雪ノ下家は雪乃を隔離した。
「それでも、……今日は来られてよかったわ。無理だと思っていたから」vol.04, l.1979
4巻から6巻にかけて雪乃はキャンプ中を除いて不可解に八幡と距離を取る。
ここで、4巻で雪乃が距離を取り、7巻までに収束する、そのタイミング全てに陽乃が関わっている。よって、「陽乃は雪ノ下母に八幡や結衣との交際を知らせた、それを知った雪ノ下母は雪乃と八幡や結衣との接触を妨げた」という仮説を示す。
4巻から6巻にかけて雪乃は不可解に八幡と距離を取る。これを、文化祭準備委員会での 「雪乃ちゃんのためにしてあげられることはしてあげたいんだよ〜」
/ 「……だいたい姉さんが」
vol.06, l.1308 を読者への挑戦状とし、 「部活には居づらくなってるだろうし」
vol.06, l.1309 を結末とするハウダニット、だとする。すなわち、
として、陽乃が、何を、どうしたか、を読者に問う構造になっている、と仮定する。
この期間の経緯を下記に示し、個々について説明する。カッコ内が仮説を示す。
「比企谷……。へぇ……」/陽乃さんは一瞬だけ考えるような間を取りvol.03, l.1603
陽乃は比企谷の名字を聞いて雪ノ下家の事故の関係者であることに思い当たっている。
「支配して、管理下に置く、所有欲の象徴なのではなくて?」vol.04, l.2407
雪乃の母親像。これに従い、雪乃は、比企谷家との接触を知った雪乃母に、八幡との接触を封じられた、と仮定する。
「雪乃ちゃんてば夏休みはおうちに戻ってくるようにって言われてたのに全然帰ってこないんだもん。」vol.04, l.3253
「一人暮らしのことだって、お母さんまだ怒ってるんだから」
vol.03, l.1668 と等しい。
雪乃が八幡と接触すべきではない理由は
「雪乃ちゃんに嫉妬して憎んで、雪乃ちゃんを拒絶して排斥し始める。」vol.03, l.2026
「ゆきのんが言い出せなかったのって家の事情もあるんじゃないかな。」vol.05, l.2119
などが有り得る。何れも八幡や結衣との接触を控えるには適切な理由であって、雪乃をそう説得する事も困難ではなかろう。
「あ、でもハメ外しちゃだめだぞ?」
vol.03, l.1665 とはあるが、しかし男女交際の忌避ではなかろう。これは結衣までもを警戒する理由にはならない。あるいはそもそも陽乃は雪乃と八幡の交際を明示的に応援する立場である。曰く、 「浮気は感心しませんなー」
vol.05, l.1872 。
「雪ノ下は手に取っていた本をそっと棚に戻すと、そのまますたすた店の外へと出ていった。」vol.04, l.0220
4巻冒頭では既に雪乃は八幡を避けている。但し八幡も雪乃も声をかけない事自体はあり得る行為ではある。
「小町ちゃんを呼ぼうって先生に頼んで」/「アレの面倒を見れる人が必要だと思ったから」vol.04, l.0548
雪乃は八幡と逢う為に小町を呼び出した。
なぜならば、八幡は小町に呼ばれなければキャンプに来なかった。しかし雪乃は小町を八幡の面倒を見させる為に呼び出した。主従が逆転し、矛盾している。雪乃は本当の事を言わない事はある。
葉山は肩をすくめて観念したように口を開いた。/「……ヒキタニくんはさ、ゆ」vol.04, l.1147 /思い当たることが2つくらいはある。あるが、それを葉山が聞いてくるというのが解せなかった。vol.04, l.1164
葉山には八幡に話すまでもない何かが。八幡に聞く何かがあったということ。
「そういう考え方か……。彼女が、君を気にかける理由が少しわかったよ」vol.04, l.2558
彼女とは普通に考えれば雪乃であろう。葉山が、八幡と陽乃の面識がある事を前提に話している、とも取れる。葉山は陽乃から八幡について問い合わせを受けている、とする。
あるいはさらに葉山は陽乃に八幡の調査を依頼されてキャンプに参加したと思われる。少なくとも平塚は 「学校の掲示板で募集を掛けていた」
が 「そんなもの応募してくる人間がいるとは思わなかった」
vol.04, l.0760 。
「雪ノ下さんもお姉さんみたいになれれば、よかったんだろうけど」vol.04, l.3155
同じく葉山は八幡と陽乃の面識があることを前提に陽乃に言及する。但し小説では作劇上この種の面識の省略は頻繁に起きる。
「ゆきのんの友達の由比ヶ浜結衣です」/「友達、ねぇ……」vol.04, l.3271
キャンプからの帰宅時に、陽乃は結衣を知る。陽乃は由比ヶ浜がかつての雪ノ下家の事故の関係者である事に思い当たっている。
キャンプ以降雪乃は結衣にも隔意を持つ。これを雪乃と結衣の関係を知った陽乃あるいは雪ノ下家によるものと仮定する。但し同じく直接的な記述はなく傍証のみである。
平塚先生→雪ノ下→由比ヶ浜→小町→俺という順番か。
vol.04, l.0551 に従えば、キャンプ前には雪乃から結衣への連絡に問題はない。よって雪乃と結衣の間の連絡が途絶えがちになったのはキャンプ後である。この結衣と陽乃の接触が契機であろう、と推測する。
「電話すると、留守電だったりして、あとでメールが来たり。メールは返ってくるのすごい遅かったり……。内容もいつもより反応が薄いっていうか、鈍いっていうか……。」vol.05, l.0173
八幡は「雪乃が避けている」と解釈しているが、雪乃が検閲を受けている、あるいは一人になる機会を探している、とも取れる。
「こないだ雪ノ下も夏期講習受けてたよ」vol.05, l.0418
一方で雪乃は変わらず軟禁はされていない。但し「こないだ」がキャンプ前、雪乃が自宅に連れ去られる前の可能性もある。
「京葉線止まっちゃうとさ、ゆきのん帰れなくなっちゃうよね?」/雪ノ下がひどく痛ましい表情をしていた。/「そのときは歩いて帰るから」vol.06, l.0204
新学期直後の時点で雪乃の結衣に対する隔意は継続している。「痛ましい表情」であるから、嫌悪等が理由ではない。
「あの子はただ乗っていただけだし、何一つ悪いことはしていない。それでいいよね、比企谷くん?」/「もう終わった話しなら別にいいよね」vol.05, l.2073
陽乃は八幡が交通事故を理由に雪乃に近づいたこと、あるいは八幡が 「雪乃ちゃんを拒絶して排斥し始める」
vol.05, l.2026 事を懸念している。八幡が事故について雪乃は悪くないと認識しているのであれば、八幡が事故を理由に雪乃に近づいた、という懸念はなくなる。
但し、八幡や結衣が雪乃を排斥し得る理由はもう一つ、雪乃の能力や雪乃が集める好意への嫉妬、が残る。よって、陽乃あるいは雪ノ下家が雪乃に八幡や結衣との接触を認めるには、八幡や結衣は雪乃に嫉妬しないことを示す必要がある。
「姉さんと、会ったのね」/「ああ、たまたまな」vol.05, l.2307
ということ。
雪乃のこの「本当のことを言わなかった」という自責の念、 接し方がわからないがゆえの距離感と警戒心
vol.05, l.0256 が、結衣や八幡に隔意を持つ理由、で良いだろう。
平塚は雪ノ下を気遣わしげに見たが、それ以上は何も言わずに去っていく。vol.06, l.0242
夏合宿以降、雪乃に何らかの事情が発生し、平塚がそれを知っている傍証。
「もう次の授業だというのに、まだ誰が委員をやるかグダグダやっていたのでな。だから、比企谷にしておいた」vol.06, l.0368 /やはり嵌められたのか、俺はvol.06, l.0519
平塚は、雪乃の事情への対策として、八幡を文化祭準備委員に据え、奉仕部以外に雪乃と八幡が接触する場所を用意した、とする。但し八幡が文化祭準備委員に就いた経緯に関しては偶然の積み重ねではある。
「あなたらしい理由ね」/「お前はらしくないけどな」/雪ノ下は俺の言葉を完全に黙殺しvol.06, l.0775
但し雪乃が文化祭実行委員会に属した理由、は示されない。雪乃は文化祭実行委員になった理由を答えない。恐らくは故意に推測も許していない。 「あたしもじゃんけんで負けちゃったからさー」
vol.06, l.0487 とあり、偶然の可能性が残る。
昨日の委員会のあと、相模が平塚先生と話していたのはそういうことだったのだろうか。vol.06, l.0821
少なくとも平塚は、委員会運営に失敗した相模に奉仕部を紹介し、仕事、すなわち八幡と雪乃が協力する機会を設けた。
「雪乃ちゃんのためにしてあげられることはしてあげたいんだよ〜」/「……だいたい姉さんが」/「私が? 何?」/「……また、そうやって」vol.06, l.1308
雪乃が考える「……だいたい姉さんが」とは、陽乃が雪乃母に八幡や結衣との交際を知らせたこと、あるいは陽乃が八幡らに雪乃が事故の当事者だと明かしたこと、だとする。
但し、陽乃が考える「雪乃ちゃんのためにしてあげられること」とは、率直に、不足している有志団体を補うこと、だろう。
「今日のこと、お母さんに話したら驚くだろうなぁ……、ね?」vol.06, l.3869
陽乃は雪ノ下母に文化祭での出来事を報告する。それを以て雪ノ下家の雪乃への干渉は終了する。
「今日のこと」は多数考え得るが、いずれにせよ雪ノ下家での雪乃像や八幡像を変えるには充分であろう。
「最高だね」/「雪乃ちゃんにはもったいないかも」vol.06, l.3845
陽乃は八幡を高く評価している。
「ガハマちゃん、やっはろー!」vol.07, l.3499
あるいは文化祭後には陽乃は結衣の呼び方を変える。