相模の失踪と壊れた南京錠
文化祭での相模の失踪についての不審な点を下記に示す。
これを解く仮説として下記を示す。
しかし決定的な証拠である南京錠が、「壊れている」とのみ表現され、その掛け方を特定できない。つまり八幡は相模の失踪の真相を見過ごしており、読者も失踪の理由を確定できない。
「今から文実?」/「じゃあ俺も一緒に行こうかな」vol.06, l.1255
この後会議室には陽乃が居る。陽乃が葉山を呼びつけたのだろう。
「やっぱりこうなるか……」
/ すべてわかっていたような口ぶり
vol.06, l.1387 に従えば、陽乃は雪乃に干渉すべく文化祭に参加する、その味方を増やす為に葉山を呼んだ、と思われる。なお実際にはその役割は相模が担った。
「クラスのほうは優美子がちゃんとやってるみたいだからさ」vol.06, l.1916-
クラスでの相模の居場所は三浦らが奪った。言うまでもなく三浦は葉山の影響下にある。
但しこの時点で葉山が相模に声をかけた理由は、相模を委員会に復帰させようとしていた程度、だと思われる。
「やっぱ文実はこうでなきゃ! ああ、今すごく充実してるなぁ」vol.06, l.2559
相模に対する皮肉。実行委員での相模の居場所は陽乃が奪った。
「明日からが楽しみだなぁ〜」vol.06, l.2564
陽乃は事件の発生を暗喩できる程に相模の失踪に確信を持っている。
(機材不足について)
「統制部は有志代表者と交渉。」vol.06, l.2542
機材不足の交渉を担当した「有志代表者」は 「有志団体側の代表」
vol.06, l.1671 、葉山であろう。この機材にPA機材、例えばマイクやイコライザが含まれるなら、葉山は、特定のマイクでハウリングを起こす設定を仕込む事ができる。
「有志のリハーサルが長引いているから、オープニングセレモニーのリハは後ろに回すわ」vol.06, l.2547
オープニングセレモニーのリハーサルの遅延を起こしたのもまた有志団体である。
相模は立ち位置を間違え、ハウリングにより動揺し、オープニングセレモニーで失態を晒す。
「さっきから仕事してるふりしてるけどやることないの?」vol.06, l.2682
初日は八幡に受付という居場所が用意された。逆に言えば同じく参加率の低い相模に割り当てられるべき閑職を八幡に割り当てている。受付を割り当てた発案者は そんなことまで気を回す奴
vol.06, l.2806 。但し結衣の可能性も高い。
描かれない。
先に示した遠因のみでは相模が失踪までするには不十分である。相模を失踪させるべく、相模に対して何らかの直接的な働きかけがなされたではあろう。葉山が働きかけたとするなら「相模のリーダーシップの欠如にみんな迷惑している」等の言葉だろう。陽乃であれば屋上の存在を教え、そこに隠れることで雪乃を困らせる事ができる、としたかもしれない。
扉の南京錠は壊れていた。/これなら屋上への侵入は簡単だな……。vol.06, l.3584
まちがっている。壊れている、あるいは開いた南京錠であっても、屋上への侵入は妨げないが、しかし屋上からの退出を防ぐことはできる。相模を屋上に閉じ込める事ができる。あるいは持ち運び交換していてもよい。
南京錠はミステリの頻出トリックである。が、その南京錠の掛け方が描かれていない。相模の失踪のその中核であるそのトリックが、そうと断定できない様に書かれている。本稿に述べる前後の状況証拠群の揃い様からしてあからさまな省略であって、著者の故意を疑い得る。
葉山は相模の失踪を聞き、すぐにバンド演奏を一曲増やす。すなわち、三浦、戸部らに事前にもう一曲を練習させてあったということ。相模の失踪が長期的な計画であったということ。
もっとも雪乃や結衣らによるバンド演奏、すなわち知っている程度の曲を合わせた事のない5人でぶっつけ本番を成功させる事、もまず不可能ではあって、双方ともにエンターテイメント的表現、葉山TSUEEEの描写や総武高けいおん部的な展開の犠牲である可能性も充分に高い。
葉山が相模を発見する時間が短か過ぎる。自身が演奏を終え、その後雪乃らが時間を稼ぐ10分の間に、いろいろ聞いて周り、相模の友人二人を見つけ、屋上に連れて来て、相模を説得し初めた、と言っている。 生徒会役員を駆り出して探している。いろんな伝手を辿っている。それでも見つかっていない。
vol.06, l.3335 にも関わらず。あるいは部活に参加していない相模を 階段上っていくのを見かけた
vol.06, l.3637 と言える一年生は少ないにも関わらず。
もっとも八幡も同程度の時間で相模を発見している。
相模さんのために、みんなも頑張ってるからさvol.06, l.3647
葉山は相模を説得する上で不自然に「みんな」を連呼し追い詰める。「みんなに迷惑かけちゃったから合わせる顔が」
vol.06, l.3649 という罪悪感が相模を躊躇させ、その「みんな」からの疎外感により相模は逃亡した、にも関わらず。
雪乃案のバンド演奏による時間稼ぎは葉山や陽乃からすれば想定外であって、葉山はこの雪乃による時間稼ぎのぶんだけ、相模を屋上に留める必要がある。 一瞬だけ視線が腕時計に向かう
vol.06, l.3646 ところで、葉山は恐らく時間稼ぎをしている。相模をエンディングセレモニーに間に合わせない事が目的だろう。
もっとも八幡がこの種の悪意に気付かないとは考えがたい。
「誰も真剣にお前を探してなかったってことだろ」/「比企谷、少し黙れよ」vol.06, l.3682
葉山は八幡の言葉を中断させた。葉山の立場からすれば、八幡が葉山と陽乃の暗躍を知っているリスク、露見させてしまうリスクがあり、八幡に話し続けさせるべきではない。なお、葉山はクラスメイトらの前では八幡を ヒキタニくん
vol.06, l.0711 と呼び、八幡を対等と見なした時に比企谷と呼ぶ。
「お前だって断らないだろ」/「俺は君が思っているほど、いい奴じゃない」/静かなのに苛烈さを秘めた声音。それはいつだかの夏休みにも聞いたような気がする。vol.09, l.1800
つまり葉山が手伝う理由は葉山がいい奴だからではなく、かつ、陽乃が関係する。
この「いつだかの夏休み」は、 「ヒキタニくんが俺と同じ小学校だったらどうなってたかな」
/ 「比企谷君とは仲よくできなかったろうな」
/ 優しいだけではなく、どこか苛烈さを秘めた声音
vol.04, l.3168 。この「仲良くできなかった」理由は複数考えられるが、いずれにせよ雪乃・陽乃・葉山に関する事柄である。
陽乃に対して 「俺も今日はいいところを見せたい」
vol.06, l.3328 だろう。
葉山は陽乃に盲従している、のだろう。「今日はいいところを見せたい」程度で他人を貶める事も厭わない程に。八幡と雪乃を 共になくてはならない存在で、一緒に地獄に落ちられたなら、そんなにも幸せなことはない。
vol.13, l.3227 と妬む程に。