。八幡は既に孤立しておらず従来の八幡の手法は機能しない。嘘告白の時点から既に。

どこまでも、雪ノ下陽乃は底が知れない。vol.08, l.0879

八幡と陽乃は折本らと遭遇する。

陽乃は生徒会長戦があること、雪乃が生徒会長にはならないこと、を知る。

陽乃は葉山と折本とを引き合わせる。

「じゃあ雪乃ちゃんは生徒会長やらないんだ」 / 隣でも何か考えているような息遣いが聞こえた。vol.08, l.1064

雪乃に生徒会長をやらせる事を陽乃が思いついた表現。

陽乃は生徒会長をやらなかった。陽乃は雪乃に自身とは異なる道を歩ませようとしている。陽乃は雪乃が自身の様な道を歩む事を拒否している。

「だって面白そうだし」 / あからさまな悪意が透けて見えた。vol.08, l.1288

「面白そうだし」が第一義だとは考えられる。が、八幡と折本との仲の状態を確認する事、破壊する事、は雪乃の恋の支援にはなる。あるいは単に雪乃ではない初恋を持つ八幡への悪意。

「あの人は興味がないものにはちょっかい出したりしないよ。……何もしないんだ。好きなものをかまいすぎて殺すか、嫌いなものを徹底的につぶすことしかしない」 / 忠告か、それとも警告か。葉山の言葉には確かに棘が仕込まれている。vol.08, l.1327

嫉妬。陽乃は葉山に何もしない。

「雪乃ちゃんとか知ったらどんな顔するかなぁ……。」vol.08, l.1293

「雪乃が折本を知ったら」か「折本が雪乃を知ったら」かが不明。前者であれば対雪乃カードとしての折本の保持、後者であれば八幡と折本の関係性の破壊、を意図する。おそらくは前者。陽乃の企みは概ね成功しない。

いずれにせよこのエピソードは「陽乃は葉山を意識していない、葉山に価値を見出していない」ことの描写だろう。対象的に葉山は対象的に陽乃に呼ばれれば 部活帰りにそのままvol.08, l.1247 来る。

静かに、雪ノ下雪乃は決意する。vol.08, l.1366

火曜日。

雪乃案。いろはに対立する立候補者を立てる。

雪乃は、八幡案は修学旅行での海老名への嘘告白と同じく先送りであって、かつて八幡と雪乃が共有していた信念と反する、と咎める。

お前は怒ってないのかと、そう言いかけてやめた。 / 由比ヶ浜はいつもと同じように過ごすことで、以前と同様の在り方を求めている。それは、俺が取った行動と合致しているはずだ。vol.08, l.1404

結衣は八幡と雪乃と結衣とで仲の良い状態を望んだ。がしかし八幡は雪乃と対立した。結衣はこれに怒るかも知れない。

しかし、結衣はいつもと同じように過ごすことで、以前と同様の在り方を求めている。八幡が嘘告白をした理由は、以前と同様の在り方を求めたから。すなわち、結衣と八幡の行動は奉仕部を変えたくないという意図で合致している。

「誰か候補は見つかったのか?」 / 「それは、まだなんだけど……」vol.08, l.1478

以降、立候補者についての八幡の質問はすべて結衣が応答し雪乃は黙する。雪乃は嘘はつかないが本当のことを言わない事はある。

最後まで、葉山隼人には理解できない。vol.08, l.1626

修学旅行以降、葉山は、八幡の自己犠牲を償いたいと考えている。葉山は、八幡の名誉回復を目的に、陽乃に八幡を呼び出させ、八幡を腐す折本らに雪乃と結衣を引き合わせ、折本らを罵る。

陽乃は雪乃を挑発し生徒会長に立候補させようとする。雪乃は葉山と陽乃の密約の存在を察知あるいは誤解する。

あの一件で葉山が見せた憐れみvol.08, l.1676

「君はそういうやり方しか、知らないんだとわかっていたのに」vol.08, l.3076 のこと。

『ほら、文化祭の後、ちょっと会ったじゃない?』vol.08, l.1720

7巻、 彼女たちの、うぃー・うぃる・ろっく・ゆー♡vol.07, l.3202

「ただ一方的に願望を押し付けてたというか、勘違いしてただけで、それを本物とは呼ばない」vol.08, l.1736

この言葉で陽乃に「本物」という言葉が伝わった。以降、陽乃と八幡は共通して本物と言う言葉を用いる。

始まってもいなかったものを、今になってちゃんと終わらせることができた気がした。vol.08, l.1979

八幡が折本による傷が癒えている事を自覚した表現。

あそこに由比ヶ浜がいないのが少し気にかかる。vol.08, l.2045

結衣は葉山に呼ばれ待機している。 「今日ちょっと話せそうっていわれて、それで」vol.08, l.2317

あいつは結局仲間外れを作ることに気が引けているのだ。vol.08, l.1861

まちがっている。葉山の意図は八幡の名誉回復。

「結局、本当に人を好きになったことがないんだろうな」 / 「君も、俺も」 / 「だから勘違いしていたんだ」vol.08, l.2201

葉山が陽乃を好きになった理由の開示。

八幡はかつて折本かおりが好きだった。しかし 折本かおりは興味のない人間に対してもこういう接し方をするvol.08, l.1978 。八幡は、折本の、他人に対して距離を詰めていく態度を、自分への好意だと勘違いした。しかし折本のその態度は興味のない人間に対するものだった。

同様に、葉山はかつて陽乃が好きだった。しかし陽乃は 「あの人は興味がないものにはちょっかい出したりしないよ。……何もしないんだ。好きなものをかまいすぎて殺すか、嫌いなものを徹底的につぶすことしかしない」vol.08, l.1327 。葉山は、陽乃の、殺しもつぶしもしない態度を、自分への好意だと勘違いした。しかし陽乃のその態度は興味のない人間に対するものだった。例えば陽乃の葉山に対する言葉は 「いいえ、大好きよ」vol.13, l.3223

「ちょっとお腹減らない?」 / 「そこのカフェでいいかな?」vol.08, l.2218

葉山は折本らを誘導している。そのカフェに雪乃や結衣を呼び出しているし、その計画を陽乃に伝えている。

「そっか」 / 何かに納得したように折本は呟くと、また歩き出す。vol.08, l.2307

これ以降、折本は八幡の告白話をネタにしない。例えば 「仲良いっていうか、うーん……。まぁ、ちょっとねー」vol.09, l.2232 。この折本の納得は具体的には 「人がつまんないのって、結構見る側が悪いのかもね」vol.09, l.4935

但し、 折本かおりが俺の存在に気づいて手を振ってくる。ああ、こういう時手を振ったりするの、中学の時から変わんないな、こいつ……。vol.11, l.2498 の通り、この後も、八幡は折本にとって「興味のない人間」ではある。

今日のはそれと一線を画する。挑発と呼ぶには生温いほどの攻撃性がそこにはあった。vol.08, l.2353

謎解きは その攻撃はおそらく巣立ちの時にこそ激しくなるのだろうvol.14, l.6264 。すなわち、文化祭にて陽乃からの独立を宣言した雪乃に対する陽乃からの巣立ちの試験。

陽乃は生徒会長にはならなかった。雪乃が生徒会長に就くならば、それは雪乃の自立、陽乃への依存癖の快復、を意味する。陽乃はこれを促した。

「気になってたこともわかったし」vol.08, l.2381

「気になってたこと」とは、 隼人がそうまでして比企谷くんを連れていきたがる理由vol.08, l.1857

「できることをやろうと思っただけだよ」vol.08, l.2324 / 「俺がやりたいことをしただけなんだ」vol.08, l.2394

つまり、雪乃や結衣を折本らに引き合わせたことは葉山にとって「やりたいこと」。陽乃の命令や計画によるものではない。

「ずっと、考えていたんだ。俺が壊してしまったものを取り返す方法を」vol.08, l.2408

一義的には当然ながら奉仕部の人間関係。

しかし恐らくさらに陽乃から葉山への興味。すなわち八幡の名誉回復の場に陽乃をも同席させる理由。

葉山は小学生の頃に雪乃と同級生の諍いに介入し、自身と陽乃と雪乃との関係を壊した。その結果陽乃は葉山への興味を捨てた。葉山は陽乃からの興味を取り返したい。

葉山はその頃の三人の関係を奉仕部に擬え、恐らくはキャンプや文化祭などでも陽乃の指示に従い、雪乃の周囲の人間関係を守ろうとしていた。しかし葉山は修学旅行で海老名・戸部の問題の解決を八幡に頼り、結果として雪乃の周囲の人間関係を壊した。その代償に葉山は奉仕部の関係性を修復したいと考えている。

そしてその雪乃の人間関係を修復する行為、今の葉山が中途半端ではなく積極的に雪乃の敵を傷つけられる事、を陽乃に示し、それで陽乃の興味を引けないか、許されないだろうか、と考えている、と思われる。

「だからわかっていたのに頼ってしまった。そのせいで……」vol.08, l.2410

八幡は、自棄的な やり方しか知らないんだとわかっていたのにvol.07, l.3073「君にだけは、頼りたくなかった」vol.07, l.2971 のに、葉山は八幡に戸部と海老名の人間関係の維持を任せてしまった。そのせいで、雪乃と八幡はすれ違ってしまった。

「俺が出来るのはこれくらいしかなかった」vol.08, l.2418

葉山は折本らを用いて八幡の名誉回復を試みた。葉山の意図は下記の3つであろう。

「君が……、君が誰かを助けるのは、誰かに助けられたいと願っているからじゃないのか」 / そんな紛い物みたいな感情で、俺も、彼女も今までやってきたわけじゃない。vol.08, l.2440

「彼女も」が唐突に登場する。であるから、八幡のこの独白がまちがっていて、雪乃は、誰かに助けられたいと願って、誰かを助けている、と仮定する。ならば、それは物語全体を通した雪乃のテーマとなり得る。 「「だから、これで終わりにしましょう」 参照。

おそらくは、誰かとたった一つ共有していて。 / 今はもう失くしてしまった信念を。vol.08, l.2466

この信念とは 「そんなうわべだけのものに意味なんてないと言ったのはあなただったはずよ」vol.08, l.1580

そして、由比ヶ浜結衣は宣言する。vol.08, l.2468

月曜日。

折本と行動する葉山を見た三浦は動揺している。が、それでも彼らは上辺の人間関係を維持すべく自らに嘘を吐き続ける。

雪乃は生徒会長に立候補する。結衣も奉仕部を壊したくないという理由で立候補する。

「さて、もう一度聞こう。比企谷、君はどうする?」vol.08, l.2587

平塚は、教師陣に雪乃の生徒会長戦立候補を隠して時間を稼ぎ、八幡と雪乃の対話を促している。

「彼女は、自由参加になっても毎日鍵を取りに来ていたよ」vol.08, l.2599

雪乃の奉仕部を維持する意図を示す。

「まだ、何か?」 / 「いや、確認がしたかっただけだ」 / 「……そう」 / 雪ノ下は返事ともため息とも吐かない声を漏らすとvol.08, l.2684

雪乃は何かを尋ねて欲しくて、あるいは自分から話したくて、しかしそれを表現できない。この現象は9巻で頻出する。例えば 「あなたの個人的な行動まで私がどうこうできるわけではないし、そんな資格もないもの。」 / 「私の許可が必要?」 / 「いいや、ただの確認だ」vol.09, l.2517

理由は不明。修学旅行以前ではこの現象は見つからない。 陽乃の介入によるものとすれば「あなたは、何もやらなくていいんだもの。いつも誰かがやってくれるんだもんね?」vol.08, l.2336 の影響か。

「そっか……、ゆきのんは、そうするんだ……」vol.08, l.2683 / 「今度はね、あたしたちが頑張るの。」vol.08, l.2772

結衣がまちがっている。結衣は雪乃の「八幡の自己犠牲を防ぐ為に立候補する」という意図を把握している。しかし「奉仕部のメンバーを生徒会に移行させる」意図を把握していない。よって、生徒会よりも部活の方が好きだという理由で、雪乃と同じく生徒会長に立候補する。

本文中で結衣によるまちがった行動は、これと、最後の 「こんなの、まちがってるってわかってるけど。」vol.14, l.6168 のみ、だろう。

「あたし、この部活、好きなの」 / 「……好き、なの」 / 「だから、ゆきのんに勝つよ」vol.08, l.2792

「この部活、好きなの」「(八幡が、雪乃が)好きなの」「だから、(生徒会長選のみならず恋愛でも)ゆきのんに勝つよ」。

結衣の視点では、雪乃は八幡を守ろうとして、奉仕部を守ろうとしていない。だから結衣は八幡と奉仕部とを守ろうとしている、ということ。

しかし恐らく結衣の立候補自体は正しい。雪乃が生徒会長になるのであればこの立候補を理由に結衣は副会長や書紀などの役職に就く事ができる。少なくとも 「立候補がいなかった書記以外はもう発表されてるの」vol.08, l.0487 として書記は空いている。

雪ノ下も由比ヶ浜も、納得した上での選択なら、それで構わない。俺個人の感傷は人の選択を左右していいものではないのだ。 / 誰かに役を押し付けてしまうのは、苦しい。vol.08, l.2836

まちがっている。八幡がまだ相互理解を放棄している、 理解されないことを嘆かず、理解することを諦める。vol.05, l.2260 に従っている表現。感傷の処理についての正答はそれを伝えること。例えば 「だからさ、それ、絶対伝えたほうがいいと思う」vol.14, l.4307

言うまでもなく、比企谷小町の優しさはそこにある。vol.08, l.2843

火曜日。

小町は、解く問題と動く理由を持てない八幡に、「奉仕部がなくなると困る」という問題と「雪乃と結衣と小町のために」という理由とを与える。

八幡は小町、川崎大志、川崎沙希、等の知見を集約する。いろはと交渉し生徒会長にする。架空の立候補者を乱立させ、SNS上に架空の応援アカウントを作り、推薦人を集める。すると彼らは簡単には他人の推薦人にならない。これを八幡と材木座で実行する。

「どうせきっとなんかやったお兄ちゃんが悪いし」 / 「だいたい謝ってないし」vol.08, l.2935

小町は理想解の提示役。嘘告白以降の奉仕部の軋轢の解消の理想解。単に謝ればよい。

「小町のために、小町の友達のために、なんとかなんないかな」vol.08, l.3002

八幡は雪乃と結衣の立候補に際して、解決すべき問題を設定できていない。小町はその問題を設定してみせた。これを受けて八幡は 最優先すべきものを小町の願いである雪ノ下と由比ヶ浜の残留vol.08, l.3401 に設定する。

なお八幡は後にこれがまちがっていたと自省する。 俺が見つけ出した、俺の答え、俺の理由で動かなければならなかったのにvol.09, l.2898 。八幡は「残留」を最優先に置いたために、雪乃と結衣との人間関係それ自体の維持ないし回復に重点を置かず、結果として雪乃の意図を汲み損ねる。

だから、彼女の行動を犠牲とは絶対に呼ばない、呼ばせてはならない。vol.08, l.3028

葉山の「もうやめないか、自分を犠牲にするのは」vol.08, l.2420 に対する反発。自己犠牲だなんて呼ばせないvol.08, l.2461 を引く。

なお恐らくは八幡はかつての自身の行動が 自己犠牲 であってそれが 陳腐なナルシシズム であることを察している。

「二虎競食の計か!」 / 「では、空城の計!」 / 「かくなる上は背水の陣……」vol.08, l.3301-

材木座は斜め下の解法の提案役。偽垢と競わせる。アカウントには中の人がいる様に振る舞う。失敗したとしても責められるのは架空の人物。

「お兄ちゃん、ちゃんと雪乃さんと結衣さんと話してね? 約束だよ?」 / 「準備してからだ」vol.08, l.3650

小町は理想解の提示役。雪乃と結衣と話せば雪乃の生徒会長立候補の意図を引き出すことができた。

満を持して、比企谷八幡はかたりかける。vol.08, l.3656

金曜日。

八幡は一色いろはを生徒会長になるべく説得する。いろはの同意により依頼が失効し、雪乃も結衣も立候補を取りやめる。

八幡、雪乃の真意を見過ごしていた可能性に気付く。

「ちょっと悪目立ちしたら、そいつには何言ってもいいと思ってる。」 / 「やっぱ、やられたらやりかえさないとな……」vol.08, l.3839

前者は 一度下に見たら、何を言ってもいい。vol.08, l.2262 として八幡の「サイゼ」を笑った仲町のこと。後者は葉山のこと。

他人が俺をどう見るか、いかに勝手な意見を押し付けてくるかを葉山が教えてくれた。 / それだけではないのかもしれないと気づかせてくれた人もいるけれど。vol.08, l.3956

結衣。結衣の立候補を見て、八幡は 誰かに役を押し付けてしまうのは、苦しい。vol.08, l.2836 と気付いた。

雪ノ下はそれ以上、追求をしてこない。 / おそらくはその無駄を悟ったのだろう。vol.08, l.4004

まちがっている。雪乃にとっての問題は八幡が雪乃の意思を理解していない事。八幡が雪乃の立候補を止めようとしている時点で、雪乃がその真偽を追求する意味はない。

「わかるものだとばかり、思っていたのね……」vol.08, l.4069

読者への挑戦状。 「わかるものだとばかり、思っていたのね」 参照。

なら、他にもそういう奴がいたっておかしくない。vol.08, l.4092

雪乃。雪乃と八幡は理由がなければ動かない。夏合宿の時点で既に 「由比ヶ浜が説得しなければ君たちはそもそも動く理由を見つけられなかった」vol.04, l.3202

何をしていいのかも知らなかったくらいだ。それを気付かせてくれた人がいた。だから、やはりその人にこそ、優しい言葉はふさわしい。vol.04, l.4130

結衣の 「できることも、やれることもなーんもないんだなって」vol.08, l.2757 という台詞のこと。

しかし、結衣にこそ 優しい言葉はふさわしい とする、その言葉が、 「もう髪の毛いいだろ」 である。決して優しくはない。

その部屋には、紅茶の香りはもうしない。vol.08, l.4173

めぐりは奉仕部がそのまま生徒会になれた可能性を示唆する。

奉仕部は馴れ合いに堕ち、八幡は策に溺れた、と自省する。

例えばもし、ゲームのように一つだけ前のセーブデータに戻って選択肢を選び直せたとしたら、人生は変わるだろうか。 答えは否である。vol.08, l.4347

まちがっている。八幡は違う選択肢を取り得た。小町の言う通りに八幡が雪乃と結衣と話していたなら。あるいは一色いろはが生徒会長になりたくない理由ではなく、雪ノ下雪乃が生徒会長になりたい理由を知ろうとしていたなら。

俺がすべきことは策を弄する事ではなく、他にあったのではないかと。 / それでも答えが出せないのは、きっと俺自身に原因があるのだろう。vol.08, l.4337

「俺がすべきこと」は、雪乃と話すこと、雪乃を理解しようとすること。その答えが出せない原因は、八幡が、 理解されないことを嘆かず、理解することを諦める。vol.05, l.2260 を理想としているから。