07巻 修学旅行

07巻 修学旅行

10月。 結衣が八幡に言い寄り始める。八幡は、海老名に嘘告白し、「付き合う気はない」という言葉を引き出し、結衣へのあてつけとする。

本巻で多くのキャラクターや人間関係が再設定される。 雪ノ下は以前より柔らかくなった。vol.07, l.0988 , こいつはときどき妙に女の子らしい計算高さを見せるvol.07, l.1780 , 三浦、お前はおかんみたくいろんな子の面倒見てる時のほうが可愛いこと多いぞ。vol.07, l.2219 など。いずれも八幡の成長あるいは時間経過に伴って八幡の持つ人物像が深化した表現だろう。

7巻から9巻、嘘告白、生徒会長選挙、クリスマスイベントは、八幡がかつて雪乃に押し付けた 理解されないことを嘆かず、理解することを諦める。vol.05, l.2260 という八幡の理想がまちがっている事を示すエピソードである。 「あなたのやり方、嫌いだわ」 参照。

本巻では八幡の事情や感情は葉山や海老名が代弁する。奉仕部を壊したくないという感情は葉山が、結衣にアプローチされるという立場は海老名が語る。

であるから、嘘告白は、「こっちから行くの」vol.06, l.2884 以降スキンシップを続ける結衣に対して、それ以上の好意の表明を封じる意図を持つ。 「人の気持ち、もっと考えてよ……」 参照。

これでも比企谷八幡の学校生活は平穏に過ぎている。vol.07, l.0021

京都への修学旅行が近い。

戸部は海老名への告白を決意する。海老名はそれを防ぐべく葉山に相談する。

「ぼく、まだ決まってないんだけど」 / 「なら、一緒の班にするか」vol.07, l.0174

「ぼくは、もう決めてる、よ」vol.02, l.0719 / 「お前決めてるっつったじゃん」vol.02, l.1361 との対比。戸塚が八幡に合わせている。

絶対にこちらには近づいてこないし、視線が合っただけで露骨に顔を背けるのだ。 / そうそう、それでいい。vol.07, l.0155

誤解。 「サンキュー! 愛してるぜ川崎!」vol.06, l.3554 の影響。

葉山と海老名さんが教室に戻ってくるところだった。vol.07, l.0196

ここで葉山は海老名と話をしている。つまり葉山は初めから海老名が戸部の告白を拒否する事を知っている。 おそらく、俺たち奉仕部だけでなく、葉山にも相談していたことなのだろうvol.07, l.3164

なお、海老名が戸部を拒否する理由は 「面倒だよね、そういうの」 / 「愛とか恋とか性とか」vol.13, l.3470

何故、彼らが奉仕部に来たのか誰も知らない。vol.07, l.0223

戸部の依頼。修学旅行での海老名への告白のサポート。

葉山は既に戸部の告白の失敗を見込み、その後の処理は自分の担当だとする。

葉山が奉仕部を訪れた意図は、八幡に戸部の告白を止めさせること。少なくとも部外者として巻き込んで道具として用いること、あるいは八幡に自身らの関係を混乱させること。恐らく葉山は海老名も奉仕部に紹介した。

実際のところ戸部は奉仕部あるいは他人の助けを必要としていない。竹林で告白することも自分で決めていた。葉山が紹介するから奉仕部を訪れたのみである。

自分で注いだくせにどこか納得いかないふうな冷めた表情でvol.07, l.0241

伏線。 「一人だけ紙コップというのも不経済でしょ」vol.09, l.5276

「紅茶、……冷めるわよ」 / 「……猫舌なんだよ」 / こうわざわざ用意されてそれを受け取れないほど天の邪鬼でもない。vol.07, l.0246

ありがとうと言えない程度には天の邪鬼。

「例えば、自分が仲良い奴に告白するとその後の関係が」 / 「まぁまぁ、もうわかったからさ」vol.07, l.0592

葉山は八幡の発言を打ち切る。葉山(と海老名)は戸部が告白し海老名が断ったその後の関係を懸念しているから。

どうにもこうにも戸部翔は薄っぺらい。vol.07, l.0648

結衣によれば、海老名は戸部に好意を持たず、戸部の告白を断る。

結衣案。戸部と海老名を修学旅行で同行させるべく、葉山・戸部・八幡・戸塚で4人組を組む。

海老名は三浦・結衣・海老名の組に川崎を誘う。戸部は川崎を苦手とするという理由で。

「隼人くんの言うとおり、ガチでマジ口悪いわー。」vol.07, l.0806

「口が悪いところあるからな。」vol.06, l.3775

四人でグループを作るからもうひとり、そこに誰か入ることになる。だが、その影響はさして考えなくていいだろう。vol.07, l.0875

まちがっている。川崎が入り、戸部は海老名に近づきにくくなる。

とどのつまり、海老名姫菜は腐っている?vol.07, l.0946

海老名、奉仕部に意味不明な依頼をする。

「今までどおり、仲良くやりたいもん」vol.07, l.1086

海老名の真意。 自分から男子を遠ざけさせてほしい、ひいては戸部の告白を未然に防いでほしい。vol.07, l.3163

「なんかやたらと縁結びの神社とかたくさんあるらしいしさ、結んできたらいいよ!」vol.07, l.1172

小町は小町は理想解の提示役。「やたらと」。すなわち海老名姫菜と戸部の縁を結ぶ事が正答。

ご覧の通り、由比ヶ浜結衣は頑張っている。vol.07, l.1178

11/12、修学旅行初日。

海老名は戸部との距離を保つ。葉山は戸部の海老名へのアプローチをそれとなく妨害する。

「それなら何人かに別れて」 / 「頼めるかな?」vol.07, l.1637

葉山は戸部と海老名が二人で自撮りする機会を潰した。あるいは葉山は奉仕部を訪れた時点で八幡を部外者として同行させて活用する計画を立てていたかも知れない。

その表情が一枚目から寸分違わぬというのがどこか空恐ろしかった。vol.07, l.1670

海老名の表情や腐女子的な振る舞いが演技である、ということ。 本当に変人なわけではなく、「変人」として扱われているだけにすぎないvol.07, l.2586

「でも、最後まで気は抜けないし」 / 「え?それどういう…」vol.07, l.1710

海老名は戸部の告白を受けまいという事を結衣が察する機会。

但し結衣は最後まで戸部の告白を応援する。恐らくは結衣にとって告白やその拒否で発生する種の軋轢は些細なことに過ぎないということ。あるいはさらに「戸部が告白して海老名が拒否して、それでも戸部が諦めない」という状態が正答であるということ。

「悪いおみくじ結ぶんなら上のほうがいいんじゃないか。」vol.07, l.1710

海老名が八幡の立ち位置が戸部寄りである事を察する機会。これを受けて海老名は八幡に釘を刺す。

ひっそりと雪ノ下雪乃は夜の街を行く。vol.07, l.1788

戸部を後押しする大岡・大和に対し、葉山は戸部の行動の妨害を続ける。

雪乃はクラスメイトに文化祭の件で揶揄される。

「あまり時間もないし、そんなに間隔はあけないほうがいいだろうな」vol.07, l.1499

葉山による妨害。戸部・海老名に暗がりで二人きりで行動させない。

言う前に話しかけてタイミング奪うとか、卑怯すぎる……。vol.07, l.1871

八幡が突発告白する手段の伏線。 ついこないだ材木座にやられた手口vol.07, l.3045

「女子の部屋行ってお菓子もらってくるー!」 / 「上に上る階段、厚木がいるってさ」vol.07, l.1877

葉山は戸部に女子の部屋に行かせない。 恐らく「厚木がいる」は嘘。 厚木が張っているらしいが、わざわざ確かめに行くようなものでもないvol.07, l.1904

クラスメイトたちの話題の矛先がこちらに向かってきてね。 / そもそもあなたが文化祭のときに……vol.07, l.1951

「私の人選ミスかしら」 / 「それは俺の存在感のなさを揶揄しているのか」 / 「みんなに聞こえてます……」vol.06, l.2649- 。八幡は悪くない。

俺もそれに合わせてちょっと間を空けた。vol.07, l.1971

八幡から雪乃への距離感。

「後部座席では真ん中が一番死亡率が高いからだ」vol.07, l.2030

「助手席が一番死亡率が高いってだけなんだから!」vol.04, l.0605 の反復。平塚が八幡の隣に座りたかったということだろうか。今回は八幡を先に乗せなければ八幡は助手席に座る。

「問題を起こすなという命令と、問題を解決するよう促すことはまるで違うよ」vol.07, l.2097

平塚のキャラクター設定。平塚は、問題が起きる事は許容して、その上で問題を解決するよう促している。

「雪ノ下、叱られることは悪いことではないよ。誰かが君を見てくれている証だ」 / 平塚先生の言葉に、雪ノ下が僅かに肩を落とした。vol.07, l.2107

雪ノ下家の事情。雪乃の両親が雪乃には自由にさせて叱らないということ。 「あなたを信じているから、自由にさせていたけれど」vol.11, l.2804

「ちゃんと見ているから、いくらでもまちがえたまえ」vol.07, l.2110

8巻以降、雪乃が行動する、まちがえる示唆。 「もう一度問い直すしかないわね」vol.06, l.2375 を受けて雪乃が行動する意思を持ったこと、を平塚が把握しているかもしれない。

思いのほか、三浦優美子はちゃんと見ている。vol.07, l.2164

八幡は葉山の妨害に気付く。

三浦曰く、海老名の腐女子キャラは異性を遠ざける手段であって、海老名は人間関係ごと捨てかねない。

心臓ばくばくいってて辛い。これあれなんじゃないの、不整脈。vol.07, l.2286

結衣と手をつないでいたから。 ぐいと肩口を引っ張られたvol.07, l.2279

「戸部、行こう」 / ふぅん、なるほどな。vol.07, l.2371

八幡が葉山による妨害に気付いた表現。八幡は戸部・海老名・八幡・結衣の4人でタクシーに乗る事を考えていて、しかし葉山がここで戸部を誘った為に、戸部・海老名・葉山・三浦となり、戸部は海老名に言い寄る機会を失った。但しこの時点ではまだ 何故そんな行動をとるのかまではわからないvol.07, l.2436

「葉山がどうにかするっつってたからな」vol.07, l.2608

「わかってるから、その辺はうまくやるよ」vol.07, l.0595 。八幡が下記を理解しているということ。

それでも、葉山隼人には選べない。vol.07, l.2611

修学旅行三日目、自由行動。

海老名は八幡に戸部の告白を未然に防いで欲しい旨を再度確認する。

葉山は戸部の告白により壊れる自身の人間関係と、結衣の告白により壊れる八幡の人間関係との相似を指摘する。八幡は葉山のその「人間関係を変えたくない」意図を理解し、戸部の告白阻止を決意する。

扉の前に由比ヶ浜がいることにさして疑問を抱かなかった。vol.07, l.2626

八幡が寝ている間結衣は待っていた。

街並みの中にコーヒーショップの白い建物が見えた。vol.07, l.2650

三条堺町のイノダコーヒ本店。有名。雪乃が 行きたかった喫茶店vol.12, l.0281 らしい。

海老名さんに警戒心を抱かせないことが重要なのである。vol.07, l.2745

戸部の告白を成功させる為ではなく、海老名に予想外の行動を取らせない為に。 「『あ、じゃあもういいや』って。笑いながらそう言ったの。超他人みたいな感じで」vol.07, l.2592 を起こさない為に。

由比ヶ浜は牛しぐれまんを半分に割るとそれを渡してくる。 / むぐむぐしていると、由比ヶ浜がぷっと吹き出す。vol.07, l.2836

「別にそんな気にしなくていいのに……」vol.07, l.1785 と全く同じ状況の繰り返しであって、八幡の 「いらねっつーの」vol.07, l.2826 の理由が、結衣との間接キスを気にしたから、という事を結衣が理解した表現。

「そーなると、戸部が勝負すんならここか」vol.07, l.2862

戸部は自分で告白する場所を決めている。奉仕部が告白のお膳立てをした訳ではない。

たぶん他の誰かの願いでもあるのだ。 / きっと俺と同じような奴がいるのだ。 / 噓吐きで装って守ろうとしている女の子が。vol.07, l.2958

単純には海老名。

葉山隼人は選べない。あまりに多くのものを持っていて、どれもこれも大切だから。 / 比企谷八幡は選べない。そもそもの選択肢がなくて、一つの行動しかとれないから。vol.07, l.2966

対比。葉山が選べない理由は戸部と海老名の利害が対立しているから。八幡が選べない理由は雪乃が既に諦めていて、奉仕部が三人でいる為には結衣を諦めさせるしかないから。

──彼と彼女の告白は誰にも届かない。vol.07, l.2978

八幡は戸部に先んじて海老名に告白し、海老名の「誰とも付き合う気はない」という言葉を引出す。

結果として戸部は振られず、海老名も異性を押し付けられることはなく、葉山らグループの人間関係は維持される。しかし雪乃も結衣も八幡のやり方を厭う。

「今は誰とも付き合う気がないの。誰に告白されても絶対に付き合う気はないよ。」vol.07, l.3055

海老名は戸部とも付き合う気がない。戸部に告白されても絶対に。

「あなたのやり方、嫌いだわ」vol.07, l.3088

雪乃も結衣も八幡のやり方を不可解な程に嫌う。 雪乃や結衣は、海老名の依頼を知らないから。 「あなたのやり方、嫌いだわ」 参照。

言い換えれば八幡の「ずっと前から好きでした」に対して雪乃は「あなたのやり方以外は好き」だと言っている。

「人の気持ち、もっと考えてよ……」vol.07, l.3128

これ以降結衣は八幡へのスキンシップを控える。

「あたしたちも、戻ろっか」 / 無理して明るく振る舞う時の声だ。わかりやすくて助かる。vol.07, l.3100

結衣の感情は解る。つまり雪乃の怒りの理由は不明。

「一瞬本気かと思っちゃったもん」 / 「んなわけないだろ」vol.07, l.3104

結衣は八幡の嘘告白の意図を言葉で確認する。八幡の海老名への告白が嘘であることは後に雪乃とも共有されるだろう。少なくとも奉仕部部室の 中からは話し声が漏れてきた。vol.08, l.0341

「私、腐ってるから」vol.07, l.3173

性根が。

「誰も理解できないし、理解されたくもない。」vol.07, l.3175

海老名は理解されたくないから、戸部の告白を受け入れないどころか、三浦や結衣には相談しない。

葉山や八幡に相談した理由は 「お互い全然興味ないから話せることってあるじゃん?」vol.13, l.3475 。つまり海老名は葉山にも八幡にも興味がない。

「あんまり適当なこと言われるとうっかり惚れそうになる」 / 傍で聞いてたら吹き出してしまうようなひどい冗談だ。vol.07, l.3182

「ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」vol.07, l.3051 がまさに適当なこと。

「そうやって、どうでもいいと思ってる人間には素直になるとこは嫌いじゃないよ」vol.07, l.3184

八幡は結衣や雪乃に対しては素直ではない。これを海老名が知っているということ。

「こういうの久しぶりだったから、なくすのは惜しいなって。」vol.07, l.3187

海老名のキャラクター設定。海老名にとって三浦や結衣の人間関係は「なくすのは惜しい」程度である。八幡が推測するに 失くしてしまうくらいなら、自分で壊してしまうvol.07, l.2597

一方で例えば葉山であれば同じ人間関係を 「今あるこの環境がすべて」vol.07, l.2919 と評するし、三浦はその同じ人間関係を壊されたくはない為に八幡を制する。

「今の自分とか、自分の周りとかも好きなんだよ。」 / 「だから、私は自分が嫌い」vol.07, l.3191

「今の自分」は好きで、普段の、あるいは本来の自分は嫌い、ということ。

彼女たちの、うぃー・うぃる・ろっく・ゆー♡vol.07, l.3202

文化祭後の打ち上げ。