陽乃は雪乃を愛している。

陽乃は雪乃を愛している。

陽乃は文化祭を通して雪乃に課題を与え、雪乃はそれを克服しようとする。本稿は陽乃の意図と行動とをまとめる。

前提 陽乃は雪乃を自立させようとしている。

「敵がしっかりしていないと成長もしないからね」vol.06, l.2454

陽乃から雪乃への介入は、雪乃を成長させること、が目的である。

「一人でやるようになったと思ったら、また昔みたいに人に頼る。小っちゃい頃はそれも可愛かったんだけどねー。」vol.10, l.3115

陽乃は雪乃の依存癖を解消させようとしていることが後に明らかになる。

「姉さん、やめて。……わかっているから」 / 「わかってるの、依存してること。あなたにも由比ヶ浜さんにも、誰かに頼らないなんて言いながらいつも押し付けてきたの」vol.12, l.4403

雪乃も陽乃もそれは合意している。端的には雪乃の完璧さは陽乃の模倣により得られていたものであるということ。

第一の課題 相模のサボタージュへの対策

「わたしのときも、クラスのほう、みんな頑張ってたなぁ〜」vol.06, l.1445

陽乃は相模にサボタージュの理由を与える。すなわち陽乃の第一の課題は相模のサボタージュへの対策である。このときの陽乃が同意した相模の発言はたかだか 「少し仕事のペースを落とす」vol.06, l.1440 であったから、陽乃の意図は、雪乃を相模の代わりに実質的な委員長に据える、リーダーシップの経験を積ませる、人の前に立たせる、程度であったろう。

しかし相模はサボタージュに委員会ごと巻き込む。陽乃にとっては 「本当にいいこと言うね~」vol.06, l.1457 と皮肉る程に予想外であった。陽乃自身が ときおり有志参加の練習ついでにふらっと現れては仕事を片づけてvol.06, l.1565 、作業量を観測ないし調整している。あるいはさらに葉山に有志団体の取りまとめに就く様に指示しただろう。

準備委員会のサボタージュの発生は偶然の積み重ねによるものであって、陽乃の故意によるものとは考えにくい。だがしかし雪乃はその過負荷の収拾を陽乃に課された課題、教育、として理解する。

正答

「...正しいやり方を知っているの?」vol.06, l.2183

雪乃は陽乃が正答を用意している事を前提としている。

「あたしとヒッキーを頼ってよ」vol.06, l.2200

結衣は概ね正しい。この案は陽乃に対して雪乃が結衣と八幡とを使役し得る事を示せるという点で模範解答だろう。

「集団を最も団結させる存在はなんでしょ〜?」 / 「冷酷な指導者ですか」 / 「明確な敵の存在だよ」vol.06, l.2431

この陽乃の言によれば、

なども正答になり得たのだろう。

雪乃による第一解、作業の分担。

「仕事量は割り振ったし、負担は軽減するように」vol.06, l.2159

雪乃による解はリソースの再配分。問題点は、そもそもリソースが不足している、ということ。

八幡による解、敵を作る

「犠牲、というのは具体的に何を指す」 / 「俺とか超犠牲でしょ」vol.06, l.2317

八幡による解法。自身を敵役として準備委員会を再団結させる。相模を敵と設定することも、雪乃を誰かに頼らせることもしない。

「あっははははははっ! バカだ、バカがいる!vol.06, l.2306

爆笑という反応自体は、陽乃が、八幡の意図を理解したことを示す。八幡の意図を委員会構成員に周知する行動でもある。

ただし陽乃は八幡を 「ちょーっと小物」vol.06, l.2450 と評する。八幡の解法は委員会が 祭りの気分に当てられて、盛り上がってるvol.06, l.2451 ために機能したに過ぎない。八幡のこの解法は、参加者のモチベーションが自ずから低くサボタージュを当然だと考えている場合、誰もが嫌がる仕事の場合、即ち6.5巻に描かれる体育祭の場合、などには機能しない。

雪乃による問い直した解、委任と権限の移譲

「もう一度問い直すしかないわね」vol.06, l.2375

この宣言により雪乃は別解を得る。

姿勢が変わる。この「壁」は雪乃の方法論のみならず雪乃のあり方を暗喩し、つまり雪乃が陽乃の試験に固執する姿勢から開放された事を示すだろう。

雪乃のリーダーシップの方法論が変わる。なお、同じ有志統制部に対する指示である。

決裁権を雪乃が持っている体制では指示が詳細である。構成員のモチベーションや能力の有無に関わらず概ね誰でも業務を遂行できる様にする方法論である。

変化後には委任を進めている。委任は一般に担当者のモチベーションや能力を必要とするが、組織全体として処理能力は増大し、負荷の変動に頑健になる。とくに交渉とは利害関係の調整であってすなわち自身が損害を被る可能性があり、委任には担当者に対してより大きな信頼を必要とする。あるいは統制部担当者が誰であれ有志代表者が葉山であればこの委任は正しかろう。

雪乃は陽乃に自身の解を説明する

「予算の見直しをするから、勝手にやるならそっちにして」 / 「ん? ふふっ……はーい♪」 / 陽乃さんは一瞬だけ怪しげな笑みを浮かべたがvol.06, l.2488

陽乃からは雪乃は他人に頼り始めた様に見える。対等な関係で依頼するか、甘える形で頼るか、の区別はつかない。陽乃の「一瞬だけ怪しげな笑み」はその疑念を示すだろう。

「雪乃ちゃんが私にちゃんとお願いするなんて初めてだし、今回はそのお願い聞いてあげる」 / すげなく断るよりもなお辛辣だvol.06, l.3373

陽乃は雪乃の「お願い」、「頼る」が不正解である事を指摘する。

「この私に、貸しを一つ作れる。」 / 「……雪乃ちゃん、成長したのね」 / 「私はもともとこういう人間よ」vol.06, l.3397

一方、雪乃は、雪乃と陽乃は対等な関係だとして依頼する、「頼る」と「甘える」とは異なる、と表明する。

「あなたを頼らせてもらっても、いいかしら」 / 「頼ってもらって、構わない、から……」vol.06, l.3439

雪乃の「頼る」が、相互に対等な関係であること、はより平易に表現されている。

第二の課題 相模の失踪への対策

「明日からが楽しみだなぁ〜。……ね?」vol.06, l.2564

2回目の課題は、「葉山らが稼ぐ10分余以内に相模の失踪への対策をすること」。

このとき相模を迎えに行った葉山は陽乃の影響下にあると考える。 葉山と陽乃が相模を失踪させた? 参照。であれば、状況は陽乃に制御されている。雪乃が何もできなかったとしても、相模の復帰が致命的に遅れることはない。

問題が地域賞の発表だけであるのだから、陽乃か葉山かが集計の締め切り時に相模と同席し、その集計結果を知っているのかも知れない。地域賞は今年から創設されたものであるから陽乃はその存在を知らず考慮していないのかも知れない。

「姉さん、手伝って」 / 陽乃さんの瞳の色が変わった。黙ったまま、冷たい眼差しで雪ノ下を見下ろしている。vol.06, l.3367

なお、陽乃を頼る事は、陽乃にとっては誤答である。

陽乃が想定した解は「雪乃が相模の代役として壇上に登り、人の前で話す経験を積む」だとするならば、雪乃の「バンド演奏に依る時間稼ぎ」は陽乃の想定解を満たす。もっとも何らかの突発的なイベントを起こして面白ければそれでいい、というスタンスでもあって、特に解を用意してはいないかも知れない。

雪乃と八幡による解、陽乃による評価

雪乃らがバンド演奏で時間稼ぎしている間に、八幡が相模を見つける、が雪乃の解決法である。

「最高だね」 / 「雪乃ちゃんにはもったいないかも」vol.06, l.3845

今回は陽乃は八幡を評価する。恐らく八幡と相模の詳細を既に葉山から聞いている。

あるいは皮肉でさえあるかも知れない。雪乃の解法は八幡に対する盲信がなければ成立しないし、後に問題になる依存癖を伺わせる。