やはり比企谷家の倫理観は壊れている。

やはり比企谷家の倫理観は壊れている。

「いろは先輩が真剣に悩んでくれたからこそなのですよ。」 / 「先輩、この子やっぱり倫理観ぶっ壊れてますよ」vol.14.5, l.2602

読者への挑戦状。いろはは小町を「倫理観ぶっ壊れてますよ」と評する。何故か。

ここで、問は

だとする。

である。

いろはは「読者への挑戦状」役を継承する。

いろはは14.5巻内で「倫理観ぶっ壊れてますよ」という言葉を繰り返す。読者はこの言葉の具体的な意味を求めることで物語の隠された真実にたどり着くことができる、という構造である。

本編では雪乃が読者に推理を促す役割を担っていた。本サイトではそれをミステリー用語に倣い「読者への挑戦状」と称する。本文中に現れる雪乃の印象的な台詞、主語や目的語を欠いた理解困難な台詞、それにより強調されている台詞がこの読者への挑戦状である。しかし本編終了以降、少なくともアンソロジーや俺ガイル新では、雪乃はこの読者への挑戦状を示さない。雪乃は八幡と十分なコミュニケーションを保っていて、意思の疎通ができている、という表現だろう。

一方で、アンソロジーいろは篇内では、「今の、翻訳したほうがいいですか?」という台詞が3度反復する。この反復が台詞を強調し、そして最後の台詞が、読者への挑戦状として機能する。

同じく14.5巻での、 「先輩、この子やっぱり倫理観ぶっ壊れてますよ」vol.14.5, l.2602「先輩、この子、倫理観ぶっ壊れてますよ」vol.14.5, l.1720 の反復である。さらに遊戯部が八幡を尊敬軽蔑混じりに評した 「やはり倫理観が終わっているのでは……」vol.14, l.4544 の反復でもある。

本稿はこの「先輩、この子やっぱり倫理観ぶっ壊れてますよ」という言葉を読者への挑戦状として扱い、その言葉の意味を求める。実際に連続する2つの台詞、「いろは先輩が真剣に悩んでくれたからこそなのですよ。」「先輩、この子やっぱり倫理観ぶっ壊れてますよ。」 の間には意味の断絶がある。後者の言葉の意味を求めるということは、この意味の断絶を補う事、である。

いろはの依頼。やがて廃れる新奉仕部からの自身と小町の解放。

いろはの相談の本質は、自身と小町の新奉仕部からの解放の依頼、である。

いろはの悩みとは、

である。

いろはは、これらに基づき、自身と小町とを廃れる奉仕部から解放すべく、八幡に新奉仕部の存続を問う形で、遠回しに八幡らの引退と同時期の新奉仕部の解散を検討する様に訴えた。

なお小町は 一年後、いえ、あるいは半年後、もしかしたら3ヶ月後、こうして部室に一人きりになるという事実にvol.N5, p.065 気づいていて、この時点では だから、少しでもそれに慣れないと。慣れるようにしないと。 を解としている。

八幡らの案。新奉仕部を小町に委譲し、いろはを新奉仕部に引き込む。

いろはの「自身と小町の新奉仕部からの解法」という依頼に対して、3人の反応はそれぞれ

である。であるから、八幡らが選んだ解は、結衣案に等しく、

である。

小町の解。いろはを新奉仕部に巻き込み、新奉仕部に訪れる厄介事に取り組む。

これを受けた小町の行動は、

である。

これらは 「いろは先輩が真剣に悩んでくれたからこそ」vol.14.5, l.2602 、いろはが小町の将来を憂う程に小町を親しく思っているからこそ、取り得た解決法である。しかしその解決法は、いろはの当初の意図である、新奉仕部の解散と自身らの解放とは全く異なる。

であるから、いろはは。

いろはの立場からすれば、小町の解は

であるから、いろはは、自身が見透かされていたことの照れ隠しとして、あるいはさらに八幡らが奉仕部で築いた関係性に対する侮蔑混じりの尊敬の表現として、小町が(表面上は)いろはを犠牲にしたことを指して、「倫理観がぶっ壊れてますよ」、と評した。