06.5巻 体育祭
委員長の相模は委員会を分裂させ機能停止させてしまう。八幡らは解決を試みるが、相模自身のヒステリーにより委員会は冷静さを取り戻す。
6巻で描かれたサボタージュ対策の別解。熱意と共感による士気高揚を裏返したもの。
6.5巻は俺ガイル入門編、と言えよう。物語冒頭にキャラクター説明が含まれ、伏線とその回収が巻内で完結し、かつそのトリックの存在が明示され説明されている。齟齬や暗喩も逐一説明されている。アニメBD特典小説の再構成という執筆の経緯上か。
俺ガイル本編ではそれらのこの種のトリックは明示も説明もされない。気付かぬうちに仕込まれ、印象的かつ目的語を欠く言葉でその存在が暗示され、しかしその謎解きや説明はなされない。むしろそれがトリックであることに気付かれずとも構わない、といった態度を取る。
雪乃が奉仕部で紅茶を淹れ始める。八幡のコップがない。『千葉県横断お悩み相談メール』、海老名, 陽乃, 三浦。海老名は八幡と葉山が互いを意識している事に気づいている。雪ノ下姉妹の関係性は文化祭で前進した。三浦の依頼、未だ八幡の悪口を続けている相模の対策。
「あ、ヒッキーの分」/「いや、俺は自前であるから」vol.06.5, l.0060
八幡はこの時点でカップを持っていない。 おかげであったかいMAXコーヒーが美味い。
vol.06.5, l.4593 、 常備してあった紙コップ
vol.07, l.0253 などを経て 「クリスマスプレゼント!」
vol.09, l.5546 の湯呑みに至る。
「長いメール......。なんか、あたし今、相談内容思いついたかも」vol.06.5, l.0108
雪乃のメールの応答が短すぎる、だろうか。 「『そう』とか」
/ 「『了解』とか」
vol.02, l.0535
「比企谷くんに陰口を聞かせてくれるような人、いないもの」vol.06.5, l.0367
雪乃も結衣も陰口を言わない、の意を含むか。
「......実害なら、あるわ」vol.06.5, l.0385
結衣が 「悪く言われるの、やだし」
vol.06.5, l.0353 と考えているということ。
川崎は八幡を、相模は三浦を避けている。
めぐりが「比企谷」の苗字を覚える。めぐりの依頼、体育祭の目玉競技のアイデア出し、体育祭運営委員会の委員長の選定、赤組の勝利。雪乃案、相模南を委員長に充て、奉仕部が支える。
「比企谷くんね。うん、ちゃんと覚えた。」vol.06.5, l.0593
めぐりにとって文化祭中の八幡は数十人いる実行委員にの1人に過ぎなかったということ。 「残念だな......。真面目な子だと思ってたよ」
vol.06, l.2471 / 「やっぱり君は不真面目で最低だね」
vol.06, l.4005 。
「また倒れるまで働く気かよ」/「ちょっと意外だったから」vol.06.5, l.0788
雪乃が意外に思う理由が不明。
但し少なくとも八幡は文化祭中雪乃のオーバーワーク自体を責めてはいない。
葉山の介入により相模は委員長職を承認。
体育祭運営委員会に参加。委員会は首脳部と現場班から構成される。平塚が担当。めぐりが奉仕部に相談したのは平塚の差し金。
相模、遅刻。議題は体育祭の目玉競技のアイディア出し。多くの案がしかし規制されている。
八幡は材木座と海老名を呼び出しアイディア出しを依頼する。
材木座案、チバセン。コスプレ騎馬戦。
海老名案、葉山大将で棒倒し。相模決裁で決定するも運動部主体の委員会現場班の協力が得られない。平塚が介入し会議を中断、めぐりと相談する。
平塚、相模に委員長職の進退を問う。雪乃は理詰めで自身への引継ぎを迫り、八幡は相模を蔑む。相模は八幡に反発して委員長職の継続を宣言する。雪乃、結衣、八幡はそれに応じてリカバリ。
依頼は体育祭の成功とクラス内の雰囲気の改善の二つ、双方とも問題は相模。雪乃は自身が相模を追い込む事による八幡の介入を想定していた。相模は八幡への反抗で委員長職を継続した。
「さがみん、ヒッキーに馬鹿にされるのが一番ムカつくみたい。」vol.06.5, l.1908
「なぜ相模は委員長職を受け入れたか」の謎解き。つまり、雪乃の 「ここで降りても構わない」
vol.06.5, l.1694 等の裏返しの鼓舞を理解したのではなく、八幡の 「誰かになんか言われたくらいで変われるならそもそもこうなってない」
vol.06.5, l.1754 に反発した、ということ。
本編ではこの種の謎解きは明示されない。
「ヒッキーが止めるのわかっててああ言ったの?」/「さぁ、どうだったかしらね」vol.06.5, l.1924
雪乃が相模を追い詰めれば八幡が制止する、八幡が制止すれば相模は反発し委員長職を受け入れる、と雪乃は考えて、その事を前提に雪乃は相模を追い詰めた、ということ。
八幡が雪乃を制する構図は、文化準備委員会から逃走した相模を追い詰める八幡と、八幡を制止する葉山の関係に相似する。あるいは八幡は雪乃が 倒れるまで働く
vol.06.5, l.0786 事態になることを望んでおらず、雪乃はこれを信用したかも知れない。
雪ノ下の思う奉仕部の理念は「いくら救いようのない者であっても、救われたいという意志がある限りにおいては手を差し伸べる」。小町も八幡もは評定点が不足するので一般受験。
「右が壊れたら左、そっちも壊れたら打者転向」vol.06.5, l.2040
体育祭でのサボタージュ対策の正答。相模を委員長に選んだ理由は 「相模がウザい」
vol.06.5, l.0279 程度であるので、委員長を変えればよかった。相模が壊れたら葉山、そっちも壊れたら戸塚。
八幡は小町に相互確証破壊を説く。八幡は奉仕部がいずれ失われると考えている。
「やりたいことも、あるしさ」/ (奉仕部は)「何かあれば即消滅だろ」/「小町が頑張って総武高入んないと!」vol.06.5, l.2194
「小町がやりたいこととは何か」。
解が1エピソード内で明示されている。本編ではこの種の係り受けの様な構造が章や巻を跨いで発生する。
葉山は体育祭の委員長に相模を推薦したことを詫びる。葉山はカードにはなり得るが相模と現場班の軋轢の解決が必要。
めぐりは相模に衆人環視下で現場班に謝罪させる。しかし相模は「部活のほうの負担にならないようにする」という言質を与える。
相模の言は自己弁護と同時に大義名分を振りかざした糾弾にしか聞こえなかったし、遥とゆっこの弁明は部活という盾をうまく使って言質を引き出した形にしか見えない。vol.06.5, l.2403
それぞれ下記。
「楽しくなるようにって、そればっかりしか考えてなくて」
「棒倒し担当がいいなぁ。」/
「後の結構しょぼいよ?」vol.06.5, l.1425
「盛り上がることしたいし、頑張りたいんだ」
「協力してもらえると助かるんだけど。」
「あんまりいいアイディアも出てないし」を参加者の責に帰したということ。但し相模自身もアイディアを出していない。
「部活のほうの負担にならないようにするし」
雪乃と結衣とで現場班の反論を封じる。雪乃案、工数削減とシフト導入。委員会を再起動させる。
シフト導入は人員の稼働を意味しない。現場班の連中が結衣に声をかけ、結衣は三浦を男除けに使う。結衣は八幡との作業を喜ぶ。
「そういうこと言いたかったんじゃないんだけどなぁ」/「別に一緒になんかするのなんていつでもできる」vol.06.5, l.2681
八幡は結衣の好意的な表現を回避し続ける。 「こういうの、いいよね」
/ 「どこが......」
、 「なんか、青春っぽい」
/ 「社畜もいいところだろ、こんなの」
等々。そして結衣が引くと追う。
相模は仕事をするが能力がない。現場班のモチベーション低下により実行委員会は遠からず破綻する。
八幡の下駄箱にゴミが入れられている。八幡は戸部の下駄箱に入れなおす。戸部は騒ぎを拡散する。遥、ゆっこが相模を無視する。
(下駄箱のゴミについて騒ぐ戸部に対して)
聞いていた葉山が急にその表情を硬くした。vol.06.5, l.2831
不明。戸部に騒がせる方法を考えたか。
三浦と相模の不仲が続く。相模は人を避け始める。
相模や首脳部への反感を遠因として、現場班は騎馬戦に異を唱える。相模は事態を収拾できず、めぐりが対応を宣言し、雪乃が理詰めで鎮静化させるが、それは本質的な収拾ではない。
騎馬戦への異論は相模への反感に由来する。であるから理詰めには効果がない。結衣案、相模が委員長を辞める。雪乃・めぐり案、現場班側を折る。説得や構成員入れ替えは解にならない。八幡案、相互確証破壊。
「相互確証破壊ってやつだよ」vol.06.5, l.3400
伏線の回収。 相互確証破壊
vol.06.5, l.2144 。
全編を通して小町や材木座は八幡に解法を伏線として示す。但し本編ではこの様に意味の強い単語を用いない。
「比企谷くんって、やっぱり最低だね。」/そして、くすっと悪戯めいた微笑を浮かべた。vol.06.5, l.3452
「やっぱり君は不真面目で最低だね」
vol.06, l.4005 の反復。めぐりから八幡への態度、理解が反転したことが明示されている。
6.5巻のみならず俺ガイルではある人物からある人物への思惑や感情は全編を通して変化し続ける。しかし本編ではそれらは明示されず、かつ読者が受けるその人物らの印象とは一致しない。端的には雪乃と陽乃はお互いに好意を持っているし、八幡と葉山は相互に理解している。がこれらは明治されない。
棒倒しの大将が葉山と戸塚に決定。
どうしようもない柔道大会vol.06.5, l.3554
未だ、彼らは帰るべき場所を知らない
vol.07.5, l.1772 のこと。
最終的には相模任せ。平塚は八幡らを見守る。
八幡案、体育祭の開催を人質として、より多数派すなわち生徒全員に現場班を攻撃させる選択肢を示す。委員会は紛糾し、しかし相模のヒステリーにより醒める。収束。
企画会議の折にも、この手の配慮によっていくつか企画が潰されていた。vol.06.5, l.3858
伏線の回収。 「それだと部活に入っていない生徒が参加できなくて不満が出るから、配慮がなぁ」
vol.06.5, l.1037 / 「生徒個人の所持品を扱うと紛失や破損のトラブルに繋がることも多くてな」
vol.06.5, l.1046
「遅刻とかしてたくせに......」vol.06.5, l.3929
伏線の回収。 それでもまだ会議が始まっていないのは相模が遅れているからだ
vol.06.5, l.0981
そもそもの問題は感情論から端を発している。なら、それを覆すのもまた感情論でしかありえないのだ。vol.06.5, l.3985
伏線の回収。 理詰めのやり方は論理的に考える人間にしか通用しない
vol.06.5, l.1649 。逆に言えば八幡案の相互確証破壊は首脳部と現場班の対立の解決に直接には寄与していない。
以上、伏線の回収が連続する。考えずともカタルシスが容易に得られる構造であって、6.5巻は俺ガイルの入門編という位置づけなのだろう。
八幡が救護班を立ち上げる。結衣が放送に三浦を充てる。相模は三浦との距離感を学習した。
「お前、どこ行ってたんだ」/「もしかしてあたしがいないの気にして捜したりしてた?」/「仕事もしねーで何してたんだっつー意味で言ったんだよ」vol.06.5, l.4037
齟齬が明示された例。本編では会話に齟齬が生じていてもまず言及されない。
いつだかの教室でも見たような気がする光景だ。/だが、このあとがそのときとは違っていた。vol.06.5, l.4104
もし、変われるとしたら手段は一つ。
/ 何度も何度も痛い目を見て、心に消えない傷を刻みつけて、その痛みからの回避本能によって、結果的に行動が変化するだけだ。
vol.06.5, l.0778 の回収。相模は痛い目を見て行動が変化したということ。
体育祭当日。めぐりの依頼、今年で最後なので絶対勝ちたい。
赤組が敗色濃厚。雪乃は負けず嫌い。
チバセン。雪乃、結衣、めぐり、三浦、川崎、海老名、でコスプレ。川崎・海老名製。
雪乃が三浦を騎馬上で空気投げ、赤組勝利。
ほとんど触れていないにもかかわらず、人を投げる雪ノ下の得意技だ。vol.06.5, l.4393
体捌きだけで人を投げた......
vol.07.5, l.2936 の反復。
八幡案、材木座を囮にしてチーム偽装した八幡をさらに囮にして材木座。
「我が人生に一片の悔いなし.........む、無念、ぐふっ」vol.06.5, l.4536
ツッコミ不在。結局悔いはあったりなかったり。
こいつも結構屈折していると思うんだよね。vol.06.5, l.4572
この時点で葉山が強く関わるエピソードは2巻のチェーンメールや職場見学、4巻のキャンプ、6巻の文化祭。これらのいずれかで葉山が屈折しているということ。おそらくは全て。
棒倒しは反則や危険行為によりノーゲーム。全体として赤組敗北。雪乃も結衣も八幡のチーム偽装を見ていた。八幡はまだ紙コップ無し。
「相模さんにも何か思うところあって、ああいう発表をしたのでしょうし」vol.06.5, l.4648
あえて蓋をし、見て見ぬふりをすることもできるようにはなるのだろう
vol.06.5, l.4652 。単純には八幡を扱うことから逃げた。
「ねぇ、そこ、どいてくんない」vol.06.5, l.4680
三日月のように細まり歪め曲げられた瞳には俺への侮蔑と嘲笑が込められている。
vol.06.5, l.0410 などからの変化。相模が嫌いな人間を他人として扱える様になったということ。
八幡らは翌日クリスマスパーティーの約束をする。
八幡は小町にプレゼントを渡す。小町は結衣に翌日の詳細を聞く。
クリスマスパーティー。集合。
小町曰く子供の頃の八幡は可愛い。
結衣は八幡の誕生日プレゼントにお返しができていない。八幡「お返しにお返ししてたらいつまでたっても終わらん」結衣「終わらなくても、いいと思うけど」。結衣は雪乃の誕生日プレゼントの購入に八幡を誘い、八幡は承諾する。
いつだか一緒に出かける約束をしていたがvol.06.5, l.5499
「じゃあ、今度ハニトー奢ってもらうことにする」
vol.06, l.3080 。
八幡は交換用のプレゼントと「ちょっとしたもの」を購入。戸部がケーキ屋でバイト。
プレゼント交換。
八幡は雪乃と結衣を送る。八幡は二人に湯呑みの礼のシュシュを渡す。結衣がブルー、雪乃がピンク。雪乃、「メリークリスマス」。
届かない祈りも、かなわない願いもきっとある。/ただ、それを静かに、白い息とともに吐き出すことも今日くらいは許されるだろう。/その吐息が、誰かのともしびを揺らすことも、きっとある。vol.06.5, l.6131
俺ガイル結は結衣視点でのこのシーンから始まる。
概ね、「いつもは届かず叶わない雪乃の八幡への好意を」「吐き出すことも今日くらいは許され」「それに結衣が気付いた」ルートが、俺ガイル結。 気づいてしまった。
/ ずっと前から、好きだったんだ
vol.Y01, l.0187 。