05巻 花火大会
8月。 八幡は雪乃が交通事故の当事者である事を知る。それが雪乃の過去の発言と矛盾すると誤解し、それに失望する自身を嫌悪する。
「人を(雪乃を)知っているとはどういうことが」が6巻までのテーマの一つである。その表現として、5巻では多数のキャラクターによる雪乃像を集める一方で、雪乃自身はほぼ登場しない。 いったい何をもって、『知る』と呼ぶべきなのか
vol.05, l.0199 で問われ、 何を持って、知ると呼ぶべきか。理解していなかった
vol.06, l.3979 で回収される。
一方で八幡自身が持つ雪乃像が 雪ノ下雪乃ですら噓をつく。
vol.05, l.2325 として揺らぐ。
八幡は結衣に好意を持たれている。八幡はその結衣の「困ってる人を助ける」という八幡像の押し付けを拒否する。しかし八幡は雪乃に自身の憧れ、孤高を押し付けていた。
八幡はその自身の雪乃像の押し付け、雪乃像の揺らぎについて、自省するのみで、改めて雪乃を知ろうとはしない。八幡が雪乃を好きでいる為には、雪乃を孤高に保たねばならない、八幡は雪乃を知ってはならない、から。 八幡は雪乃に憧れ、故に雪乃を愛さない 参照。
突然、比企谷家の平穏は崩れ去る。vol.05, l.0018
結衣は比企谷家にサブレを預ける。
その程度で人を知った気になってはいけない。vol.05, l.0198
本編中ここまでに散在する雪乃のキャラクター描写は表層に留められている。雪乃の思考や行動を規定・推定できる種のものではない。雪乃の描写は故意に抑えられている。八幡が雪乃を理解しまいとしている描写だろう。
具体的には、雪乃の描写は、負けず嫌い、ドリンクバー・レまむら・クレーンゲーム・大富豪等を知らない、猫好き、家庭や姉妹に問題を抱える、一人暮らし、フォーマルを持つ、親が県議会議員、方向音痴、幽霊が嫌い、パンダのパンさんが好き、など。
一方、雪乃の行動を規定する程の重要な要素である、雪乃の家庭の事情の詳細、依存癖、奉仕部にいる理由、等がこの時点で判明していない。
あのとき、彼女は確かに一線を引いたはずだvol.05, l.0260
「あのとき」とは、 「ちゃんと始めることだってできるわ。……あなたたちは」
/ そう言った雪ノ下は穏やかな、けれど、少し寂しげな笑顔を浮かべる。
vol.03, l.2794
案の定、川崎沙希は憶えられていない。vol.05, l.0263
沙希は予備校のスカラシップを取得した。沙希、大志の雪乃評はそれぞれ「近づきづらい」「なんか怖い」。
小町も大志も総武高校を志望校とする。沙希や八幡を含め、その志望理由は人それぞれ。
意外と戸塚彩加のセレクトは渋い。vol.05, l.0610
戸塚の雪乃評は「真面目で真剣」、材木座の雪乃評は「正直で怖い」。
遺憾にも、平塚静の赤い糸の行方は誰も知らない。vol.05, l.0909
平塚静の陽乃評は「外面を含めてカリスマ」。雪乃評は「優しくて正しい」。
「外面だと気づいた人間はその腹黒さ、強かさを好ましく思い始める」vol.05, l.1116
陽乃の外面は身近な人間には見抜かれている。
「優しくて正しいところさ」/「君も優しくて正しい」vol.05, l.1128
意味不明。
「君の潔癖の話さ」/「いつか許せるときがくると思うぞ」vol.05, l.1179
八幡の自意識過剰のこと。あるいは言葉を変えれば 違和感
vol.11, l.2381 。
ふと比企谷小町は兄離れする日を思う。vol.05, l.1229
小町の雪乃評は「一人暮らしで平気なのかな」、寂しくないのかな。
結衣はサブレを受け取る。結衣は八幡を花火大会に誘い、八幡は小町を理由にして同意する。
いつかのいつか、それこそずいぶんと前に感じられるが、そんな問答をしたことがあった。vol.05, l.1337
「本当に逃げてないなら変わらないでそこで踏ん張んだよ」
vol.01, l.0375 。
「残される側だって、寂しいって感じると思う」vol.05, l.1413
カマクラの鳴き声のネコリンガル表示。「寂しい」。
「残される側」とはあるいはさらに雪乃。 「ちゃんと始めることだってできるわ。……あなたたちは」
vol.03, l.2794 として 送りだし残った側
vol.05, l.2232 。
「地域限定なんだよ!」/「俺の下駄箱にこういう地域限定お菓子のゴミが入れられていてな……。」vol.05, l.1435
八幡は話の腰を折る。
「花火大会、一緒に行かない?」/
「だってよ、小町。行こうぜ」vol.05, l.1487
けど、きっとそうはならない。vol.05, l.1632
等と合わせ、結衣から距離を保とうとしている。
そして由比ヶ浜結衣は雑踏の中に消えていく。vol.05, l.1554
8/17。八幡と結衣で花火大会。
相模南登場。スクールカースト主義者。
陽乃の雪乃評は「あんな可愛い子」。
陽乃は、八幡の交通事故について、雪ノ下家がの当事者だと漏らす。この機に八幡から「雪乃はその事故に無関係」であると知る。
結衣と八幡では雪乃に対する距離感が異なる。雪乃の家庭について、八幡は「知らなくても良い」、結衣は「もっと知りたい」とする。結衣曰く、「ゆきのんが困ってたら、助けてあげてね」
結衣は、かつて八幡に本物ではないとされた自身の好意について、それは交通事故とは無関係だ、と主張する。
さすがにこんだけお膳立てされて何もわからないほど鈍感じゃない。vol.05, l.1667
「結衣さんなら安心して任せられるかな 」
/ 「ああ、サブレの話か」
/ 「何の話してたの?」
vol.05, l.1523 と矛盾する。このやり取りで気付いたのかこのやり取りが韜晦なのかは不明。
「ヒッキーって、気、使えるんだ」vol.05, l.1801
そう思われる程度には八幡の結衣の扱いは酷い。 「何から食べる?りんご飴?」
/ 「それリストにねぇだろ」
vol.05, l.1681 , 「これPS3当たるよ!」
/ 「いや、当たんねぇから」
vol.05, l.1686 , 「ね、どれにする?」
/ 「中身はどれも同じだろ」
vol.05, l.1701
「俺が並の人間だったら今頃世界は終わってるまである。」/「並の人間世界滅ぼせないし!」vol.05, l.1808
雪乃と結衣の対比。通常八幡は結衣にこの種の掛け合いを仕掛けないし、かつ結衣はこの種の掛け合いに応じられない。
例えば雪乃ならば「終わってるのはあなたの人生でしょう」と受けて八幡が「そうか俺が世界だったか」と続けたりする。いわゆるノリボケ漫才。
「もうちょっと探してみるか……」vol.05, l.1830
何を探すのかが不明。 「雪ノ下のことだけどな。花火大会にいるかもしれないぞ。」
vol.05, l.1483 もしくは 「あっち空いてるっぽいから行ってみようぜ」
vol.05, l.1811 。
「なにヶ浜ちゃんだったっけ?」/この些細な言い間違いにすら何か意図がある気がしてならない。vol.05, l.1890
陽乃は相手の名を覚えていないと宣言して優位に立つ。相模に対して 「ま、いいや。委員長ちゃんね」
vol.06, l.1358 。八幡には 「比企谷くんね。うん、よろしくね」
vol.03, l.1606 。
「高校入学してから一人暮らししたいって言い出したのは」/「父が喜んじゃってあのマンション与えたの」vol.03, l.1927
雪乃父の視点では雪乃の一人暮らしは雪ノ下父が勧めた。曰く、(交通事故の後処理や陽乃など) それらから遠ざける意味もあって、彼女に一人暮らしを勧めた
vol.A1, l.3377 。陽乃の言は信用ならない。
「まだ一九歳。わたし、誕生日遅いんだ。」vol.05, l.1973
陽乃の誕生日は 7月7日
vol.06, l.2014 。8月中旬の時点で既に20歳。陽乃の言は信用ならない。
雪乃の一人暮らしの経緯、マンション購入の経緯、自身の誕生日、進学先を選んだ経緯、など、多数の矛盾がこの陽乃の1エピソードに含まれる。偶然がこれだけ重なるとは考えにくく、作者による設定の見過ごし等による偶然ではなく、陽乃の言は信用ならないとする伏線、だろう。
「本当はもうちょっと上行きたかったんだけど親に言われてねー」vol.05, l.1986
総武高校は 県下有数の進学校
vol.02, l.0496 であり、かつ陽乃の成績は 優秀だった
vol.05, l.1107 。つまり東大理科一類に入れる成績を持つが千葉大学に進学させられたということ。
理由は不明ではあるが不可解ではない。家業を承継するならば駒場の二年間は不要ではあろうし、あるいは千葉から駒場への通学は片道2時間である。家業承継する娘に一人暮らしは許せないのかも知れない。あるいはそもそも陽乃の言は全く信用ならない。
「わたしは雪乃ちゃんのこと大好きだよ」vol.05, l.2005
陽乃は雪乃に嫌われていることを自覚しているということ。
「そうやって変に悟って諦めているところ」vol.05, l.2039
陽乃の他人評はほぼ全て陽乃のこと。 「本物なんて、あるのかな……」
vol.10, l.4269 、 「そうやってたくさん諦めて大人になっていくもんよ」
vol.12, l.1054
陽乃さんも笑いを引っ込める。/申し訳無さそうな声。/取り繕うように言い添える。/ほっとしたような表情を見せる。vol.05, l.2061
「雪乃は八幡と結衣を巻き込んだ交通事故の当事者である」と陽乃が漏らした事は、故意であるとは読み得ない。俺ガイルでは、八幡は正しく観測し、思考でのみまちがえる。
家のことについちゃ余人がどうこういうもんじゃないだろう。/事故のこともあいつの家ののことも知らぬ存ぜぬでいいんじゃねぇのvol.05, l.2124
プロム編で問われる、八幡の雪ノ下家に対する基本的なスタンス。結衣の 「お互いよく知って、もっと仲良くなりたい。」
との対比。
「もし、ゆきのんが困ってたら、助けてあげてね」vol.05, l.2147
結衣は概ね正しい。雪乃の攻略法だとする。
「携帯、いいのか」/彼女の言葉の続きを押し留めた。vol.05, l.2186
八幡は故意に結衣に告白させなかった。
逸した視線は、いずれ前へ戻さなければならない。vol.05, l.2202
比喩。告白寸前に至る結衣を「逸した」と表現している。そして視線を前へ戻した次章からは雪乃を語っている。
では、比企谷八幡は。vol.05, l.2204
8/31。
八幡は結衣に好意を抱かれ、しかし結衣の八幡像の押し付けを拒否した。
しかし八幡は雪乃に「理解されないことを嘆かず、理解することを諦める」という自身の理想を押し付けていた。八幡は鈍感なのではない。八幡は自意識に従い、雪乃を理解しようとしないし、知りたいと思わない。
すこしだけ、雪ノ下雪乃は立ち止まる。vol.05, l.2268
雪乃と八幡の初めての接触は交通事故であったにも関わらず、かつて雪乃は 「あなたのことなんて知らなかった」
vol.01, l.0846- と言った。八幡は、雪乃は嘘をついたと考え、雪乃に「自らに嘘をつかない」と期待して失望した自分を嫌悪する。
自分で自分を認められる/俺が神だったのか。/(世間では哲学といいます)vol.05, l.2294
存在と認識の分離、本体論的かつ主観主義的。デカルトだろうか。
「姉さんと、会ったのね」/「ああ、たまたまな」vol.05, l.2307
雪乃は、交通事故について黙していた事を引け目に思い、 接し方がわからないがゆえの距離感と警戒心
vol.05, l.0256 を持っている。
雪ノ下雪乃ですら噓をつく。 そんなことは当たり前なのに、そのことを許容できない自分が、俺は嫌いだ。vol.05, l.2325
しかし、八幡は、「雪乃は嘘を吐かない」と理想を押し付けていた自己嫌悪により、雪乃を避けている。
八幡はかつて 勝手に期待して勝手に失望するのはもうやめた
vol.03, l.2785 勘違いも思い違いも思い込みももうしない。
vol.05, l.1632 として、結衣の好意、優しさ、を信じなかった。であるにもかかわらず、雪乃に対しては、勝手に期待して勝手に失望することを繰り返してしまった。
なお、 雪ノ下雪乃ですら噓をつく。
vol.05, l.2325 はまちがっている。 「雪ノ下雪乃ですら噓をつく。」はまちがっている。 参照。