「あなたのやり方、嫌いだわ」
「あなたのやり方、嫌いだわ」vol.07, l.3088
雪乃も結衣も、八幡のやり方を不可解な程に嫌う。
なぜならば、八幡は、雪乃や結衣に、
を説明していないから。
八幡は、自身が嘘告白という手段を取ることも、その意図も、雪乃や結衣に知らせていない。彼女らの感情を考えようともしていない。これらは八幡の理想像である 理解されないことを嘆かず、理解することを諦める。
vol.05, l.2260 に従った行動である。嘘告白の顛末は、この理想がまちがっている事を証明するエピソードである。
「今までどおり、仲良くやりたいもん」vol.07, l.1087
そもそも海老名の依頼は抽象的に過ぎて理解不可能である。八幡も雪乃も結衣も海老名の依頼を理解できていない。
であるから、雪乃や結衣は「戸部の告白を防いで欲しい」という海老名や葉山の依頼を把握していない。「戸部に告白されたら海老名は人間関係を捨てる」という三浦の懸念も伝わっていない。
既に、俺のやるべきことは決めた。vol.07, l.2966
そもそも、八幡が戸部の告白を阻止することを決めたのは、戸部の告白のたかだか数時間前である。
「どんな方法?」/正直なところ、あまり言いたくなかった。vol.07, l.3017
八幡は嘘告白という手段を取ることを雪乃や結衣に話さない。
よって、結衣や雪乃(や戸塚)の視点では、八幡は突然海老名に告白し、そして振られている。
「あの作戦はダメだったねー」vol.07, l.3102
結衣は何かを失敗扱いする。海老名の依頼は概ね達成されているにも関わらず。
「姫菜もタイミング逃しちゃってたけどさ」vol.07, l.3102
海老名は すぐに正しい答えを出してきた
vol.07, l.3055 。矛盾している。
結衣は、 「このままだと戸部は振られる」
/ 「そう、だね……」
vol.07, l.3014 に従い、海老名が戸部の告白を拒否する事を知っている。であるから、結衣は、海老名が戸部の告白を直接断ることが正答だと考えている。 ここで、正答とは、 「誰かを大切に思うということは、その人を傷つける覚悟をすることだよ」
vol.09, l.2789 に従って、海老名は戸部を傷つける覚悟をしておくこと、だとする。
今回の、俺の、依頼人、海老名姫菜が立っていた。vol.07, l.3152
海老名の依頼は八幡への依頼であって、奉仕部への依頼ではない。
「なんか普通に挨拶だなって」/先程の自分の対応を顧みる。どこかいつもと違っただろうか。vol.08, l.0306
戸塚から見た八幡は、修学旅行の最後に海老名に突然告白し振られ、その後初めての登校、である。八幡はそれに気づいていない。
雪乃は八幡と葉山の会話を聞いているかも知れない。なぜならば後に雪乃は八幡と葉山の会話を引用する。
「それで壊れる関係ならもともとその程度のもんなんじゃねぇの」vol.07, l.2901
「それで壊れてしまうのなら、それまでのものでしかない……」vol.09, l.2559
「そんな上っ面の関係で楽しくやろうっていうお前らのほうがおかしい」vol.07, l.2916
「そんなうわべだけのものに意味なんてないと言ったのはあなただったはずよ」vol.08, l.1580
雪乃が八幡と葉山の会話を聞いているのであれば、雪乃は少なくとも「葉山の願いが戸部の告白の阻止であること」は把握していることになる。この場合、雪乃が八幡のやり方を嫌う理由は「八幡がそれに感化されたこと」のみとなる。
できているつもりで、その実本当は何もできていないのにvol.09, l.2017
「できているつもりで……わかっているつもりでいただけだもの」vol.09, l.2545
「聞いていないはずの言葉の反復」は八幡と雪乃の間では他にもいくつか存在する。特に上記は八幡のモノローグであって雪乃は知り得ないから、偶然の一致、小説的な演出、でしかない。同様に、先の雪乃が八幡の会話を引用した件も、偶然の一致である可能性がある。
また、雪乃が反復する八幡の台詞は重要かつ印象的なシーンで登場する。であるから、聞いていないはずの言葉の反復は、八幡と雪乃の思考が似ている事を示すか、あるいは単に皮肉の表現、小説的な演出、であると考える。
なお、雪乃や結衣が八幡の嘘告白を厭う理由自体は本文中に多数明示されている。雪乃が 「うまく説明できな」
vol.07, l.3091 いと言う通り、これらの理由は全て正しく、その同定は不可能かつ無意味なのだろう。単純に嘘告白という手法は多くの面でまちがっている。
「ゆきのん、言わなかったじゃん」vol.09, l.3023 と指摘する、という解釈があり得る。
「誰かを助けることは、君自身が傷ついていい理由にはならないよ」/
「君が傷つくのを見て、痛ましく思う人間もいることにそろそろ気づくべきだ」vol.06, l.3883
「そのやり方を認めるわけにはいかないわ」vol.08, l.0699
「お互いを知っていたとしても、理解できるかはまた別の問題だもの」vol.08, l.0392
「変わらないと、そう言うのね」vol.08, l.0408
「馴れ合いなんて、私もあなたも一番嫌うものだったのにね……」vol.08, l.0839
うわべだけのものに意味を見出さない。それは俺と彼女が共有していたであろう一つの信念。vol.09, l.2575