「相手も言い訳できないじゃない」
「それじゃあ相手も言い訳できないじゃない」vol.06, l.2483
文化祭編の前半で、雪乃の行動の理由の多くは不明である。本稿はこれらの不明点と関連する記述とを整理する。
奉仕部の中止、文化祭実行委員会の参加、相模の依頼の受諾、文化祭実行委員会の運営、など、6巻の雪乃は能動的に行動する。にも関わらず、その行動理由は明示的には語られない。雪乃の感情や表情の描写もなされない。恐らくは雪乃が行動した理由は八幡には解らない、として書かれている。八幡が雪乃を 知りたいとは思わない
vol.05, l.2379 ことの描写だろう。
本稿はこの不明点についてその解を推定する。
「あたしもクラスのほうの話し合いに出ないといけないんだよね」/「俺も文実があるから」/「私も今日その話をしようと思っていたから。」vol.06, l.0827
奉仕部の活動中止の理由は「八幡、雪乃、結衣が文化祭に参加するから」である。その理由が名目上であることは結衣が 少し考えていた
vol.06, l.0830 事が示す。メタな視点ではあるが結衣は概ね正しく、結衣が考えるという事は、つまり奉仕部の活動中止はある種の選択肢の一つである、ということ。
実質的な理由は不明。閉塞している奉仕部の状況をリセットするべく時間経過に任せる、ではあろう、という推測は立つ。あるいは結衣や八幡から距離を置くべく何らかの自制が働いている可能性もある。少なくともこの時点の雪乃は八幡や結衣に対して自身が交通事故の当事者であったことを黙っていたという負い目、隔意を持つ。
少なくとも奉仕部中止の理由は副委員長職やその多忙ではない。雪乃が部活の中止を申し出るのは相模の依頼を受ける前である。
「あなたらしい理由ね」/「お前はらしくないけどな」/雪ノ下は俺の言葉を完全に黙殺しvol.06, l.0818
雪乃は文化祭実行委員になった理由に言及され、しかし答えない。
ここでは、平塚が、八幡との居場所を作るべく、雪乃に参加を指示していた、とする。陽乃曰く、 「静ちゃんの差し金か」
vol.06, l.1473 。
少なくとも八幡が文化祭実行委員会に属したのは偶然の要素はあれ平塚によるもの。 「だから、比企谷にしておいた」
vol.06, l.0387 。かつ、これ以前に平塚と雪乃は何かを話していると思われる。 平塚先生は雪ノ下を気遣わしげに見たが、それ以上は何も言わずに去っていく。
vol.06, l.0255 / 「……私は鍵を返しに行くから」
vol.06, l.0257 の前者が雪乃に対する合図で、鍵を返す場で雪乃と平塚は話す機会がある。
「あたしもじゃんけんで負けちゃったからさー」vol.06, l.0513
但し解の同定は不可能。「偶然」という解が用意されている。
「当然、委員長やるんだろ?」/「実行委員として善処します」vol.06, l.0586
少なくとも雪乃は文化祭実行委員についてやる気はない。かつ 積極性の墓場みたいな
vol.06, l.0684 記録雑務に属する。
「実行委員長やることになったけどさ、こう自信がないっていうか……。だから、助けてほしいんだ」vol.06, l.0862
雪乃は相模を助ける。八幡や結衣は雪乃の行動を不条理に思う。
ここでは、雪乃は明示的に助けを求められれば助けるから、とする。 「彼女が助けを求めるなら、あらゆる手段を持って解決に努めます」
vol.04, l.1680 。
「アレに出るくらいなら仕事をしていたほうがマシよ」/そういやJ組はファッションショーとか言ってたか。vol.06, l.3210
同じく解の同定は不可能。奉仕部の中断を決定した直後であって、かつクラスにも居たくないから、という解が用意されている。
僅かな驚きのこもった視線で雪ノ下を見る。/この手の依頼ははね除けるものだとばかり思っていた。vol.06, l.0912
雪乃が相模の依頼を受諾する事は不自然である、と明示されている。
「あなたの補佐をすればいいということになるのかしら」/雪ノ下の表情は相変わらず冷めきっている。vol.06, l.0907
しかし相模を助ける事に対する雪乃の描写はほぼない。
「部活、中止するんじゃなかったの?」/一瞬だけ顔を上げたが、それもすぐに逸らしてしまう。vol.06, l.0919
相模の依頼を単独で受けることに対して、雪乃は後ろめたくはある。
会議室の隅っこのほうでしょげ返っている相模南がいる。/なぜか平塚先生とめぐり先輩もいた。vol.06, l.0699
相模が奉仕部に助けを求めた理由は平塚の指示によるもの。 かつ 「奉仕部って雪ノ下さんたちの部活なんだぁ」
vol.06, l.0852 に従えば相模は奉仕部に雪乃が所属する事を知らない。
雪乃は明示的に助けを求めた人物を助ける。よって平塚は相模に奉仕部を紹介すれば雪乃が相模を助ける事を知っている。少なくとも平塚は「明示的に助けを求められない限り雪乃は助けられない」事は知っている。 「彼女が助けを求めるなら、あらゆる手段を持って解決に努めます」
vol.04, l.1680 、 「助けは求められているのかね?」
/ 「……それは、わかりません」
vol.04, l.1688 。
雪ノ下が残って作業している中、三人連れだってまるで逃げ出すように教室を出ていく相模の姿が見えた。vol.06, l.1205
雪乃は実行委員会副委員長に就任したその直後の描写で既に相模の実権を奪っている。
「あのときみたいな文化祭を期待しとるけぇの」/「実行委員として善処します」vol.06, l.0586
一方で雪乃は文化祭自体に対してモチベーションが低い。さらには 積極性の墓場みたいな
vol.06, l.0684 記録雑務に属する。
「その範囲から外れない程度には手伝える」vol.06, l.0908
かつ雪乃には相模の補佐程度から外れる意思はない。かつ雪乃は嘘は吐かない。
これらが一見矛盾している。
解が不明な為に、本稿では単に雪乃の不器用な性格によるもの、補佐程度で留めるつもりがうっかり実権を奪ってしまった、とする。
でも、今回は違う。一から十まで雪ノ下がやって、おそらくは本人の言う通り、こいつは最後になんとかしてしまうだろう。/けど、それは雪ノ下が掲げていた理想とは違うものだ。vol.06, l.2297
雪乃は専制的な手法で文化祭準備委員会を率いた。それが、従来の雪乃の案とは異なるということ。であれば、なぜ従来の雪乃の手法とは異なる手法を取ったか、という謎は残る。
「だけど、お前の今までのやり方と違ってるだろうが」/雪ノ下は答えない。vol.06, l.2298
直接的な解は示されない。
「文化祭実行委員会のことなら多少の勝手はわかっているから。」vol.06, l.0924 /「私は、姉さんが今までやってきたことなら大抵のことはできるのよ」vol.06, l.3595
本稿では専制的な手法を用いたのは陽乃を倣ったのみ、とする。但し陽乃の場合には人望が伴っていたのだろう。
但し、 最後は必ず本人の意志に委ねてきた
vol.06, l.2294 とはあるが、6巻までの本編内では、雪乃案で問題解決できたことはない。 「だけど、お前の今までのやり方と違ってるだろうが」
vol.06, l.2291 におけるその「お前の今までのやり方」が本編には存在しない。この八幡の理解がまちがっている可能性はある。
あるいはまた、文化祭実行委員会で専制的な手法を採る事自体は正しいと考える。 雪乃、めぐり、海老名はリーダーシップの典型である。 参照。
雪乃は文化祭実行委員会のサボタージュが続く中でも頑なに誰かを頼ろうとしない。
その理由は、雪乃が文化祭実行委員会のサボタージュの解決を陽乃による課題だと捉えていて、かつ、「誰かに頼る」は陽乃にとって誤答であると認識しているから、だろう。
「その申し出、ありがたくお受けします。……ごめんなさい」/誰へ謝ったのかも定かではない。vol.06, l.1785
雪乃は葉山の協力を受け入れるに当たって何かに謝る。雪乃自身、とする。
「ゆきのん、あたしとヒッキーを頼ってよ。」/「紅茶でいいかしら」vol.06, l.2310
雪乃は結衣と八幡を頼れと言う結衣の提案を打ち切る。
「今すぐは、難しいけれど。きっといつか、あなたを頼るわ。」vol.06, l.2324 /「でも、もう少し考えたいから……」vol.06, l.2327
雪乃は結衣を頼る事を受け入れるが、しかし頼るには少なくとも考える必要がある。
「正しいやり方を知っているの?」vol.06, l.2290
雪乃が、相模らのサボタージュに対して、正しいやり方があると想定している、ということ。つまり雪乃が現状を何らかの問いだと考えているということ。
「姉さん、手伝って」/陽乃さんの瞳の色が変わった。黙ったまま、冷たい眼差しで雪ノ下を見下ろしている。vol.06, l.3539
陽乃にとって「お願い」「頼る」は不正解である。
後にも 「一人でやるようになったと思ったら、また昔みたいに人に頼る。」
vol.10, l.3288 とあるので、「お願い」、「頼る」、が不正解であるということは、陽乃と雪乃の間での共通の認識だと思われる。
「誰かに頼ってもいいって、そんなことも知らなかったの。」vol.13, l.4736
後に「誰かに頼る事は誤答である」という呪縛からは解放されたと明言する。
であれば、それは 「今すぐは、難しいけれど。きっといつか、あなたを頼るわ。」
vol.06, l.2324 と 「あなたを頼らせてもらっても、いいかしら」
vol.06, l.3612 の間に起きた事であるので、恐らくは 「なら、もう一度問い直すしかないわね」
vol.06, l.2493 。